第10話
いつもの待ち合わせ場所。
私はスクールバッグを肩にかけ、ちび助は大きなリュックサックを背負い、一緒に帰宅する。
「私、スーパーに寄るけど?」
「え? 当然、私も寄りますよ。先輩だって、深雪先輩へのお見舞い品買うんですよね?」
そもそも、お見舞いをする必要などないと――私は何度も言っている。
だから、私は特に返答することなくスーパーの中に入った。そして、かごを手に取る。ちび助も後に続いた。
私は今日の特売を見て回る。献立が決まると必要なものをかごの中に入れた。
「いつも思いますけど、凄いですよね。特に悩む様子がないんですから。何を作るかはお店に入ってから考えるんですよね?」
「だって、何が安いか分かんないからね。まあ、こんなのはただの慣れだから」
「何事も、慣れるまでが大変かと思いますけど?」
まあ、確かにその通りだ。
「奈々先輩は、何を買っていったほうがいいと思います?」
「私なんかに聞くより、スマホで本人に聞いたら?」
「深雪先輩が素直に何が欲しいかなんて、言ってくれる訳ないじゃないですかぁ」
よーく分かっていらっしゃるようだ。
「それに、サプライズの方がきっと喜びますよ。そして何より、ちょうど欲しかったものを私が買っていけば――運命を感じて頂けるかもしれません」
ちび助は顎に手をやり、ニヒルな笑みを浮かべた。
「で、奈々先輩は何にするつもりですか?」
「だから、何も買わないって」
「本当ですか? 抜け駆けをするつもりじゃないですよね?」
ちび助はジト目を向けてくる。
「本当だって何度も言ってるよね? あんまりしつこいと、いい加減怒るんだけど」
「すみません。以後、気をつけますのでどうかご容赦を。――とは言え、すでにもう怒ってますよね?」
直ぐに謝ってくる。
しかし、あまり真剣味は感じない。
最後の余計な台詞に私はイラッとしたため、ちび助の頭を軽く小突いた。
「な、何で殴るんです?」
ちび助は頭を押さえ、抗議の目を向けてくる。
「だって、腹が立ったから」
「なんと理不尽な!」
大げさに反応された。
絶対にわざとだ。
馬鹿にされているとしか思えない。
私からしたら、こいつの存在そのものが理不尽だと思う。
「私の可愛い頭に触れたんですから、奈々先輩も一緒に考えてくださいよぉ」
「いや」
「本当に冷たいですねぇ、奈々先輩は」
なんだかんだでわざわざ相手をしてあげている私に――とんだ言い草である。
「あ、ちょっと待ってください」
ちび助が止まる。
デザートコーナーだ。
私は一瞬、悩んだものの足を止めてやった。
「やっぱり、ゼリーとかですかね? でもなぁー、あまりにも定番すぎるので――普通に先輩のお母さんが買ってきてそうなんですよねぇ」
うむむ――と、ちび助は悩みだす。
そして、ひとつの商品を手に取った。
「あ――」
私はつい、声をだしてしまう。
「どうかしました?」
「……何で、それを選んだの?」
ちび助が手に取ったのは、少しマイナーなカップヨーグルト。
「私が熱を出したときには、いつもこれなので。もしかして、何かまずいですかね?」
「……別に、いいんじゃないの」
まさか、深雪の好きな物を選ぶとは思わなかった。
「そうですか? では、これにします」
ちび助は手に取った物をかごの中に入れた。
「で――本当に、それにするつもり?」
「だって、奈々先輩がそれでいいんじゃない? と、言ってくれたじゃないですか」
「少しは疑ったら? もしかしたら、深雪の嫌いなものかもよ」
「奈々先輩は意地悪な人ですけど、深雪先輩のことに関しては――私、信用してますから」
そう言って、ちび助は笑った。
何となく、腹が立ったので、デコピンをかました。口喧しく文句を言われたが、無視することにした。
その後も、ちび助は色々とかごの中に入れた。
風邪のときにはこれがおすすめだとか、色々と自慢気に語ってくれた。
うざい――と感じたものの、大人しく話を聞いてやることにした。
私はエコバッグを片手に、ちび助はビニール袋を片手にスーパーから出た。
少しだけ重くなった荷物を持ち、家まで歩を進める。
「そう言えば、奈々先輩が待ち合わせ場所で私を待っていてくれたときですけど、何かずっと睨んでいた人がいましたよ。――心当たりとかあります?」
そんな心当たりなど――――あるっちゃ、ある。
「もしかして、髪の後ろに少し大きめな黒いリボンをして、細身で――黒いストッキングを履いてた?」
「あ、そうです。そして、めちゃくちゃ美人でした! でも、凄く怖かったんですけどぉ。で、奈々先輩は何をやらかしたんです? なんなら、謝るの手伝いますけど」
私は、幼稚園児か。
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