1-23:エマニエルの想定外


 只今私はお城の中庭で空に向かって【炎の矢】を連射している。




「って!? どう言う事ですかこれは、アルムエイド様ぁっ!!!?」


「えーと言われた通りに空に向かって魔力が切れるまで【炎の矢】を連発しているんですが。なんか全然魔力減った気がしないんですよねぇ~」



 普通に単発で【炎の矢】なんてものを発射していたら何時になっても魔力が減らない。

 だからアビスに吸われてもなおも漏れ出している魔力分以上を【炎の矢】で消費すればいずれ魔力切れを起こすだろうと思ってやってみているのだけど、全然減らない。

 なので同時に数百の【炎の矢】を出現させて連発してみているのだけど、シューバッド兄さんからもらった杖なんか使っていたらもう魔力吸収できなくなっている頃だろう。

 あれは単発で使う時に威力調整にはもってこいだけど、連発には向かない。



「くっくっくっくっくっ、流石は我が主。これほどの魔法攻撃を成されるとは。これでは我が悪魔の軍団もひとたまりもありませんね」


「ふにゃぁ~。なんか打ち上げ花火みたいだニャ!」


「アルム様、そろそろ終わりにしませんか? 周辺の温度が上がって来ています」



 後ろで見学していたアビスやカルミナさん、マリーなんかが何か言っている。

 うーん、【炎の矢】なんてまどろっこしい魔法使ってないで、魔力消費が大きい【爆裂魔法】でも使おうか?



「アルムエイド様、止めてください! もう結構です、これでは魔力切れを起こす前にこの辺一帯が真夏より暑くなってしまいます!!」


 何故かエマニエルさんも慌て始める。

 確かに、ちょっと暑くなってきた。

 この時期にこの温度はおかしいもんね~。


 今はもうじき収穫祭が行われる秋。

 イージム大陸でも秋には収穫が増えるので、みんなも忙しい時期でもある。


 それなのにまた夏に逆戻りじゃ大変だものね。



 私は空に向かって何百発も打ち上げていた【炎の矢】を止める。

 そしてしばらくするとまた魔力漏れが始まった。


 うーん、だいぶ消費したと思ったんだけどなぁ。



「ア、アルムエイド様、その、魔力が減ったような感じはしますか?」


「ぜんぜん」



 エマニエルさんが質問してくるので素直に答えるとエマニエルさんが額に手を当ててよろける。



「あ、ありえない。無詠唱だけでもすごいと言うのにあれだけの【炎の矢】を同時に何百発も打ち上げ、なおかつ魔力枯渇所か全然魔力減少を感じないだなんて…… こ、これでは古代魔法王国時代の『賢者の石』と同じく無限に魔力が湧き出ているようなモノ……」



 なーんかエマニエルさんはぶつぶつ言っている。

 私はマリーに渡されたタオルと飲み物をもらってのどを潤す。


 正直、魔力が少し吐き出す事が出来て、ちょっとすっきりしてたんだけどなぁ。

 そんな事を思いながらエマニエルさんの前に行く。



「えっと、そうするとこの後どうしましょう?」


「すみません、ちょっと考えさせてください。正直ここまで魔力があるとは思ってもみませんでした。普通はあれほどの魔法を使えばたちまち魔力切れを起こし、場合によっては意識を失うはずなのですが、アルムエイド様にはそれらは見受けられません。しかし、これではアルムエイド様の魔力量が全くと言っていいほど判断できない。一体どうしたら……」



 なんかエマニエルさんはぶつぶつ言い始める。

 

 と、ここでアプリリア姉さんがやって来た。



「アルム君~っ! 今のアルム君がやったの? 凄いね、まるで打ち上げ花火みたいだよね!!」


「お兄ちゃん、花火打ち上げてたの?」



 エナリアまでやって来た。

 そしてアプリリア姉さんはエマニエルさんを見る。



「あ、もしかしてこちらがアルム君の新しい家庭教師ですか?」


「あ、はい。エマニエル=ラダ・ユニウスと申します。あなた様は第二王女様で?」


「ええ、アプリリアと言います。よろしく。それで、アルム君はそろそろお勉強は終わりになりますか?」


 アプリリア姉さんはそう言って期待の眼差しでエマニエルさんを見る。

 エマニエルさんはため息をついてから言う。



「そうですね。本日はここまでとしましょう。いろいろと想定外が多すぎてアルムエイド様にどのようなカリキュラムを組むかもう一度考え直す必要がありますからね」



「そう、じゃぁアルム君、お茶しましょ♪」


 アプリリア姉さんはそれはそれは楽しそうにそう言うのだった。



 * * *



「それで、新しい家庭教師はどうなのよアルム?」



 

 さくっ!



 クッキーをかじりながらエシュリナーゼ姉さんは聞いてくる。


 いや、あなた確か今日は公務に参加しているんじゃなかったの?

 確か外国から大使が来るので第一王女のエシュリナーゼ姉さんが応対するはずだったのに。



「エシュリナーゼ姉さんはアマディアス兄様に全部押し付けて良いんですか?」


「大丈夫よ、むしろ今回の大使はアマディアス兄様に任せないとダメね。なにせこっちが放った『草』を見逃してもらっていたんだから…… まったく、ジマの国って本当にすごいわよね」


 エシュリナーゼ姉さんはそう言ってくいっとお茶を飲む。

 少し苛立っている?



「ジマの国の大使が来ているんですか?」


 気になって聞いてみると、エシュリナーゼ姉さんは私を見て言う。


「そうよ。結局こちらが放った『草』の存在は早々にあちらの方で知られていて、その動向を監視されていたらしいのよ。そしてどう言う意図かを問いただされている状況ね。なので私よりアマディアス兄様に対応してもらう方がいいってわけ。いつものようなお飾りのお仕事は不要よ。って、アルムに言ってもまだわからないかしら?」


 そう言ってまたパキっとビスケットかかじる。


 うーん、ジマの国がこちらの行動を把握してたって事かぁ。

 何となくマリーを見るも、マリーはいつも通りに給仕をしている。



「それよりアルム、さっきのあれなに? 中庭から上空にあんなに【炎の矢】を飛ばすだなんて、まるで花火みたいじゃない!!」


 エシュリナーゼ姉さんは興奮気味に聞いてくる。

 なので私は仕方なくエシュリナーゼ姉さんに応える。


「えっと、僕の魔力量を判断する為に魔力切れまで魔法を使うように言われたんだけど、全然魔力減らないであの状態に…… 流石に周りの温度が上がって来たので中止したけど」


「何それ? もしかしてアルムってあれだけの【炎の矢】を放っても全然魔力が減ってないの?」


「……うん」


 それを聞いたエシュリナーゼ姉さんはにんまりと笑って私に言う。


 

「じゃぁ、使い魔の召喚手伝ってよ。アルムに魔力入れてもらうの私は好きだしね」


「エシュリナーゼ姉さん! アルム君はさっき魔力をたくさん使ったばかりなんですよ!?」


「だってアルムはまだまだ大丈夫そうじゃない? いいじゃない、姉の中に濃厚でたっぷりの(魔力を)入れるだけなんだから♪」


「姉さんがそう言うのなんか悔しいです! アルム君、入れるなら私にも入れてください!!」



 ちょっと待て!

 二人とも言い方ぁっ!!



 またしてもいがみ合う二人。

 もう勘弁してほしいよ。


 私が二人の姉妹ゲンカに頭を悩ませていたら、使用人がやって来てマリーに何か言っている?

 するとマリーは暫しその人と話し合ってからこちらにやって来る。



「アルム様、アマディアス様がお呼びだそうです」


「はい? アマディアス兄様が??」



 一体何の用なのだろう?




 私は首をかしげながらもアマディアス兄さんの元へと向かうのだった。

 

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