第44話 秀頼 伊勢に現る 改訂版

※この小説は「続 政宗VS家康 秀頼公諸国巡見記」の改訂版です。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


 空想時代小説


 伊賀上野から伊勢に出た。船で三河に行こうと思い、長太ノ浦(なごのうら)(現在の鈴鹿市)までやってきた。家康公の伊賀越えの旅路をたどろうと思ったのである。家康公は途中、一揆勢に襲われたりした大変な旅路であったが、秀頼の旅は快適だった。だが、ここで足止めをくった。嵐にあったのである。旅籠は船止めにあった旅人たちで満杯だった。仕方なく秀頼と大助は百姓家に宿をとった。そこにも先客があり、寝床はわら小屋となった。何年ぶりかのわらの寝床であった。

「殿、こんな宿しかとれず申しわけありませぬ」

 と大助は恐縮している。先日まで伊賀上野城主だった秀頼にわら小屋で寝させることになったからである。

「いやいや、これぞ諸国巡見のだいご味じゃ。吉野の馬小屋は馬糞くさくてたまらんかったが、ここはまだましだぞ」

「ここはわら小屋だそうです。湿っぽいのは雨のせいですかな」

「だろうな。寝られるだけましか」

 と言っているうちに寝入ってしまった。


 翌朝起きると、まだ雨はやんでいなかった。

「今日も船は出ずか・・また、わらの布団だな」

 と二人でいると、そこに二人の侍がやってきた。

「秀頼公と真田大助殿とお見受けする。いかがでござるか」

 と礼をしてきた。隠す必要もないので

「そうだが・・」

 と応えると

「殿がお二人をお探しです。ぜひ、お城まできていただきたい」

 ということで、二人について城のある津までやってきた。城主は藤堂高次(27才)である。先代高虎は数年前に亡くなっている。本来は伊賀上野も領地であったが、高次が継いだ時に統治できないということで畿内探題に返上している。高次は父に似て体格は良かったが、どこか凡庸な感がした。話し方がゆったりなのである。

「秀頼公、よくぞ参られた。伊勢はいかがでござるか?」

 と聞いてきたので、秀頼が応える。

「船で三河に行こうと思ったのでござるが、この大雨で足止めをくらっております」

「そうであるか、船も出られぬ大雨であったか? 左近、藩内は大丈夫か?」

 と高次は控えていた家老の前野左近に尋ねた。

「はっ、まだ被害の知らせはきておりませぬ」

「うむ、早くおさまればいいな」

 という調子で、何のために城に呼ばれたのか秀頼はとうとうわからなかった。一緒に夕餉をとり、その日は城内に泊まることになった。

 世話役の目付、松本潤之介に秀頼は思い切って聞いてみた。秀頼を迎えにきた侍である。

「高次殿は、いつもあのようにゆったりと話すのであるか?」

「はっ、そうでござる。先君高虎様とは正反対でござる」

「であろうな。二代目にありがちじゃ。われもそうだが、父とは違うとよく言われる」

 大助は厳しい目で秀頼をにらんでいる。(余計なことを)と思っているのである。

「それで、高次殿はどうしてわれを呼んだのだ?」

「それは・・拙者にはわかり申さぬ。ご家老の話では秀頼公にお会いしたかったからということでした」

 秀頼と大助は呆れて物が言えなかった。そんなことで寄り道をさせられたのかと思い、しだいに腹立たしくなった。

 その夜、秀頼と大助は激論をかわすことになった。

「大助、今回の高次殿のこと、どう思う?」

「一言、城主としての器量はありませぬな」

「われもそう思う」

「ですが、嫡子が継ぐというのは世の習い。嫡子以外の者が継げば争いの元になりまする」

「しかし、器量のない者が城主になれば家臣どもが困るであろう」

「確かに、そうでございますが、能力のある家臣が側にいればいいのでは?」

「だったら、その能力のある家臣が城主になればよいではないか。現に義慶はそういうことであろう。伊賀上野のように入れ札をして家臣の中から城主を決めればいいではないか」

「うまくいけばいいですが、後継ぎとされていた方との争いにもなります」

「だから入れ札の候補にその後継ぎもいれればいいのではないか」

「それとて、藩内を二分する可能性があります。後継ぎの方が自ら身を退けば別ですが、そういう方はなかなかおられませぬ。秀頼公ぐらいなものです」

「なんだ! われは変人か!」

「変わり者でないとお思いか! 天下を取る機会があったのに、こうやってわしを連れて旅をなさっているではありませぬか!」

「お主は旅に不服か!」

「不服ではござらん。ですが、秀頼公にはもっとやることがあると思っております」

「旅以外になんじゃ!」

「それは日の本の統治です。殿が天下を取れば無能な城主を替えることもできまする。探題の器量ではできませぬ」

 そこで、秀頼は黙ってしまった。大助の本音を初めて知ったような気がした。その日は別間で寝ることになった。秀頼は天下の治世について思いめぐらしているうちに寝てしまった。

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