ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~
ひよこ1号
プロローグ
え。
何々ここ……眩しいんだけど、え?
目の前には煌びやかなドレスを纏った少女と少年の群れ。
ツヤツヤの大理石の床に、豪華な装飾の窓やシャンデリア。
さっきまで、この半分くらいの明るさの自宅にいたはずなんじゃが?
私は目をぱしぱしと瞬いた。
隣には金髪碧眼の、王子の見本みたいな人が立っていて、私の肩を抱いている。
私、え?
私は、誰だ!!!!!
何も思い出せない。
少なくとも自分の家、にいたのは微かに覚えてるんだけど、それ以外は何も。
「大丈夫かい?ミーティシア……」
「………えぇと………」
大丈夫では、ないです。
どうしよう。
「緊張しているのでしょう。あの女狐共にこれから引導を渡すのですから」
メガネがいう。
これって、何かの断罪が始まる奴じゃん。
そんでもって、ざまあ返しされるんでしょ。
私の身体の中身は何処に逃げやがった。
何で何も分からないのに、私に交代したんだ。
とりあえず、先手を打たないと命がやべえ。
「あの、私、記憶をなくしてしまったみたいなんです」
「えっ?」
「は?」
「何故…」
男共が口々に言い、麗しい顔を曇らせる。
「分かりませんが、……名前すら、思い出せなくて……」
「……もしや!薬を盛られたのでは!?」
「くそ、女狐め……!」
悔しそうに男達が、相談を始める。
私は仕方なく、その情報を整理した。
うん。
大体分ってた。
王子みたいな奴は第一王子。
婚約破棄を、虐めの主犯である公爵令嬢につきつけるらしい、定番。
「でも、公爵令嬢と婚約破棄したら、廃嫡されませんか?」
ぽしょっと、皆の話し合いに口を出してみる。
皆の顔色が悪くなった。
「国王陛下の決めたご結婚のお約束を勝手に破棄したらまずいですし、何より公爵家の後ろ盾がなくなったら、派閥的に大変なのではないでしょうか?」
「本当に君は、ミアかい……?」
ふるふると震えながら王子が問いかける。
だから、記憶がねぇって言ってんだろ。
「多分、そうですけど。それに他の方々もですよ?他の兄弟に後を継がせる事も出来ますし、除籍されてしまいますよ。平民になりたいのなら、止めませんが……おすすめはしません」
「そ、そんな馬鹿な……」
メガネがメガネをクイッとしながら言う。
本体殴り壊すぞ。
「だって、婚約破棄となると、どちらが有責か問われる訳で。皆様きちんと婚約者の方に贈り物をあげて、夜会のエスコートもしていました?皆様に落ち度が少しでもあれば、有責になって、慰謝料が発生しますよ?」
「い、いやだって、それは君と一緒に夜会に出たくて」
「私記憶がないから分からないですけど……でも婚約者を蔑ろにして有責になったら、個人の資産から慰謝料を払えって言われるでしょうし、そんな瑕疵のある人間を家に置いておかないですよね?」
男達はますます青くなってしまった。
このまま続けてたらどんどん青みが増して、青鬼になってしまわないだろうか。
こわい。
「だが、君はいじめられていて、彼女達が有責なんだ!」
「それって、私の記憶がなくても証明できます?」
こてん、と首を傾げて問いかけると、全員がうっと詰まる。
証拠、無いんかい。
私は大きく溜息を吐いた。
「あのですねえ。相手の罪を糾弾したいのなら、動かぬ証拠がなければ無理ですよ。幾らなんでも。捏造した証拠じゃ逆に相手に訴えられて終わりです。ついでに人生も終わりますよ。それに、相手の虐め役筆頭は公爵令嬢でしょう?そんな些細な嫌がらせなわけないじゃないですか」
「些細って、君は階段から突き落とされたんだぞ!」
「あら、じゃあ、この記憶喪失って、それが原因なのかしら?」
ふむ、とちょっと考え込むが、それは考えても仕方のないことだ。
気を取り直して言う。
「ですからねぇ。そんな高貴なご身分のご令嬢が自分の手を汚して命を狙うって、そもそもおかしくないですか?ばれないように悪漢を雇って、殺させるんじゃないですか?」
「……う……それは……」
男達が目を見交わしている。
やっぱり、証拠も無ければ説得力もないのだ。
「王子様だって、むかつく奴がいたとして、いきなり剣で切り殺したりしないでしょ?やるなら、権力を使って実家に圧をかけたりするんじゃないんですか?」
「ま……まあ、それもそうだ……な?……そんな事をする機会もないが……」
「大抵の人はそうですよ。そこまでする事はないです。そもそも皆様、自分が蔑ろにした相手が、自分をまだ好きでいてくれてるって本気で思ってます?愛想尽かされてますよ、多分」
王子の言葉に、私も同意しつつ、ぶっちゃけた。
何で嫉妬してるから、いじめたんだ!なーんて言えるんだろう。
「「えっ」」
そこ驚くところじゃねーんだわ。
「いやいや、ちょっと想像してみてくださいよ。皆様の婚約者さん達が、スーパーエリートイケメン……わかんないか、えーと凄い美男子で、頭も成績もよくて、剣も達者で爵位のある殿方に夢中になってしまったとします。
全員、その一人の人に夢中で、夜会に出るときもべったりして順番に踊って、学校の中でもべったり。皆様からの手紙や贈り物への返事は代筆で、エスコートも断られて…皆様よりその殿方を褒め称えていたら、愛情持ち続けられます?」
うーん、と考え込む男達。
「まあ、政略結婚だとしても、ある一定の礼儀や思いやりは必要ですよね。それが愛情ならもっといいですけど。でも婚約者が、その方が好きだから、貴方とは結婚したくないって言い出したら?家同士の決めた結婚なのに。無責任だと思いませんか?」
いつの間にか全員が、椅子に座って頭を抱えている。
どうすんだろ?
「やり直せるならやり直して貰った方がいいと思うんですけどね」
「……君は、いいのか、それで」
辛そうに問いかけられるけど、記憶が無いので。
皆さんイケメンですね、はー顔がいい、とは思いますけど。
「私が今まで何をしてきたか分かりませんけれど、記憶を失ったのはもしかしたら皆様を救うためだったのかもしれません。会場に行ったら、記憶を失った事を全員にお伝えしたいと思います」
にっこり微笑むと、皆がウルウルしている。
でも。
今気づいた。
これ本当に婚約者の令嬢達がただの悪だったら?
本当に階段から突き落とされて、そのせいで記憶がなくなってたのなら?
もう一つ予防線を張っておくか。
「でも、それでも皆様の人生ですから、誰かを好きとかそういう事でなく、婚約者様と根本的に合わなくて、家や身分を捨てる覚悟を持てるのなら、新しい道を歩むのも良いと思います。記憶がなくなったとしても、皆様の幸せをお祈りしておりますわ」
ニコッ★
よし、完了。
感動して涙ぐんでいる男達を放って、私は控え室を後にした。
私は王子達とは違う、普通の入り口から会場へと入った。
待っていた人々が、注目していたので、その場でお辞儀をしてみせる。
ざわざわとざわめきが広がる中、事故に遭い記憶を失った事を皆様にお伝えして、医者にかかる為にも早退する旨を伝えて、その場を後にした。
もしも、生前の私が……いや死んだわけじゃないけれども。
以前の私がまともなら、誰か一人くらいは会いに来てくれるだろう。
それがなければ、私はやっぱり高位令息狙いのお花畑ヒロインだったということだ。
「まーこの際だから、冒険者にでもなりますか」
どうせ身分もそこまで高くないし、記憶に無い家族と過ごすのも面倒だ。
見通しは甘いかもしれないけれど、心は軽い。
そして背後から走ってくる足音が聞こえる。
振り返れば、一人の青年が走ってきていた。
茶色の髪に緑の目の、平凡な容姿。
カッコイイといえばいいけれど、さっきのキラキラを見た後だと凡庸にも見える。
でも体格はいいな。
攻略対象じゃなさそうだけど、誰?
「ミア……」
勢い良く走ってきたのに、躊躇するように私の名前を呼ぶ。
さっき皆の前で記憶喪失って言ったよね?
「ごめんなさい。私何も覚えてなくて。貴方はどなたですか?」
「……ああ、ごめん。俺はペーター。君の孤児院時代の幼馴染だよ」
新情報!
新情報ですよー!!!
男爵家の愛人の娘かと思ってたわ。
血の繋がりねぇわ!やったね!
浮き立つ心をぐっと押さえ込んで、私は微笑む。
「そうなんだ。覚えてなくて、ごめんね?」
「いや、いい……いや、良くはないけど、大丈夫。これから君はどうするの?」
「冒険者になろうと思って」
「えっ」
そりゃ驚くか。
驚くよね。
孤児→貴族→冒険者
このスリーコンボはあんまりなさそうだもんね。
「じゃあ私、急ぐから」
ニコッと笑って、淑女にあるまじき全速力で私は駆け出した。
もうね、細かい事に構ってられないの。
さっさと逃げ出さないといけないからね。
しかも男爵家族じゃなかった!やっほーーー!
除籍!除籍!
脳内でわっしょいしてる私には、彼の呼び止める声は一つも届かなかった。
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