1-15:獣人カルミナ


「だから、あたしは使い魔じゃないニャっ!!」




 召喚魔法陣から現れたのは年の頃エシュリナーゼ姉さんと同じくらいの獣人の女の子だった。


 本来召喚魔法で人や亜人の召喚は出来ないはず。

 なのに投入魔力量の多さで呼び出したのは目の前にいる猫の獣人。


 金色の長い髪の毛に、アホ毛が頭頂部で揺れている。

 お約束の頭上には猫の耳があって、腰の後ろからは尻尾が生えている。

 ぴったりとした動きやすそうな衣服でスタイルはかなり良く、エシュリナーゼ姉さんより胸も大きい。

 と言うか、全体的にエシュリナーゼ姉さんより大きい。

 多分百六十センチは超えているだろう。


 美人だけど、勝気な表情でややも釣り目。

 まだ幼さが残る顔だが、どちらかと言うと悪ガキが大人になったような感じ。



「でもあなたは私の召喚魔法でここへ来たのよ? と言う事は私の魔力に引き寄せられてきたのだから、使い魔として私と契約して私の役に立ちなさい!」


「だからお前の使い魔じゃないって言ってるのニャっ!」



 先ほどから話がかみ合わない。

 私はため息を吐きながら彼女に聞く。



「えっと、初めまして。僕はアルムエイド。そっちは僕の姉でエシュリナーゼ姉さん。こっちはお付きのマリー。で、あなたは名前は?」


「ん? なんニャこのガキはニャ? んニャ、これはニャ??」



 ぴくっ!



「がぁきぃ?」



 私がとりあえず友好的に話をしようとしたら、大手企業の若い社員の様に横柄に私を見下すのでマリーが反応した。


「マリー、まてっ! 落ち着いて!!」


 どこからともなくなぎなたを持ち出したマリーを制して、私はもう一度彼女に聞く。



「ここはイザンカ王国のイザンカ城。僕たちは訳あって優秀な使い魔の召喚をしていたの。そうしたらあなたが呼び出された。通常、人や亜人が召喚魔法で呼び出される事は無いはずなのに、なぜあなたが呼び出されたかを教えてほしいんだ」



 マリーの腰に抱き着いて苛立つマリーを押さえつけながらそう聞くと、彼女はため息を吐きながら話始める。



「あたしはカルミナって言うニャ。ノージム大陸の獣人の村の戦士ニャ。ルド王国の遺跡にもぐっていて転移魔法の罠にかかって亜空間に飛ばされたところで、魔力の触手が伸びてきてこれ幸いと掴んだニャ」


 言いながら腕を組んで周りをきょろきょろ見渡している。


 転移魔法の罠って、魔法王国時代の遺跡辺りにあるかなり厄介な罠って本に書いてあったけど、ルド王国?



「ノージム大陸の獣人の村って…… それにルド王国の遺跡って、あそこって確か『狂気の巨人』が封じられていた滅びた王国よね? そんな所にまだ遺跡が残っていたの??」


「ふふ~ん、だからニャ! 獣人の村一番のこのあたしがその遺跡のお宝をゲットする為に未調査の遺跡に先行して進んでやったニャ!」


 エシュリナーゼ姉さんが少し驚いたように聞くと、カルミナと名乗った獣人の女性は腰に手をつき、大きな胸を張りだすように言い放つ。


 

「ふん、大方駆け出しの冒険者か何かですね? 転移魔法の罠など、熟練の冒険者であれば簡単に見つける事が出来ます。どうせ手前にあった宝箱か何かに釣られて不用心に進んだ結果でしょう」


「ぐっ、そ、それはニャ……」


 マリーはとりあえずなぎなたを収め、私を抱き上げながら頬ずりしてそんな事言っている。

 すぐにエシュリナーゼ姉さんがマリーから私を引っ張り奪い取るけど、マリーのその言葉にカルミナさんは目線が泳ぐ。


「こ、これでも銅等級の星二つニャ! もうじき銀等級ニャっ!!」


「銅ぅ~? ふっ、その程度ですか!」


 マリーは名残惜しそうに私を奪い取られてこちらを見ているも、カルミナさんに言われてそちらに顔を向ける。

 そして胸元に手を突っ込んで、大きな胸の間からプレートのペンダントを引っ張り出す!



「銅などごまんといる等級! せめて私の様に金になってからモノを言う事です!!」



 そう言って引っ張り出したマリーのペンダントは金色。

 しかも星が二つも刻印されている。



「き、金等級の星二つぅっニャッ!!」



 それを見たカルミナさん大いに驚く。

 そういえば、マリーも昔は冒険者をやっていたとか。

 冒険者は冒険者ギルドに登録するとああ云う風にランクが分かるプレートを渡される。

 プレートにはその人の情報が記載されていて、何かの場合そのプレートだけは回収されてその冒険者がどうなったかは分かるようになっている。



「マリーも冒険者って聞いてたけど、金等級ってすごいの?」


「金等級……銅、銀、金のランクがあって、各ランクには無星から始まり星三つまでが最高。星三つまで行と上の色のランクへ昇格。マリーの金等級は星あと一つで満杯ね? と言う事は実質冒険者としては最強と言っても過言では無いわね」


 エシュリナーゼ姉さんは私を抱っこしたままそう言う。

 つまりマリーは冒険者の中でも最強の部類と言う事か?

 

「これでわかりましたか猫。さあ、アルム様の御前です、頭を床にこすり付けてひれ伏すがいい!!」


 マリーにそう言われ、カルミナさんはタジタジを数歩後ずさりはするものの、虚勢を張って反論する。



「召喚魔法のお陰で亜空間から出られたのは感謝するニャ。しかしそんなガキに使い魔とされるのは御免ニャっ!!」



「はぁ? あなたを呼び出したのは私よ? 何でアルムの使い魔になるのよ?」


 カルミナさんはエシュリナーゼ姉さんでなく、私の使い魔となる事を拒否するって?

 いや、呼び出したのはエシュリナーゼ姉さんのはずなのに??


「だって、この魔力の触手の出元はそこにいるガキニャよ?」


 そう言って自分の胸を指さすけど特に何も見えない。

 いや、でもこの感じは……



「エシュリナーゼ姉さんに流し込んだ僕の魔力痕?」


「え? じゃぁ、あなたを呼び寄せた魔力ってアルムの!?」


「そうにゃ! だからあたしはお前の使い魔じゃないニャ! でもガキの使い魔になるのは嫌ニャっ! どうせならイケメンのお金持ちの旦那様なら身も心も捧げてもいいけどニャ!!」



 そう言って頬を赤らませて両の手を頬に当てて腰をくねくねと揺らす。 

 いや、旦那様って……




「騒がしい、一体何をやっているんだエシュリナーゼ?」



 と、ここでアマディアス兄さんがやって来た。


「ここから莫大な魔力が漏れ出ていると聞いたぞ? 一体何をやっているんだエシュリナーゼ…… 何者だそいつは?」





「び、美形ニャぁーっ!!!!」




  

 どうやら召喚魔法を使って、私の膨大な魔力が漏れ出して少し騒ぎになったのだろう。

 エシュリナーゼ姉さんのこの部屋からと言うのに気付いて、忙しいアマディアス兄さんが直接様子を見に来たららしい。



「アマディアスお兄様、召喚魔法で引っ掛かった獣人の娘です。どうやらアルムの魔力に引っかかったようで、アルムの使い魔には出来そうなんですが……」


「呼び出したのはエシュリナーゼだが、魔力がアルムと言う事は、魔力供給者はアルムと言う事か。だとすれば契約はアルムとしか出来ないと成る訳か……」


 アマディアス兄さんも魔術師としては博識。

 宮廷魔術師にも劣らぬ知識を持っているけど、父王の補佐をする事が最近は多くなっていて政治の方面で忙しい。



「亜人が召喚されたと言う例は聞いた事がないが、契約が出来なければ元居た場所に返されるのが召喚魔法。どこにいたかは知らぬがそこの者、元居た場所に戻るか? それとも我が弟、アルムの従者として使えるか? 獣人の能力は護衛に適している。主従関係を結べば下手な者をつけるより安心はできる。どうだ獣人の娘よ、アルムの為に仕えてはくれぬか?」



 そう言ってアマディアス兄さんはそっとカルミナさんの手を取り、ぐっと近づく。

 しっかりと周りに薔薇のキラキラエフェクトをつけて!



「そ、そんなニャ////////」


「君の様な能力のありそうな者が我が弟の為に仕えてくれるなら、私も安心が出来るというモノだ。どうかな?」



 ぐいっ!



 アマディアス兄さんはそう言ってもう一つの手をカルミナさんの腰に回し、グイっと引き寄せる。

 この時点でカルミナさんの顔は緩み切っていて、真っ赤になっている。

 その瞳はウルウルとして、アマディアス兄さんの目をじっと見つめている。


 ……これ、落ちたな。


 アマディアス兄さんは周りの女官からもとても人気が高い。

 もちろん貴族令嬢たちからも。

 しかし、何時もクールに立ち回っていて女性たちには一定の距離を保つように接している。

 それがここまで押して来るとは!!



「わ、分かったニャ。契約でも何でもするニャ////////」


「うむ、では誓いの口づけを」



 アマディアス兄さんはそう言って更にカルミナさんを引っ張りよせると、カルミナさんは何かに期待したように目を閉じ、唇を突き出す。


 それを見たアマディアス兄さんは口元だけを二っと笑いに歪ませ、私の首根っこを掴みひょいっとカルミナさんの顔の前に持ってくる。



 ぶっちゅぅ~っ!



「ええぇっ!?」


「んちゅ~♡ 私の旦那様ぁ~ニャ♡」



 しかし、カルミナさんがキスしたのは私の頬だった。

 と、その瞬間、私とカルミナさんが輝き出して、私から延びる魔力の触手見えるようになって、それが輝くを失いながらカルミナさんに向かって消えて行く。



「ふむ、これで契約は完了だ。獣人の娘よ、我が弟の盾となり剣となれ。その生涯我が弟の為に使うがよい!!」


「へっニャ?」


 そうアマディアス兄さんに言われ驚き目を見開くカルミナさん。

 慌てて私から離れ、急いで胸元を開く。

 ぶるんと双丘の谷間が見えて、その左胸の上に刻印があった。



「あ”あ”ぁ”-ニャっ!! 契約の刻印ニャぁッ!!!!」



「あーあ、私が呼び出したのにアルムの使い魔になっちゃった。でもまぁ、獣人ならその能力は確実だからまあいいか」


「アルム様、アルム様には私と言う者があると言うのに……こうなったら新参者を徹底的にアルム様に従うよう教育をするまでです!!」


「うむ、これで下手な護衛より信用できる護衛が出来たな。アルムよ、その娘も今日よりお前の護衛につける」



 悲鳴を上げるカルミナさん。

 あきらめのため息を吐くエシュリナーゼ姉さん。

 イラつくマリー。

 そして、何故か悪い笑顔をするアマディアス兄さん。



 私はカルミナさんを見ながら思う。

 また厄介事が増えたのではと……

 

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