二度転生

Riu/リウ

始まり。

第1話 剣




「――ここは…どこだ?」


 俺は、目が覚めた。

 そこは陽当りが良い森だった。


  見渡すと、木と草くらいしかなくて、自分の耳に聞こえるのは鳥の囀りくらいだけだった。

  チュン、チュン…、と。妙に居心地が良かった。




「…なんでこんなとこにいるんだろう……」


 何をしていたか思い出そうとする、が何一つ思い出せない。

 俺が今まで、何をしていたのかさえも…わからない。


ただ一つ覚えているものがあった。

 それは、名前だった。   


         


 俺の名前は"ユウキ" 歳は十四だ。

 名前と年齢しか思い出せなくて、少々焦ってきた。

 これから陽も落ちて夜が来たら、いよいよ不味い。



「ユウキ〜」


 程なくして自分の名前を呼ぶ声が遠くから聞こえた。


 声の聞こえた方に足を運ぶと…そこには、目覚めるような金髪で透き通った蒼色の瞳の少年が居た。身長はほぼ同じと言える。


 俺の名前を知ってるってことは、関係があるとみて間違いなさそうだったので、その少年にいくつか質問してみることにした。


 


「あ、あの…こ、ここは?」


「ん? ユウキ…さては、また昼寝してたなっ!」




 ……どういう事だ?

状況が、全く理解できない。


 知らない森の中、知らない男の子が前に居て、どうやってここに来たのかすらも思い出せない。


 しかも、覚えているのは名前だけというなんとも不可解な状況だ。


「え、…えっと、き、君は誰?」


そう恐る恐る問いかけてみると。 


「ん?ユウキ大丈夫?なんか…今日変だよ…」

と返された。



 本当に状況がわからん…、この子は…俺の友達…なの…か? 

 言動からするに、友人関係…と見て良さそうだ。


「えっと……すみません名前は、なんて言うんですか?」



 少年は驚いた表情で俺を見つめた。


 そりゃそうだよな、友達が急に自分の名前を聞いてきたら、誰だってそんな反応をすると思う。



「もしかして……記憶喪失、ってヤツ?」


「そう…みたい、です」




 アルトという子は「嘘だろ」と言わんばかりの表情を作ったあと、こちらに寄ってきた。


「どこか頭をうったのかな… 痛いところは? 怪我はない?」


 彼は本当に俺を心配しているようだった、記憶を失った友人に心配を掛けれるいい人だな、と思った。

 それが俺の彼に対する第一印象だった。



「覚えてることはある?」 


「あ、はい、自分の名前と年齢…くらいです」


「名前と年齢…それ以外は覚えてないのか…」



 アルトは悲しそうな顔を一瞬見せた後、無理やり顔を直し僕に向かってこう言った。


「とりあえず、敬語はナシ! 以前の僕と君は友達だったからね!」


「わかりました――――いや、わかった」



「よし! それじゃあ一旦村に帰りますか!記憶が無くなって色々不便も起こるだろうし、色々なことを村に帰るまでの途中に話すよ!」


「本当? ありがとう…!」




「あと、ユウキ!今日から友達になろう!」


 一人の友達を失ったばかりなのに、アルトはもう立ち直っている。


 アルトのその前向きな姿勢が俺にはとても眩しく見えた。


 例えば、自分の友達や好きな人が記憶を失い、以前までの関係が綺麗サッパリ消えてしまったら……俺はかなりショックを受けるだろう。


 それでも彼は何事もなかったかのように振る舞っている。



「アルトは、凄いんだな…」


 その言葉を聞いたアルトはこちらを向きながらニカっと笑いこう言い放った。


「何回も聞いてきた! それじゃあ村に帰ろう!!」



 彼の足取りは軽く、道すがら多くの事を俺に語ってくれた。


 アルト曰く、俺の親は俺が幼い頃行方不明になり今も尚、見つかってない事、アルトとは幼い頃から共に育ち共に遊んだ、ほぼ兄弟のような関係であったこと、そして俺達の間に"夢"があったこと。



「僕たちはね"剣"を習いたかったんだ、毎日コツコツお小遣いを貯めていてね、今日やっとお金が集まったんだ…」


「…………」



 なんとも言い難い、申し訳無い気持ちになった。

 俺が記憶喪失になって殆ど別人のような存在になってしまったことにより…その夢は残酷に砕け散ったことになる。

 だが、それでもアルトは諦めていなかったようだ。


「……ユウキ、お願いがあるんだ」



 アルトが真剣な表情で俺の肩を持ち、真っ直ぐな瞳で俺を見据えた。



「何も覚えてない状態でこんなこと言われても戸惑うのはわかる…でも、どうしても君と剣を習いたいんだ…お願いだ……子供の頃から二人で剣を習い、競い高め合う…それが僕たち二人の夢だったんだ…」


 アルトの瞳には涙が溜まっていた、それを彼は悟られないようにと俯きながら話す。


 声は次第に絞り出すような声となり、泣いているのが丸分かりだった。



 俺の中では色々な感情が渦巻いていた。


 アルトへの同情、未知の剣に対する恐怖とほんの少しの期待。

 剣を習うこと、扱うことに恐怖はあった、がもう答えは決まっている。



「アルト、俺は君と共に剣を習うよ、一緒にその夢を…叶えよう」



 決め手となったのは勿論、アルトへの同情だ。


 親友、いや兄弟のような存在の消失、それに伴う夢の挑戦の断念…。今日一日で、アルトの精神は揺らぎに揺らぎまくっていた。


 だから、俺はアルトの頼みを引き受けた。



 俺の返事を聞いたアルトは涙を堪えながら、俺を見つめそして「ありがとう…ありがとぅ……」と言って抱きついた。


 俺はアルトの頭を優しく撫でながら、泣き止むのを待った。

 




………………

………





「ユウキ、改めてありがとう…」


「もしかしたらいつか、記憶が戻るかもしれない、だからアルトと一緒に剣を習うよ」


「そうだね……そうかもしれないね」




 アルトは希望を得たような顔をし空を見上げながら気持ちを落ち着かせていた。

 今日の出来事を整理しているのだろう。


 俺はそっとしておくことにした。



「…よし、もう大丈夫、気持ちの整理がついたよ」



「アルト…なんかごめん…元はといえば俺のせいだ…」



「…これも何かの試練なんだよ、きっとだから僕は受け入れる、この試練をね、乗り越えたらきっと必ず何かを得られる気がする」


「その前向きな考え方…俺も見習わないとな…」




「へへっ、僕の唯一の長所だからね。さっ、そろそろ村に帰ろう、かなり近くなってきたよ」



 その頃には森を抜けていて少し整備された道を歩いていた俺とアルト。


 確かに、遠くに建造物らしき物が見えて来た。


 あれが、村……すこしの不安と緊張が芽生えた。




「それでも…」


「ん、どうしたの? ユウキ?」



 大丈夫だ、きっと。だって俺の隣にはアルトがいるから。  一人だったら訳も分からずくたばっていたかも知れない。 右も左も分からない俺に、教えてくれたアルトがいれば安心だ。


「なんでもないよ、アルト。さあ、行こう」


「そうだね、帰ろう。僕たちの村に」



 そうして記憶喪失の俺とアルトの物語が始まったのだった。

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