第12話 とある騎士の一生
起きてしまった。
このソファーというのも、
ドラゴンに吹っ飛ばされた
うちの家のベッドよりは柔らかいが、
如何せん狭くて寝返りがうちづらい。
小便にでも行こう。
そう思って立ち上がると、
時計の秒針に混じって足音が聞こえてきた。
徐々にこちらに近づいてくる。
「ユウキ」
「わっ」
ユウキが本を持ってやってきた。
「おっと、驚かせてごめん」
「ううん、いいよ」
「トイレかい?」
「ううん、ほんをもどしにきたの」
「そっか」
律儀な子だと思いながらトイレに行く。
この家のトイレは本当に凄い。
臭いもしないし、見た目も綺麗だ。
それに拭く用の紙もあるとい贅沢。
肌触りのいい拭くことに特化した紙だが、
拭くだけでは恐れ多くなるほどの逸品だ。
出来れば、ずっとここに住んでいたい。
明日頼んでみよう。
レバーを引いて水を流す。
この仕組みも理論上でしか
聞いた事のないものだ。
それよりも遥かに
すごい仕組みでできているのかもしれないが。
トイレから出て、ソファーに戻る。
既にユウキはいない。
戻ったのだろうか。
それにしても起きた時よりも。
風がよく通るような気がする。
朝、誰かの忙しない足音で目が覚める。
音の重量感からして大人、メグミだろう。
何かあったのだろうか?。
起き上がり、立ち上がる。
そして小走りのメグミと鉢会う。
「メグミさん」
「起きたんですね」
少し苛立っているようだ。
「一体何が?」
「それが…勇気が見当たらなくて」
「何…?」
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう」
この村に来て数日が経った。
辺境での赴任を王国から依頼されやってきたが、
未だ好感を持ってくれているのは子供達だけだ。
大人達からは奇異の目で見られている。
やはり常在戦場として
常に甲冑を装備し帯剣するのは、
悪い印象を与えるものなのかもしれない。
何か手柄を立てれば信用を勝ち取れるだろうか。
そんなことを考えているうち、
朝の見回りが終わった。
今日も異常なし。
慣れない家路を辿り、帰宅する。
「いてっ」
扉を開けて一番に、誰かの声がした。
招き入れた覚えなどない。
真正面には誰もいない。
少し下を見れば、尻もちを着いた少年がいた。
「へへ…ばあ」
密入国者だろうか。
見慣れない服を着ている。
まあ私が把握しきれていない村民というのが
妥当だろう。
「坊やどこの子だい?…おっと」
脚を抱きしめてきた。
「あいたかったぁ」
かわいい。
「ははは、そうかそうか」
少年の頭を撫でる。
艶のある混じり気のない黒髪。
この村の人間にしては少し珍しい。
「んふ〜」
ご満悦のようだ。
「で、どこの子だい?」
「えと…んーわかんない」
「分からないのか?」
「ん」
まあ見たところ
まだ野良仕事も出来なそうな歳だし、
そういうこともあるか。
「お腹空いた」
「ん?まだ朝飯食べてないのか?」
「うん」
「なら、食べていくといい」
「やったぁ」
ユウキは見つからなかった。
代わりに、
例の地下室で私のものと
似たような本が見つかった。
題名は『とある騎士の一生』。
本を見た瞬間メグミは、
しまったという表情をしていた。
何が起こったのかは見て取れる。
ユウキがまた、あの世界に行った。
メグミは地下室への鍵は金庫に格納したし、
『とある騎士の一生』の原本の所在は
誰も掴んでいなかったと言っていた。
今更その言葉にどんな意味を持つかは
定かではなかったが、
慰みの言葉をかけずにはいられなかった。
「はぁ…」
朝食も食べずに、ずっとあの調子だ。
逆に私は、落ち着いていた。
きちんと朝食を食べ、
用も足したし着替えも済ませた。
何せ、やることは決まりきっているのだから。
祝福されるかは分からなかいが、
その決まりきったことを
メグミに告げようと思う。
「これ「あの」
遮られる。
「私は勇気を助けに行きたいです」
彼女は立ち上がり、こちらを向く。
「ついてきて、もらえますか?」
あの調子だったのは、
覚悟を決めていたからなのかもしれない。
「ええ、もちろん」
早速地下室へと向かう。
原本を持って赴いたが、特に何もない。
『ボシューーー』
「!?」
機械から白煙と空気が溢れ出す。
メグミの手を見ると、
鍵らしきものを掴んでいた。
「勇気がこの部屋に入った時の状況は、
おそらくこんな感じなんだと思います」
金庫から鍵を取り、
地下室の鍵を開けて機械へと至る。
だいたい合っている。
「だからこの機械に鍵を刺せば、
何かが起こるはずです」
「じゃあ…試してみよう」
「はい」
『ガチ』
「!?」
メグミが鍵を挿入した瞬間、
機械が淡く光り始める。
『プシューーー』
そして異音とともに薄紫の煙を吐き出し始めた。
「うっ」
吸っていいものかと袖で口を覆ったが、
既に遅かった。
若干臭い。
そして直ぐに、強烈な眠気に襲われる。
「ぅぅ…」
隣を見ると、メグミも同じ症状に陥っていた。
果たしてこれで、合っているのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます