夢の中の英雄譚 ~わたしの先祖は邪神さま~

弥次郎衛門

プロローグ

プロローグ_わたしの先祖は邪神さま

 あなたは自分のご先祖様がどんな人だったか知っていますか?

 

 何をしていた人か、どんな人だったのか知っていますか?


 ある学者の方が言いました。


 人は自分のルーツを知りたがる生き物だと。


 でも、ほとんどの人はきっと、知らないのでしょう?


 それが千年も前のご先祖様となれば尚更。


 でもね、わたしは知ってるの。


 わたしのご先祖様はね…


 邪神さま。



 と、ちょっとカッコつけた言葉を頭に浮かべながら少女は現実逃避をしている。


「うぅ… 寝れない…」


 布団の無い、床面剥き出しのベッドの上で寝袋に包まった体を起こし、悲し気な声で呟く少女は隣の部屋とを分かつ薄い木の壁を恨めし気に見る。隣の部屋からはギシギシとリズミカルな音と微かな嬌声が聞こえる。その嬌声の主が先程まで自分と楽しく話していた女性のものであると思うと、少女は複雑な気持ちで溜息をつき肩を落とす。


 ―― 壁、殴ろうかな…?


 一瞬、そんな考えが過った少女だったが都会に引っ越して来て早々に隣人と揉め事を抱えるのは如何なものなのかと思いとどまる。


 ―― 家賃安いし、仕方ないか…


 そう思って諦めた彼女は寝袋から這い出てベッドから立ち上がり、暗い部屋の中を窓から差す月明りを目指して歩く。窓辺にある机の上に置かれている、使いさしのロウソクが立てられた安物の燭台を手に取った。


 暗闇の中慎重に扉の方へ歩き、部屋を出ると壁伝いに階段まで進んで手すりに掴まってゆっくりと階段を降りていく。

 一階にある玄関近くの土間にまで行き、竈の残り火をロウソクに移すと部屋まで戻って行く。


 自室に戻った少女は扉を閉めるなり再び薄い壁の方を見、そして深い溜息をついて呟く。


「まだやってるよ… これっていつ終わるの?」


 呟きながら窓際の机に向かって歩き、机の上に燭台を置く。そして机の傍らに置かれた大きなバッグに手を突っ込んだ彼女は一冊の本を取り出して机の上で開いた。


「終わるまで先生に貰った本でも読んでよう…っと。 ちょっとは気がまぎれるかな」


 頬杖をついて独り言を言いながら本をめくった彼女は、歴史学者の助手として働くために田舎からこの町に出て来たばかりだった。手にしている本は、つい先ほど歓迎会の席でその学者から勉強用にと渡された本だった。


「まさか、わたしが夜中に勉強するようになるとはねぇ…」


 勉強嫌いで体を動かす方が性に合っている彼女は自分の変わりようが可笑しくなり、ふふっ…と笑いを漏らす。

 隣の騒音の所為でこんな時間に勉強する羽目になった彼女だが、親元を離れての新しい生活と、仕事をして一人でやっていくんだという意気込みに興奮していた。そして何より彼女には、歓迎会の席で成り行きにしても口に出した目標があった。


「やるぞぉ!ミケリア! 本気になった今! ここからわたしの歴史が始まる!! 調べつくして、ご先祖様を丸裸にしてやる!」


 部屋の壁が薄いのも忘れ、声に出して気合を入れた彼女は胸元で拳を握った。


 ―― ん?


 その時、胸元の首飾りがほんのりと光を放ったのだが、ミケリアはロウソクの灯が反射したのだろうと少しだけ気になったが目線を本に落とす。


 パラリとめくり読み進める。しかし文字を読むのに慣れていない彼女は上手く内容を整理できないまま、パラパラと本をめくって何となく読んだ気になっているだけだった。


 やがて彼女の体が少し傾く、彼女の吐く息がロウソクの灯を消すと同時に彼女の体は机に突っ伏した。「すぅ…すぅ…」と寝息を立てながら彼女は眠りに落ちていく。


 ―― ご先祖様ってどんな人だったんだろう…? 


 眠りに落ちる瞬間の心の中の呟きが、彼女を不思議な夢の世界へと誘う。


 ・

 ・

 ・


 ミケリアは夢を見た。それは平和な世に産まれた彼女には無縁の、地獄のような戦場の光景だった。その地に、もう逃げられないと腹をくくった青年が剣を持って立つ。

 青年に向かって、獣のような頭をした真っ黒で巨大な怪物が手に長大な金属の棒を持ち、それを振り回しながら迫る。


 青年の味方の兵士を盾ごと吹き飛ばしながら迫り来た怪物は、振りかぶった金属の棒を青年の頭部を狙って右斜めから振り下ろした。

 懐に飛び込もうと全力で踏み出していた青年は腰を落として姿勢を低くし、怪物の攻撃を受け流す為に剣を斜めに立てる。受けた瞬間に両腕に強烈な衝撃を感じ、体の内と外でパキンッという音を聞いた青年は、体中を巡ったその甲高い音と左腕の違和感に、すぐさま腕の骨が折れたことを理解する。しかし腕と共に折れてしまった剣は僅かに怪物の攻撃の軌道を変えたにすぎず、振りぬかれた金属の棒は青年の兜の上部を打って通り過ぎる。


「―――ス!」


 意識を失う刹那、青年は自分の名を呼ぶ声を聞いた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 はじめまして、弥次郎衛門です。読んで頂きありがとうございます。


 生まれてて初めて小説を書いてみて、更には何かをネットに投稿するということも初めての為、非常にビクビクしながらやっております。そんな気の弱い私の心が折れないように、少しでも「面白そうだな」「期待できそうだな」と思われましたら励ましのコメントや★など頂けたら嬉しいです。


 どうぞよろしくお願いします。

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