第6話 カードバトル
景色がガラリと変わり、辺り一面浜と海しか見えなくなった。
ダンジョンというサタンがどこに潜んでいるか分からない危険な場所なのだが、太陽に照らされ光を反射する海に美しさを感じてしまう。
「今回わたくしは上空であなたの動きを見させてもらいます。危なくなったら助けには入りますが、基本的には戦闘には参加しません」
「了解! それじゃあ視聴者と一緒に僕の華麗な攻略を見ててね!」
峰山さんはその天使の翼を羽撃かせて空中に舞い上がり、そこそこの高度から僕の方を俯瞰する。
「それじゃあまずはボス部屋を探そうかな」
ダンジョンを攻略するには、基本的に奥地にあるボス部屋にいるボスを倒さないといけない。
前と後ろを見渡しても一面浜と海しか見えなかったので、とにかく前進しようという結論に至り、僕は砂浜の上を駆け出した。
『ラスティーさんDOに入ったんだー。念願の夢が叶ったね!』
『ラスティーがいるならDOの配信追ってみよかな……』
ランストのボタンを押してウィンドウを出し配信画面を見てみる。そこにはもう既に何個もコメントが書き込まれていた。
僕のDO入隊を祝うコメントだったり、初めて僕の配信を見る視聴者が打ったと思われるコメントだったり様々だった。
「初めての人も僕の華麗な攻略に……ん?」
僕は視界の端で何かが動いたような気がした。ダンジョン攻略中は極限までに集中力を上げている。その引き締められた神経が僕に警戒するようにと忠告してきた。
僕はその動きがあった場所に目を向ける。そこは波が立つ海だった。
波の動きに間違えて反応しちゃ……いや違うな。
ダンジョンとは地上に現れた門及びそこを通って行ける異空間の事を指す。その異空間、つまり今僕がいるような場所は門が現れた場所と酷似していることが多く、今いるここは恐らく海岸沿いとかに現れたダンジョンなのだろう。
ダンジョンの性質を考えると、恐らく海辺……水に関するサタンが出るはず。もしかして、あの海の中にもう既に何かが潜んでいる?
瞬きするよりも短い間にこのような事を考え、動きがあった方を凝視する。僕の3.0もある視力は波に紛れている魚と思われる生物がいるのを見つけた。僕の視線に気づいたのか、奴は海から飛び出て僕の目の前にドスンと着地する。
それは僕と同じくらいの大きさのイカだった。いやそれだけなら地上にもいるにはいるのだが、奴の異質な点は足の使い方にあった。
二足歩行で残った足には剣や槍に斧、それに盾などの武器を持っていた。
「おっ! 手強そうなのが出てきた! でも僕は負けないよ! なんたって僕はみんなのヒーローだからね!」
常人なら恐怖、もしくは困惑してしまう異常な形容だったが、僕は物怖じしなかった。
何故ならこんなサタン程度に怖気付いているようでは、目指す理想のヒーローにはなれないからだ。
「さぁ……勝負だ!!」
僕は左手を奴の方に向け、指をクイッと動かし挑発する。奴にこれを理解する知能があるかどうかは知らないが、あくまで視聴者へ魅せるのが主な目的なので効かなくてもいいだろう。
しかしサタンだから本来のイカとは生態が違うのか、僕の挑発をしっかり理解しているかのように憤慨したと思われる動作を見せ即座に襲いかかってきた。
相変わらずサタンは不思議な体してるなぁ。美咲さんが気が狂ったように研究に没頭するのも少し分かるかも。
僕は焦らず、いつも通りに奴の動きを見てから躱す。槍の突きを体を傾けて外し、剣の斬撃を白刃取りで受け止め無理矢理奪い取る。間髪入れずに斧を振り上げだ状態の足を奪った剣で切り落とす。
「どうした? そんなにたくさんあるのに手も足もでないの?」
動揺しているような奴から数歩下がり距離を取って、僕は腰についているデッキケースからある一枚のカードを取り出した。
それにはこう書かれていた。
【スキルカード 疾風】
スキルカードとは、ランストにセットすることで様々な特殊能力を発動することができるものである。
例えば今取り出した疾風は十秒間だけ使用者の速度を大幅に上昇させてくれるものだ。
「この速さについてこれるかな!?」
僕はカードをランストにセットし走り出す構えを取る。まるでレースでのスタート直前のバイクのように。
[スキルカード 疾風]
ランストがスキルカードを読み込み音声が鳴り、急にイカの動きが鈍くなったように見えた。正確には僕が速くなったのだが。
そんな状態で僕は更に速度で差をつけるため全速力で奴に突っ込み、剣で全身を鋭く、何十回も切り裂いた。
「そろそろ十秒……」
僕は最後に奴を蹴り飛ばし吹っ飛ばす。そして地面に落下する前に次の動作に移った。
デッキケースからもう一枚、必殺カードと書かれたカードを取り出した。これはスキルカードと大体使い方は一緒だが、使う際は注意しなければいけないカードだ。
まず一度使ったらしばらくの間使えなくなること。これはスキルカードも少し時間を置かないと同じカードは使えないという点で共通しているが、必殺カードはその比にはならないのだ。それに大技なので隙も大きく、ここぞという時にだけ使うカードだ。
しかし今この状況は、僕が作り出したこの空間は必殺技を決める絶好のチャンスだった。
「必殺技でトドメだっ!!」
僕は必殺カードをセットして全身に力を溜める。
[必殺!! ラスティーパラブレイト!!]
必殺技の音声が流れると同時に僕は一っ跳びで奴の眼前まで跳ぶ。流れるように動きを繋げて、力の籠ったこの足で回し蹴りを放った。
その威力は先程の斬撃とは比べ物にならず、奴は蹴りをくらってすぐに消滅して数枚のカードを落とすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます