ノーツとディナーデート

食事に行くだけなんだから、別にこのままの服でいいよね?

とも思ったけど。

でも、一応普段着用のワンピースも買ってある。

いつもは腰にくくり付けてる短剣ダガーも、ベルトを調節すれば脚に装着可能だ。

短刀ナイフもポーチの中にあれば、武器は十分。

一応ワンピースに着替えて、ポーチを腰に巻きつける。

脚には短剣ダガーも装着済みだ。


「ミア姉ーお客さんだよー」


リアちゃんに呼ばれたので、戸締りをして階下に向かう。

そこには、ちょっと良い服に身を包んでいるノーツが、緊張したように直立していた。


「お待たせしました」

「いや、待っていない、大丈夫だ」


社交辞令というか挨拶に、真面目に返してくる。

マジで忠犬。


「ノーツさん、何だか素敵なお召し物ですね。私の方が何か場違いっていうか、釣り合ってない気がします」

「いや、君は、可愛いし、綺麗だと思う!」


慌てすぎて大声になったノーツに、周囲の人間から口笛と野次が飛ぶ。

あらら。

真っ赤になっちゃった。


「ノーツさんがそう言ってくれるなら、嬉しいです。じゃあ、お食事に行きましょうか」

「……あ、ああ」


顔を赤く染めながら、ノーツはかくかくと頷く。

故障しかけのロボットかな?

本当は手を繋いだり、腕を組んだりするところかもしれないけど、触るだけで爆発しそう。


「私、この町で宿屋以外の場所に食事に行くの、初めてです」

「そうなのか?……うん、そうか、光栄だな」


よく考えたらこの街に来てまだ3日くらい?だけど。

まあ嘘ではないので。

それに、ノーツのあまり女性慣れしていなさそうな所は素朴で嫌いじゃない。

少なくとも、数時間一緒だっただけの、色ボケ貴族のボンボン達とは大違いだなあと思い返す。

もう見た目もぼんやりしか覚えてないし、名前も最初から知らんけど。


「ノーツさんて、可愛いですよね」

「えっ……そ、そうか?……初めて言われたな」

「えー、それってカッコイイって言われ慣れてるみたいな?」

「いや、そんな事もない」


大型の犬みたいで可愛いんだよね。

パーティに女の人いないのかなあ?

故郷に待ってる女子がいるとか?

モテそうに見えるのに。


「ノーツさんは恋人、いないんですか?婚約者とか」

「いないな」


真面目そうだもんね。

真面目そうな顔してるもんな。

逆にこの容姿で真面目そうな顔して女にだらしなかったら驚くわ。


「気になる女性とかは?」

「……あ…あー……最近、気になってる人は、いる……」


しどろもどろと、顔を赤くして言うノーツに疑惑を持つ。

まさか、リサさんじゃないだろうな!?

許さんぞ!?

いやでも、リサさんは趣味じゃないって言ってたしなぁ。

まあでも、この人進展遅そう。


「そうなんですね!相談だったら何時でも乗りますからね!」


笑顔で言うと、一瞬きょとんとしてから、とっても悲しい顔になった。

えっ。

情報収集しようとしてるのバレた?

それともまさか、私が好きとかじゃないよね?


「……う……ああ、うん……その時は、頼む」


何だか申し訳ない。

色々と申し訳ないんだけれども。

じゃあ、例えば、例えばよ?

今私が付き合ってくれって言われても、お断りすると思う。

だって、自分の事すらまだ何も出来てないのに、恋愛とか無理。

この先の事は分からないけど、今は自分の事で精一杯。

でも、親しい友人としては側にいられたら嬉しいなと思う。


「もし、好きな人とうまくいっても、仲良くしてくださいね」

「それは、勿論だ」


しっかりと拳を握って、がっつり頷く姿に微笑む。

そんな初々しい新卒サラリーマンのようなノーツさんが連れて行ってくれたのは、ちょっと高価そうなお店。

高級宿屋の一階にあって、窓際に通される。


マナーとか大丈夫だろうか。

何も分かんないけど。


メニューは読めるけど、何の事だかわからない。

肉なのか魚なのかは何となーくはわかるけど、勘だ。

アルトさんも言ってたっけ。

慣れと勘。

まさかの高級レストランにも必須の能力だったか。


「おすすめはありますか?」

「あ、いや……ここに来たのは俺も初めてなんだ」


こっそり聞くと、こっそり返事が帰ってきた。


何ですと?

……うっすらそんな気はしてたけど、デートだから奮発したんでしょうね。

知り合いにデートに良い店とか聞いたのかもしれない。

でも、大丈夫かなぁ?


「ここ、お高いんじゃないですか?」


メニューで口を隠しつつ聞くと、ノーツは胸をドンと叩いた。


「それは、任せろ」


敵を倒すのと違うけど、大丈夫かなあ?

まあ、私もお金あるっちゃあるし、いざとなったら払える。

でもまず倒すべき敵は、メニューだな。

私はまた、メニューに視線を落とした。

こういう店って単品で頼むより、コースで一番安いのが安定だよね。


「じゃあ、私、このディナーコースにします」

「分かった。俺も同じ物にする」


給仕を呼んで、注文する。

前菜からメイン、デザート、食後の飲み物に至るまで選ばされるので、どんな料理か聞きながら決めていく。

別におのぼりさんと思われても恥ずかしくないし。

だけど、目の前のノーツはゲッソリやつれている。

これ、絶対食べてもお腹一杯にならないやつ。

私はいいけど、ノーツが。

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