第3話
華蓮に麗奈の話を打ち明けたとき、彼女はこう言った。
「私なら、そこまで思われていたら心を開くけど、なんで麗奈ちゃんはそんなに頑ななんだろうね?」
「言われた言葉で一番傷ついたのは『抱かれる想像ができない』だったね。そういう言葉を言われたのは生涯で初めてだし、自分なら本人に向かって言えない言葉だから、住む世界が違うなって思ったかな」
「そうだね。私もその言葉を言われたことないし、言ったこともない。言った側は、たぶんそれほど傷つける言葉だとは思っていないんじゃないかな」
「だと思う。こういう言葉は、言われた側が覚えている言葉なんだと思う」
暫くの沈黙があってから、華蓮が続けた。
「でも、麗奈ちゃんが羨ましいよ。そこまで想われるなんて」
「そうなのかな」
「うん、たぶん麗奈ちゃんは、内心慕われている自分が嬉しいんだと思う。嫌なら離れているはずだし、何だかんだ言っても距離を保っている。そういうのって、ちょっとずるいなって思っちゃうこともあるけど、羨ましい」
「俺からしたら、複雑な心境なんだけどな」
「まあ、そうだろうね」
麗奈の過去の恋愛は普通ではなかった。彼女に近づくたび、聞かされる話に何度も心が折れた。例えば、ナンパで始まった彼氏が実は風俗業に関わっており、彼の職場でバイトしていた時にオーナーから5万円を見せられて夜の相手をしろと言われて応じたという話を聞いた時、信じられない気持ちだった。
今考えれば、麗奈がこういう話を私に打ち明けたこと自体異常だったが、当時の私は彼女に惚れていたため、冷静に受け止めることができなかった。
私が気持ちを打ち明けたとき、麗奈には既に日本人の彼氏がいた。それを知ったときもショックだったが、諦められず彼女の話を聞き続けていた。彼女は私を男として見ていなかったからこそ、他の男の話を平気でしていたのだ。
彼と付き合い始めた当初、麗奈は自分の過去を隠すためにぎこちなく振る舞ったと打ち明けた。その話を聞いたとき、私の心は砕け散った。なぜすぐに麗奈から離れなかったのか、今でも不思議に思う。
そんな時期、私は彼女を追うのが無駄だと感じ、華蓮にその話を打ち明けたのかもしれない。華蓮とはプライベートな話もするようになり、彼女も自分のことを話してくれた。
華蓮は同期の新庄隼人に恋心を抱いていたが、隼人には好きな女性がいたことを知っていた。
その頃、涼介が帰国し、華蓮は彼に隼人への気持ちを打ち明けたようだ。嫉妬に狂った涼介は怒りを爆発させ、DVに発展したこともあった。華蓮は別れを決意し、別れる日に一樹に助けを求めた。私たちはただ外で彼女の無事を祈っていた。
それから1週間後、気づいた時には涼介は大学から姿を消していた。
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