あの、俺は一般人なんだけど!?
サイレント
第1章 【始まりはいつも突然!】
第1話 【一般人、異世界転移するんだってよ】
俺の名前は『
兵庫県加古川市出身で正直に言えば何処にでもいる人間だ。容姿は中肉中背で茶髪混じりの黒髪でイケメンでも不細工でもない。身体能力も普通より下かも知れない、頭も良い方ではない。読書は好きでゲームも好き。友達からは興味のある事の情熱は凄まじいが、それ以外は淡々としてて人と群れないと言われた。友達も正直少ないが、俺自身は気にした事はない。中学卒業の時に好きだった子に告白したがフラれたばかりだ。ちなみにそこに関しても気にしてはいない。
そんな普通の俺だが、何故こんな風に説明しているのか。昨日、俺はふかふかのベッドに寝始めたばかりだ。ぐっすりと寝る所為で夢を見るチャンスは他の人と比べると少ない。一富士二鷹三茄子も見た事が無い。そんな俺が目の前の光景を夢だと思っている。と言うのも……
「ここ何処だ~!?」
起きた時、俺がいた場所が見知らぬ森だからだ。そら、こうも言いたくなる。
「いや、マジでここ何処!? 誘拐? 誘拐なのか!? いやいや、俺の家は普通だし俺自身大金なんて持ってないよ!? 誘拐する相手間違ってませんか!? 誘拐犯さん!?」
そんな大声を出してしまった。本当に誘拐犯がいたら来てしまうのでは無いだろうか。だけど、予想に反して誰も来なかった。
「……あれ?」
俺は素っ頓狂な反応をして周囲を見渡した。見渡したが誰も来る気配が無い。俺が鈍いからかも知れないが、動き回っているのに誰も来ないのだ。
「誰もいない?」
本当に周りを歩き回っても誰もいないのだ。ここまで静かだと誘拐なのかと疑ってしまう。服を確認するけど、やっぱり寝ていた格好のままだ。靴下すら履いていないから足は土塗れだ。
「本当に何処だ、ここ?」
流石におかしいと思った。誘拐にしては拘束されていないし、近くに見張りらしき人物もいない。
「うーん?」
自分の手足を見るが変わった所が無い。
「もしかして?」
だが、一つだけ心当たりがある。このパターン、ラノベで読んだ事がある。
「……異世界? トラックとかに轢かれて死んでないから転生じゃなくて転移?」
そう。異世界に来て主人公が困惑するシーンに似ている。似ているが……
「いやいや、無い無い」
だって、そんな物語的な展開は無いだろ、常識的に考えて。あったら驚く。驚くし、本当にそうだったら多分悔しがる。
「だって、そんな物語のような展開は無いでしょ? そういうの創作物だけでしょ? それに俺は一般人だよ? 凄い才能は無いぜ。身体能力は普通だし、天才ですら無いんだぜ? ゲームの腕も低いし、対戦型ゲームなんて無理だ。そりゃ、ドリクエで一人旅とかしたけど、その程度だ。そんな一般人に何を期待してるんだよ……自分で言っていて虚しくなってきたけどさ」
必死で自分が普通だと説明している。俺の声が神様的な人に聞いてるか知らないが、本当にただの一般人だ。そんな一般人に何を期待してるんだと言いたい。
「いや、それ以前にそんな展開はやめてよ! そんな展開だったとしても! せめて、書き留めるためのノートやペンは持たせてよ! 何!? そんな美味しい体験! そんな体験をノートにメモらせてよ! 俺の記憶力良くないからさ!」
俺はそう言って地面をバンバンと叩いた。実は俺の夢は小説作家なんだ。だから、こんな美味しい展開をメモ出来ないのが心苦しいんだ。
「よし! ここが異世界だという証拠は無い! それを否定するために歩こう!」
異世界だとしたら日本語が通じるかわからない。英語を含む外国語全部出来ない。そのあり得る現実と異世界である事実を否定するために歩こう。
「フッ、まさか昼休みになる度に校舎を意味も無く歩き回った経験が活きるとはな!」
まさか、あの経験が活きるとは思ってもみなかった。一応言っておくが友達は普通にいる。部活も入っていて部員達と花火大会に行った事もある。心の底から信じられる友達もちゃんといる。引き籠りでもない。だから、ボッチと言うのは力強く否定させてもらう。
「それにしても……はぁ……まさかフラれるとはな……まあ、あの子が男性恐怖症なら仕方ないよな」
実は好きになった子も同じ演劇部の人だった。優しくされて、その優しさに惹かれ友達にも応援されたが、その子は男性恐怖症を持っていた。マジで好きだったから少しショックでしばらく引き摺るだろうな。
「でも、だからと言ってあの優しさは嘘じゃないし、絶対に嫌いになれないな」
よく、フラれた腹いせで酷い事を考える人もいるが、正直そんな人には絶対になりたくない。好きは好きだからフラれようがそこは関係無い。恋人彼女じゃなく友のままでもいい。好きになった人だけは傷付けたくない。
「もし異世界なら本当に帰らないと」
好きになった人達とまともに別れの言葉も告げずにいなくなるのは相手が心配するしショックもあるだろ。それもあって、異世界だと思いたくないかも知れない。
「それにしても何も起こらないな」
まっすぐ森を進んでいるが、何かに襲われる事も無かった。いや、いいけどさ。
「こういう展開じゃ猛獣とかモンスターに襲われるんじゃないのか? いや、出ても倒せる訳無いから出ない方が嬉しいけどさ」
ヤバい、一人だからどうしても独り言を言ってしまう。
「……あっ」
やっと、村らしき所に着いた。着いたが、見た事も無い、けど、アニメやマンガや動画で見た事のある建物があった。
「ほ、本当に異世界だ」
だって、こんな村なんて加古川にある筈が無い。流石にこれを見てドッキリじゃないとわかるし、日本じゃなく異世界なのもわかる。
「ど、どうしよう」
どうしよう。俺はあんまり会話が得意じゃない。
「くっ! コミュニケーション能力の低さがこんなところで!」
いや、違う。まだ慌てる状況じゃない。この時こそ、演劇部の実力を発揮する場面だろ。
「はぁ~ふぅ~……すみません」
「ん?」
近くにいたおばちゃんに声を掛ける。
「あの、僕は旅をしている者だけど」
「旅人さんかい? それにしても服装が」
「……すみません、迷子になって放浪する内にここに来たのですが、ここは何処です?」
ですよね。旅人にしては持ち物が無いし履物も無いから旅人という設定は無理があった。
「おや、大丈夫かい?」
「あ、はい、一応大丈夫です」
ただ、わかった事がある。どうやら、日本語でも大丈夫だ。それとこのおばちゃんは優しそう。
「ここは『ビギン村』だよ」
「ビギン村……」
流石にその程度の単語はわかる。始まりの英単語がそれだ。つまり、始まりの村。
「あの……冒険者ギルドのような場所はありますか?」
「ん? 冒険者になりたいのかい? ああ……大丈夫だよ、冒険者登録は無料だし初期費用も出るからね」
おばちゃんが優しい眼差しで肩をポンポンと叩いた。今の俺はホームレスのような物で若いのに働き口を捜しているようなものだろう。
「ここをまっすぐ行ったら大きい建物が見える筈だからね。そこが冒険者ギルドだよ」
「あ、ありがとうございます」
その眼差しにいたたまれない気持ちを我慢しながら冒険者ギルドがある事、冒険者という役職がある事を知れた。
「ちょいと待ちな」
そう言うとおばちゃんが家に戻った。しばらくするとバスケットのような物を持って来た。
「お腹が減ったら食べていいからね」
バスケットの中はパンが入っていた。
「……ありがとうございます。もし、困った事があればちゃんと恩返しをしますよ」
ここまで優しくされるといたたまれない気持ちは消え、何か恩の一つを返したくなるものだ。
「いいのいいの。困った時はお互い様だからさ」
「はい。その言葉はちゃんと覚えておきます。どうもありがとうございました!」
俺は手を振っておばちゃんに挨拶をして冒険者ギルドに向かった。
うん。ああいう人がいるから人間は汚い、信用出来ないと考えてそれが事実だとわかったとしても人間を嫌いになれないだろうな。
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