16 証拠さえ無ければ犯罪じゃな……ぎゃふん!
「今、貴方から貰った情報で全ての疑問点が払拭されたよ」
ベアトリーチェの傍に寄ろうと、一歩踏み出すと、突如、黒いローブにオペラマスクをした集団に道を阻まれた。
振り向けば、同じような服装の人々が数え切れないほど並んでいる。
町で見かけた人数より遥かに多い。
「ベアトリーチェちゃん――いや、ベアトリーチェさんか。シアン君は貴方の事を『同世代の女の子』だと表現していたけど、実際は貴方の方がよっぽど年上だったということだね?」
ベアトリーチェは、部下を軽く突っついて退けると、こちらの前まで歩み寄ってきた。
「せいかーい。強いて言うなら多分、貴方より年上だけどね」
「もしかして、シアン君と出会う前から貴方は
ベアトリーチェは何も答えずに、ただ、ニヤリと笑った。
ならば、
黄金色の瞳と真っ直ぐ視線を交わす。
イエローダイヤモンドの様に輝くその瞳には、一見、幼子に見えるその容姿とは、不釣り合いなほどの、鋭い眼光を放っている。
「上から貰った情報によれば、コハクさんはあの裁定神の眷属らしいじゃん」
「どこでそれを……」
「記録上では裁定神の眷属は一人も現れたことが無かった事になっている。今更、なぜ眷属を遣わしたのか……神の御心は計り知れない。でも、一つだけ、目的に心当たりがある」
「答えてみて」
「散らばった因子の回収でしょ?」
因子が……散らばった?
つまり、エレシュリが持っている物以外にもアルシエラの因子は存在する?
「ご明察。大体合っているよ」
ベアトリーチェは「フンッ」と鼻を鳴らすと、口角を少し上げた。
「古来より裁定神が権限したのは、人間が善悪の基準を見失った時だった。されども大厄災以降、裁定神は沈黙を続けていた」
「何が言いたいの?」
「先に結論だけ言うと、我々、
なんか壮大な話になってきた。
「はるか昔、裁定神は世界中の全種族にこう仰った『神は君達の暮らしの守護者だ。逆も
なんだその厨二病地味た台詞は。
「現に、以前、裁定神が顕現した際には、現在の守護神霊システムが完成した。そして、今回、コハクさん――貴方が現れた事でまた、世界の法則が変わるでしょう」
「貴方の話を聞く限り、前回、アルシエラ様が現れた時は良い変化が起こったよね。なら今回も……」
「今回も良い形になるとは限らないよ。裁定神は世界の守護者であって、民は守らない」
「だからって……ベアトリーチェちゃん。いいえ、
白髪の少女は愉快そうに笑う。
揺れた髪の隙間からは、エルフの様な尖った耳が見えた。
「そうだよ。当たり前じゃん。だって私達は、『神殺しの槍』だもの」
「もし、私が貴方の提案を拒否したら?」
「あれぇ? 聞いてくれないの?」
「こちらにも、事情がありますから」
「なら仕方無いねぇー。あまり、手荒な真似はしたく無かったけど……」
ベアトリーチェが右手を振るうと、紅色の片手剣が現れた。剣の周りには、緑色の炎が渦巻いている。
どうやら、簡単には帰してくれないみたい。だからと言って、戦いに不慣れな私が、ベアトリーチェに勝てる自信は無い。
――だったら、戦いが始まる前に決着をつけるしかないよね!
サイドステップで回避する様な動きを取る。しかし、あくまで、『する様な動き』だ。実際に避けるつもりは無い。
こちらの意図など知るよしも無いベアトリーチェは、一瞬、動きを硬直させる。
よしっ! 隙が出来た!
「
杖を構え、全力で呪文を唱える。
すると、先についた惑星の模型から光を纏った水が噴出された。
いかにも強力そうな
万が一、ベアトリーチェが剣を手放さなくても、隙さえできれば――。
「ふぅん、これは予想外だねぇ」
ベアトリーチェが不機嫌そうに眉を寄せたその途端、杖先から出る水の勢いが強くなる。まるで、激流の様に。
「私、コハクさんについて色々誤解をしていたみたい。今回は撤退しようかなぁー」
黒衣の端から現れた真っ白な手が指パッチンをすると、ベアトリーチェはおろか、この場に居た全ての
聖堂に静けさが戻った――はずだったのだが、何故が杖先から出る水が止まらない。
何やら大きな物音と共に、水が止まった。
嫌な予感がするが、恐る恐る目を開ける。
すると、聖堂の壁……その一部が大破している様子が目に写った。
水も圧力を上げればコンクリートすら破壊出来ると聞いたが、まさかここまで威力が上がるとは……。
「証拠隠滅しなきゃ……」
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