9

 私は朝が怖い。いや、正確には明日が来るのが怖い。


 部屋に差し込んでくる朝の日差しは私に今日も生きろと強く言ってくる様で、それが堪らなく憂鬱だ。今日も私は親の前で良い子ぶり、学校では優等生を演じて、そして何より私よりも優秀な姉に劣等感を抱いて生きなければいけないのだ。


 誰も本当の私を知らない。誰にも見せた事の無い自分。私は他人がいう程優しくないし、出来な人間ではない。だから私は今日も嘘をつくのだ。求められる自分を演じて、当たり障りの無い無害な自分をアピールする。




 いつからそうなってしまったのだろう。




 きっとそれは自分に自信がない証拠で、その原因は姉へのコンプレックスだと遠の昔に理解している。私よりも競泳が上手で、頭も良くて、容姿も綺麗。そんな彼女に私は常に嫉妬してしまう。


 彼女には天武の才があるのだろう。


 私には無い才能が儚くとも美しく現れているのが、醜い私にはとても眩しい。


 彼女を見ていると毒が漏れ出す。




 そんな自分に嫌悪感を抱く悪循環。





 もし許されるならば、私は早く死んでしまいたい。


 姉への劣等感を、自分への嫌悪感を、先輩への罪悪感を忘れてこの世から未来永劫消えてしまいたいのだ。どうせ誰も本当の私なんて見ていないのだから、早く救われたい。




 でも私は今日も生きなければいけないのだ。


 今日を生きて、今まで生きてきた愛や罪や金銭の全てを返済しなければいけないから。それをせずして命を絶ってしまうのは、傲慢ではと思うのだ。




 もしそれが全て完済し終わった時、初めて死を許されるのだと思う。





 だから今日は辛いのだ。


 生きる希望などないから。


 早く死ねるその日を願い、生きるのだ。





「…………。」




 ーーでも。




 最近は少しだけ、違う。


 


 先輩といる時、私は少しだけ素を晒す事ができる。優しくなくて、意地悪な私を先輩は受け入れてくれる。先輩は本当の私を見て、それを受け入れてくれる。


 先輩と話せば話すほど、私は少しずつ意地悪になっていく。本当は感謝を述べたいのに、つい文句を言ってしまう。


 そんな私が不思議で、どんどんコントロール出来なくなっていくのが変で堪らなかった。





 そして昨日、私は彼に全てを話してしまった。


 いや元々言おうと思っていた事だし、そこはおかしくない。先輩が私の事を覚えていなかったから、少しだけ言うのが遅れただけなのだ。




『俺はお前の事を恨んでない。もし後輩が俺にした事を気に病んでるなら何回でも許す』




 一番おかしかったのは、それを許してくれた瞬間に、私は少しだけ。





 ーーこの人生をもう少しだけ生きたくなってしまったのだ。

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