14-2

 

 そして彼女の従者が二人、追従してくる。

 自らの予想どおりに事が運び、満足げな彼はその、自らよりも一回りも若い女騎士の娘に、揶揄いを含んだ問答を仕掛ける。


「まずはその理由から伺おう。ウラヌスの娘よ」


 「それは」と歯切れ悪く言いかけた馬上の彼女に、手をかざす。


「なるほど、どうやら重要なことのようだ。理由などは後で正式に文書で尋ねるとしよう。

 だがな、昨日捕縛したこの男はただの旅の者であるようだから、その身の安全を担保するものもない。それを何の保証もなしにあなたに預けるというのは大変に心苦しい」


 白々しい表情で、彼はフレキの身を案じる。面くらった彼女は、一呼吸おいてその意図を読み取る。


「当然、その身柄を丁重に扱うと約束しましょう。虜囚の扱いは騎士団の共通の基準に従いましょう」


「そうかい。

 ならば、こちらとしては言うことはないのだが。今しがた、川に落ちてな。せめて、こいつの服が乾くまでここで待ってやるといい」


「急いでいるの。悪いけれど、早く」


 彼女がそう言うと共に、従者が馬を降りる。


「おいおい、いまさっき『身柄は丁重に扱う』と言ったばかりだろう」


「別に乱暴になんて」


 ばつの悪い顔を隠しつつ、彼女は騎士団の法に衣服を脱がして連行してはいけないなどというふざけた律なかったはずだと、少し見当違いなことを考えている。


「隊長同士、腹を割って、落ち着いて話でもしようじゃないか」


「はあ、分かった。半刻だけ待つわ。

 無理に反抗するよりも、あなたに従う方が得策だわ」


 彼女も下馬して、川のほとりに腰掛ける。

 

「ねぇ、あなたは一体どうしてタテの川にまで水浴びしにきたの?その、彼を連れて」


「それは、騎士団の隊長としての質問か、それともウラヌスの領主の娘としての問いか」


「どちらでもないわ。わたしはサブーフほど頭が切れるほうでも、あなたのように腹芸が得意なわけでもないから。

 特に他意はないし、別に答えてくれなくても結構よ」


 その2人の騎士は目を合わせることもなく、お互いにかなり一方的な会話を続ける。


「ウラヌスの娘か、それかサブーフの奴が追ってくることは分かっていたからな。

 聖都の中では誰が聞き耳を立てているか分からん。だから、こうやって人気のない場所で交渉に応じてやろうとしたまで」


「───我らが主人は、あなたに協力を依頼するように仰られた。悔しいけれど、執政官を相手取るのなら、あなたのような知略に優れた仲間が必要だわ」


「そうかそうか。先王といい、一族は常に部下を見る目がある。

 が、そのせいでミネイなどという大狸を宮中へ招き込んでしまったわけだが。

 いや、よそう。現状を嘆いていてもしかたがない。それで、あのお方からの連絡は?首尾はどのように?」


「すでにサブーフが計画を固めているわ。あとは、そこの」


 彼女は再び川に放り込まれるフレキを指差す。


「おい、ウラヌスの娘。

 お前もあの予言を聞いたか?」


「ええ、半信半疑ではあるけれど、我らが主人がそれを信じるのなら、わたしもそうするわ」


「どれほど愚かに思えるものも、視点を変えれば真実であったりする。それを見通すのが、君主の資格なのだろうが。

 俺にはあいつが聖都を救うとは到底思えないんだがなぁ」


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