第27話 同期が先輩に聞いた

「だって桜場さくらばくんのことを話す同島どうじまさん、とっても楽しそうなんだもの」


「えっ!? そうですか? 自分じゃ分からないんですけどね。そういえば昔の桜場は酷かったなと思うと、面白くなっちゃって」


 同島から新入社員研修の時の話を聞いていた先名さきなさんがそう口に出し、同島が返した。


 同島の楽しそうな表情、俺も見たい。でも俺は今、加後かごさんとコッソリ聞き耳を立てている状況だ。つまり同島の楽しそうな表情は先名さんが独り占めしている。


「それは同島さんの自覚は無いけど、どこかで桜場くんを意識しているということじゃないかしら。何かきっかけがあったんじゃない?」


「最初にも言いましたけど、大した話じゃないですよ?」


「私にとっては十分に興味深い話よ」


「そうですか? それなら話しますね。研修が終わっていざ本格的に今の部署で仕事が始まると、電話対応のツラさが思ってた以上だったんです」


「そうね。ある意味お客様から怒られることが、仕事みたいなところはあるかもしれないわね」


「それでも友達と遊んだりしてストレス発散してたんですけど、きっと見た目に出ていたんでしょうね、社内で偶然桜場と会った時に声をかけてきたんです。『最近疲れているように見えるけど大丈夫?』って」


 その時のことは俺も覚えている。あの同島がとても疲れた顔をしていたように見えたんだ。


「私、少しビックリしたんですけど、研修で少しは仲良くなれたかなと思ってたので、事情を話したんです。すると桜場は、『そういうことは誰かに話すだけでも気が楽になったりするから、俺で良かったらいくらでも話を聞くよ』って言ってくれて」


 今思うと少し恥ずかしいセリフかもしれない。


「それならと思って、私からランチに誘いました。まあ桜場だし、変な意味には思われないだろうなって」


「そうよね、桜場くんってなぜかそういった安心感があるのよね」


「男の人の中には、求めてないのにアドバイスしてきたりする人がいますよね。私の場合はそれがちょっと苦手で。でも桜場は親身になってくれるというか、普段はあまり見せない笑顔を交えながら励ましてくれて、最後までしっかりと話を聞いてくれるんです」


「私もそうしてほしいかな。当たり前のようだけど、ただ話を聞いてくれるだけでよかったりするもの」


「それから少しずつ、仕事のグチを聞いてもらうため桜場と食事することが多くなって、お酒を飲むこともあるようになって、特に最近は合う回数が増えてましたね。と、まあそんな感じです。普通の話ですよね」


「人を好きになるきっかけって、案外そういったことじゃないかしら。会っていくうちにいつの間にかとか、なんとなくその人のことを考えてしまうとか。一目惚れだってあるくらいなんだから、特にきっかけが無いことだってあるはずよ」


「そうなのかもしれないですね。……って、私が桜場を好きだなんて言ってないですよ!?」


「同島さんは桜場くんのことどう思ってるの?」


「えっと、どうかな? 気軽に飲みに誘える貴重な人材……ですかね」


「人材って、企業じゃないんだから。同島さんは桜場くんとはずっと今の関係でいいの?」


「うーん、どうだろう。最近になって、そういえば桜場から誘ってくれたことは無いって気がつきました。なので、桜場からも誘ってほしいかな、とは思います」


 そういえばさっき加後さんからも聞いたっけ。


「先名さん、私、桜場のこと好きなんでしょうか?」


 


 

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