喋る死体は盾を貫く

むー

第1話 喋る死体

「ふぁぁ…あ…?」


…少し寝覚めが悪かった。一度死んでしまったような…。寝覚めた身体は酷く冷えていた。しかも裸だ。ん…?なんだこれ…傷の跡かな…。私の身体じゃないみたい…。


辺りを見回す。…どうやら世界が違うようだ。景色が現世のそれじゃない。石造り…の城かな?…修道服のような服を着た人がこちらに近づいてくるのが見える。


「おはようございます。とりあえずコレを着てください。王から説明があるのであちらの大広間へ。」


素っ気無い人だった。何か緊張しているような…人間を見る目ではなかったように感じた。さて…大広間とはあっちかな…ドッキリかもね…。


「貴様の魂は使わせてもらう。」


要約したらそんなことを王は言っていた。


この世界には魔王がいる。そしてその魔王に最も迫った英雄が二人いた。「最強の矛」であるカノン。そして「最強の盾」であるフィー。各地の有力な魔物を倒し、その功績はまさに英雄だった。


しかし…カノンが戦死した。死体は回収できたため魔法で今日まで保存し、そして私のような新鮮な魂が現れるのを待った…。


つまり私はこれからカノンとして魔王討伐へ進まなければならない。とんだとばっちりだが…


「あ…あぁ…!カノン!!」


王の説明を噛み砕いて廊下を歩いているとその先から人が走ってきた。その人は走る勢いのまま私の…カノンの身体に抱きついた。


「あぁ…カノン…久しぶりだな…でも…もう…」


泣き始めた…!そうか…この人は…


「フィー…?」


「え…?カノン…?私が分かるのか!?」


「っ…ごめん…王の説明で聞いただけ…。私はもうカノンじゃない…。」


「あぁ…やっぱりそうなのか…すまないが今は少しだけカノンに甘えさせくれ…。」


彼女は一瞬安堵しているように見えたが、すぐに悲しい顔になった。私の身体は生き返ったわけじゃない。ただ意識があり、動き、喋るだけ。身体は冷たいまま。それが彼女にも伝わってしまったようだ。


「今の私は…ただの喋る死体だ…」

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