ヒヒイロノイト ―Puppet of Cocoon―

手嶋柊。/nanigashira

Prologue:触れられない繭について

 電波塔の上には広大な“繭”があり、楕円の直径は狭くても2kmに及ぶ。

 白亜のそれは首都を象徴する塔の直上へある日現れ、以降も空をたゆたっている。

 そこにあることを万人が見届けているにも関わらず、それは光学を始めとする人類のあらゆる解析と干渉を拒絶した。機械や映像として、記録が取れない。

 加えて、肉眼には見えるのに触ることもできない。

 ヘリで近づいてそれに触れよう企画ツアーなんてものも、10年近く前は盛んに行われていたほどだが、厳密にはわけだ。

 ――世界にそれが現れ、かれこれ30年近く経つが、人間もまた世代を交代するのだから緊張感が緩むのは必然と言えよう、ところで一変する出来事はそんな頃に起きた。

 とある軍事独裁政権が収める内陸国に現れた同様のもの、国軍はその未知の異形を排斥するなんらかの手立てを講じ、結果国土が一夜にしてまるまる消失し、遺ったのはバクテリアすら住まない死の湖……なんてことが起きたなら、それまで繭を情景として親しんでいた層もそれを表立って口にできなくなった。

 繭は人類に有益ななにかではないのだろう、というより、人智ではあの超常を理解しえない。ゆえに人類は、あれの正体を暴くことを保留し続けた。

 されど、のっぴきならない事態は迫る。

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