第13話 館山涼子はお姉さんになってみたい

「はぁ」


「柏っち。どうしたんだい。ため息は幸せを逃がすよ」


「おお、館山。実はな――」


「どうせまた演劇部のことでしょ」


 館山がそういうと柏はお見通しか、と軽く笑った。

 そして館山も得意げに笑みを浮かべる。

 二人の中にある阿吽の呼吸であった。

 柏は一年生たちにもこういう息の合ったことできればと思う。


「この涼子お姉さんに話してみなさい」


「お姉さんって同じ年だろ」


「柏っち、こういうのはノリだよ」


「そういうものか」


「そういうもんだ。次移動教室だし、歩きながら話そっか」


「そうだな」


 二人は教科書などを持って教室を後にした。

 相変わらず、恋人のような距離感を保ちながら歩く。


「で、悩みの種は後輩かい?」


「さすがだな。その通りだ」


「ふふふ、涼子お姉さんにかかれば一目瞭然なのだよ」


「何というか、うまく回らんのだよ。チームワークがないわけじゃないんだが、我が強かったりまとめ役がいなかったりしてな。俺らの代に比べて人数も多いからか」


「むうむう、なるほど」


 それをいうなら、うむうむだろうと柏は心の中でツッコミを入れる。

 小ボケをいちいち拾わないのだ。


「柏っち。いいかい? 後輩のことばかり気にしているけど、演劇部に柏っちや成田っち、松戸っち。それに先輩たちもいるんだから、足りないところは先輩が埋めればいいんじゃない?」


「だが、一年生たちを成長させるために――」


「柏っち。人は勝手に育つもので意図して育てようとするものじゃないよ。人の道を外さない限り、その人が望んだ道に進ませるべきだよ」


 どこか諭すように、館山は語った。

 確かにその通りかもしれないと柏は自分の考えを改めた。


「……ああ、そうだな」


「あれ? ひょっとして今涼子お姉さんの名言出た?」


「ああ、出た出た」


「なんだよぉー、もっと褒めてもいいんだぞぉ」


 そう言って、柏の肩に体当たりをする成田。

 そのまま階段を下りている時だった。


「柏、先輩……?」


 聞き覚えのある声が、下の方から聞こえた。

 そこには体操服の流山、鎌ヶ谷、そして柏の知らない褐色の女の子(白井)がいた。

 そして流山は驚きの表情をしていた。


「おお、流山に鎌ヶ谷か。次体育か?」


 柏があまりにも自然に話す。

 その横ではヤバいと思い、少し柏から距離と取る館山。

 鎌ヶ谷と白井は小さい声で、「もしかして……」「元カノ……」と呟く。

 あまりにも何もなかったかのように話す柏を見て、流山は睨みながら言った。


「はい、次は体育です。柏先輩たちは移動教室ですか?」


「あ、ああ、そうだ」


 なぜ睨まれているのか分からない柏は困惑しながら答えた。


(なんだ!? なぜ睨まれている!?)


(そういうところだよ、柏っち)


(なん……だと……!?)


 もはやアイコンタクトすらせずに、脳内で話し出す二人。

 流山が睨みながら、柏に話しかける。


「お二人は……その、ずいぶんと距離感が近いんですね」


「ん、そう「そんなことはないよ! たまたまだよ! ね! 柏っち!?」あ、ああ」


 柏が何かを言う前に、館山が割込み無理やり同意させた。

 しかし、流山は納得できなかった。


「そうですか。たまたまですか」


「そう! だから流山さんもそんなに気にしなくても……」


 その時、予鈴のなる音が聞こえた。


「あー! 柏っち! 急がないと! ほら、行くよ!」


「お、おう。じゃあな流山、鎌ヶ谷。授業遅れるなよ」


 そう言って、走り出す柏と館山。

 後ろの方で、「凛ちゃん。どんまい」「アレは強敵だねぇ」という流山を励ます声があったが柏には聞こえていなかった。

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