1-10:ジマの国について


「おはようアルム、その後は大丈夫なのか?」


「おはようエイジ、むしろ兄姉たちがね……」



 結局昨日はあろうことか私のベッドでみんなが寝ると言う、もの凄くカオスな状態だった。

 マリーまで一緒になって寝ていて、これ本当に警護かとか思ってしまう状態だった。


 で、朝食に行くとエイジたちが先に食事をとっていた。



「おはようアルム君、聞いたよ賊に襲われたんだって? 大変だったね」


「ああ、可愛そうなアルム、私がずっとそばにいて慰めてあげたいですわ」


 イザーガさんやミリアリアさんもいた。

 流石にマルクス叔父さんはいなかったけど、いとこ一家は私を見るとそう言って心配そうにしていた。



「ミリアリア、アルムにはこの私が付いているから心配は無用よ?」


「そ、そうです! アルム君には私だってついてます!!」


 が、朝からいがみ合っていた二人の姉は、今度はミリアリアさんにその矛先を向ける。


「エシュリナーゼ姉さん、アプリリア、私の魔法の腕はご存じですわよね? 私がいれば賊の一人や二人すぐにでも殲滅して差し上げますわよ!」


 しかしミリアリアさんは真っ向からエシュリナーゼ姉さんとアプリリア姉さんにぶつかる。



「な、なによ少しくらい私たちより魔法が上手だからって!」


「ま、魔法ならアルム君の方がすごいです!!」


「あらぁ、弟君に助けを求めるのですの?」



 カッ!


 どんがらがっしゃ~ん!!



 うっわぁ~

 ミリアリアさんと姉さんたちの背景が真っ暗になって何故か虎と龍が対峙してるぅっ!


 私は慌ててそれをやめさせようとすると、静かな声がそれを制する。



「やめないかお前たち。今はいとこ同士で争っている場合ではないぞ?」



 見れば入り口にアマディアス兄さんが立っていた。


「やぁ、アマディアス、おはよう。それで賊は捕まったのかい?」


「イザーガ、話くらい叔父上からもう聞いているのだろう?」


 アマディアス兄さんがこちらにやって来るとイザーガさんは軽く手を振ってそう言う。

 しかしアマディアス兄さんは表情を変えずカツカツと歩いて来て席に座る。

 すぐに給仕がアマディアス兄さんの前に朝食を運んでくるけど、アマディアス兄さんはそれらに全く手をつけずにお茶だけ飲む。



「アルムが襲われた。これは由々しき事態だ。もしジマの国にアルムを害する意思があれば出陣をする」


「おいおい、穏やかじゃないな。国王はそんな事を了承したのかい?」


「父上は私が説得する。レッドゲイルも手を貸してほしい」


 アマディアス兄さんがそう言うと、笑顔でいたイザーガさんが無表情になる。


「相手はジマの国だぞ? ジマの国の騎士は世界最強。我々イザンカの兵では太刀打ちできんぞ?」


「『鋼鉄の鎧騎士』がある」


「だがあちらにはその『鋼鉄の鎧騎士』すら紙屑の様に焼き払い、引き裂く『女神殺しの竜』がいるんだぞ?」


「分かっている、だから伝説のオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を出すんだ! 世界に十二体しかないと言われる伝説の『鋼鉄の鎧騎士』であれば太古の竜でさえ傷つけられるはずだ。現にあの赤竜を伝説のティアナ姫の駆る『鋼鉄の鎧騎士』で倒したと言うではないか!!」


 うわぁ。

 既にジマの国と戦争する気満々?

 アマディアス兄さんは目が据わっている。



「とは言え、まだジマの国の仕業とは決まっていないのだろう?」


「それは……」



 お茶を口に運びながらイザーガさんはそう言う。

 流石にそれにはアマディアス兄さんも言葉を濁す。



「気持ちはわかる。自慢の弟君が襲われたんだ。しかし早合点で国が傾くような事はいくら君でも早計過ぎると思うがね」


 そう言って席を立つイザーガさん。

 それにつられてミリアリアさんとエイジも立ち上がる。



「我らレッドゲイルはイザンカの一大事には勿論手を貸そう。しかしいくら可愛らしいアルム君の為とは言え、確証も無い事に動く訳にはいかない。君だってそれは分かるだろう? いつものように少し冷静になった方がいい」



 それだけ言って彼らは行ってしまった。

 エイジも私をチラチラと見ながらだったけど、イザーガさんに着いて行ってしまった。 


 残されたアマディアス兄さんは大きくため息を吐いてから椅子に座り直す。



「まったく、私としたことがイザーガに悟らされるとはな……」


「アマディアス兄さん……」


 

 アマディアス兄さんの顔には心労の色が見て取れた。

 いつもは確かに冷静沈着、考えを表情に出すような事は無い人なのに。


「アマディアス兄さん、そのジマの国ってそんなに強い国なんですか?」


「アルム…… お前にはまだ早いと思ったが話しておくのもやぶさかではないだろう」


 そう言ってアマディアス兄さんはジマの国について話始めるのだった。



 * * *



 ジマの国。


 その建国は特殊で、初代国王はドラゴンニュートだと言われている。

 

 ドラゴンニュートとは見た目はほぼ普通の人だが、竜に変化できそして膨大な魔力を持ち、人とは比べ物にならない程の力を持っていたそうな。

 しかし色々あって、自国の者に殺害され、その血は受け継がれてはいたものの今では王家や家臣に竜の血が入ってはいるがほとんどその力を失っているらしい。


 そして、何故に「女神殺しの竜」がジマの国の守護神となっているか。

 それはその初代国王の母がその龍だと言われているからだそうだ。



 いやいやいや、なんか神話とあれがごっちゃになって前世の私の国みたいになっちゃってるよ。

 そもそも、そのドラゴンニュートとか言う人って子孫残せるの?



 色々疑問はあったがアマディアス兄さんの話は続く。


 そして約千四百年前、この世界に魔王の力によって「鋼鉄の鎧騎士」が生み出されたと言う。

 もっとも、その魔王自体は元は人間でかなり優秀な魔法使いだったらしい。

 その魔法使いが「鋼鉄の鎧騎士」と言う戦争自体を覆す程の魔道兵器を生み出したわけだ。


 そう言えば私はまだその「鋼鉄の鎧騎士」というモノを見た事が無い。

 話しでは聞いたけど、身の丈六メートルくらいある巨人で、鍛えられた騎士がその鎧に乗り込んで操作するそうな。

 その力は絶大で、巨人族は勿論竜の中では下位に属するも、地竜ですら倒せると言われている魔道兵器らしい。



 ううぅ、多分前世の男の子が聞いたら目を輝かせて聞き入るだろう。

 だけど元女の私にはピンとこないはずが、今のこの身体はそれに反応してしまっている。

 正直見てみたい!!


 やっぱり、性転換してしまって思考が男の子に引っ張られてしまうのだろうか??



 で、話はそれたもののその「鋼鉄の鎧騎士」が戦場に現れ、現代ではその「鋼鉄の鎧騎士」で戦争の決着をつける事もしばしあるそうだ。

 なにせ剣の一振りでゆうに騎士の十人くらいは吹き飛ばす化け物だ。

 まともに相手するなら数百人でかからなければならないらしい。

 

 そんな「鋼鉄の鎧騎士」が我が国は二十体と、封印されたオリジナルとか言うのが一体存在するとか。


  

 だが、相手国にはそんな「鋼鉄の鎧騎士」すらゆうに凌駕すると言われている「女神殺しの竜」がいる。

 先ほどの話ではないが、ジマの国の王家等は竜の血を引く。

 結果子孫たちを守るためにその「女神殺しの竜」はジマの国の守護神となった。


 ジマの国に害を及ぼすモノがいる時、またはジマの国が窮地に陥ると必ず現れ、その力を振るうと言われる黒い竜。

 それがジマの国の「女神殺しの竜」、黒龍様とか言うやつらしい。



「黒龍様は慈悲深きお方、アルム様を害するとは思えません」


「それは黒龍の考えだろう、マリー。しかし国としては別の意図があるかもしれんだろう?」


 アマディアス兄さんの説明に思わず元ジマの国の騎士であったマリーは口を挟む。

 アマディアス兄さんはそれに嫌な顔をせずに私見を言うと、マリーはやはりしっかりとアマディアス兄さんを見ながら言う。


「それゆえに分からないのです。確かにあの賊はローグの民に見えました。が、必ずローグの民である確証は有りません。何か、何かよからぬことが裏で動いているのでは……」


「それがアルムを殺害しようとする意図と?」


「はい。ですのでジマの国の知り合いには既に探りを入れています。あの国が今どうなっているかを」


 そのマリーの言葉にアマディアス兄さんは暫しマリーをじっと見つめていたが、不意にお茶に手を伸ばし、一気に飲み干してから立ち上がる。



「報告を待とう」


「はっ」



 それだけ言うとアマディアス兄さんはこの場を離れた。

 



 私は退出するアマディアス兄さんにずっと頭を下げているマリーを見る。

 そしてジマの国と言うものに、いや、自国を含めて周辺国と言うモノにも興味を感じ始めるのだった。 

 

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