やる気の無い錬金術師と出会った

週の半ばに、エミリーさんから良い報告が得られた。

何と、錬金術師の一人から訪問の許可を得たという事で、早速訪れる事にしたのだ。

この街には当然の如く、魔法薬ポーションを売る店が有り、それぞれ地下迷宮の前に支店と大聖堂近くに大きな本店が店を構えている。

そこに並ぶ薬は、殆どがこの遺跡のアルティアに住まう錬金術師が製作したものだ。

錬金術師のお宅訪問の前に、私は事前に魔法薬のお店を訪れる。

回復薬は5銀貨から10銀貨の間でまちまちの価格。

だが、ラベルを見ると、製作者が違うようだった。

店員に話を聞くと、回復効果が高く、服用期間は短く、副作用の少ないものが高品質らしい。

なるほど。

あ。

ここで薬品の説明とか、ラベル表記を見る事で鑑定にも幅が出そう。

少し瓶を振ってみたり、下から眺めたりと、変な冷やかしの客みたいな事をしてみる。

そして、ちょっと尤もらしくふむふむ、と頷いてみたりして。

いや、何もわからんけど。

ただ、色もちょっと違う。

普通の回復薬は薄い緑なんだけど、良い回復薬は薄い青っぽい。

若干の色の差だけど、ついでになんだか澄んでいるというか。

これは原料も拘って作っているのかもしれない。

職人技が光りますね!


とりあえず、下地を勉強した後で、錬金術師のお宅へと向かう。

アーヴォさんという人で、おうちは西門方面の町のはずれである。

扉には何か変な動物が輪っかを銜えているドアノッカーがあるので、ゴンゴン、とそれを叩きつけると、中から声がした。

何言ってんだかわかんねぇよ。

でも、入っていいって事だよね?

私はそろそろと扉を開けてみた。

うわ。

何か変な匂いする。

何だろうこれ。


「あのー冒険者ギルドの紹介で来ました。ミアと申しますー」

「……ああー、入っていいよ。今手が放せないから」


時間指定したんじゃないんかい。

まあ、いいけど。

錬金術師ってこういう世捨て人っぽい人も多いんだろうし。


声がした方へと覗きにいくと、色々な道具と本とガラス瓶に囲まれた男の人が立っている。

元は白衣だったのだろうか、上着は灰色っぽい汚れ塗れだ。

バサバサの黒髪に、ちらりと振り返った瞳は赤い。

汚れを落として綺麗に丸洗いしたら、中々のイケメンになりそうだけど、何せ隈もあるし、ぬぼーっとした暗さもある。


「で、用って何だっけ?回復薬の作り方を教えて欲しいんだっけ?」

「あ、はい。そうです」

「本読めばいいんじゃない?」


はあ。

そうですね。

ここに来た意味よ。

突然目的を潰されて、私はどうしようかな、帰ろうかな、と思って辺りを眺めた。

色々な道具がある。

これを全部揃えるとなると、やはり初期投資がかかりそうだ。

うーん、何処かで工房とか時間制での貸し出しとかしとらんかな?

ゲームでは道具を揃えてはいっと出来るけど、小説とか漫画で確かそういう施設があるみたいなのあったような?

この街であるかどうかが問題だけど。

てか、冒険者ギルドにそういう施設ありそうじゃない?

帰ったら聞いてみよう。


ハッと気がつくと、じとーっとアーヴォさんに見られてた。

本読めば?って言われて思考停止してたわ。


「本読みますね。お邪魔しました」

「えっ」


えっ、て何だよ。

お前が言ったんだろ。

そんなぁ~教えてくださいよぉ~とかおねだりしてほしかったんか。

わしゃそんなに暇じゃないんじゃ。

あ、でも気になることはあったんだった。


「あ、そうだ一つだけ。回復薬に使う薬草って普通緑じゃないですか?同じ種類で青い薬草って効果高いとかあります?」

「何?」


アーヴォさんの目が突然ギラリと光った。

今朝気がついたのだけど、すくすく育っている私の薬草ちゃんがちょっと青みがかっていたのだ。


「いえ、そういう薬草があるので聞いてみただk」

「どこにある、それをもってこい!」


いきなり肩をガッと強い力で掴まれて、私はドン引きした。

さっきまでやる気なさそうだったのに、何この人。

豹変しすぎじゃない?

こわ。

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