三銃士

「なんでだめなの!」


 まるで3人の心の声を代弁するかのように凛花ちゃんがこちらに近づいてきてそう言った。


「いや、別にみんなダメってわけじゃなくて、みんなのこと何も知らないのに選ぶなんてこと私にはできないよ」


 少し不満そうな顔でこちらを見ている凛花と不安そうにそわそわしている3人に、「それに」と話を続ける。


「JKのバンドに知らない大人の男がいるのは倫理的にどうだろうって思って」


 凛花ちゃんは確かにみたいな顔をして、3人は少し顔色が悪そうだった。もしかして3人とも凛花ちゃん狙いでバンド組んでなかったまである?


 グ~~


 疑いの念が強まった空間をリセットするかのようにおなかの虫が鳴いた。


「とりあえず、ご飯食べよ。私もお腹ペコペコだよ~。うちは一応料理も提供してるんだよ~」


 凛花ちゃんは「用意するから外のカウンターまで来て!」と言って部屋を後にしてしまった。部屋に残されたのは私と初めましての三人だけ……


 気まずい! なんか話さないと。


「嬢ちゃん」


 私がこの空気感から迷っていると、ミスター増田さんが話しかけてくる。なんかサングラスがキランと輝いたような気がして怖い。


「は、はい。なんでしょう」


「悪かったな。急にメンバーの話し出して」


「へ?」


 私は急な謝罪に状況が飲み込めない。


「凛花ちゃんに頼まれてな。メンバーを探してるからどうしても手伝ってほしいってな。ここは人気の箱だし、俺たちよりも有名な人たちも沢山来る。それでも凛花ちゃんが俺たちのことを選んでくれたのは、きっと信頼してるからだと思うんだ」


 さっきまで怖かったミスター増田さんがなんだかかっこよく見えてきた。しかも話し方も全然違うし、なんだろう、この現象。


「あの、ミスター増田さんは、どうして音楽をやろうって思ったんですか?」


「俺か? そんなの、音楽が好きだからに決まってんじゃねぇか。それは他の2人だって、お嬢ちゃんだってそうだろ?」


 確かにそうだ。音楽が好きでもなければ大人になっても続けよう、増してや始めようなんて思わない。きっと誰だって同じなんだ。


「そうですね。なんかそう言われると少し親近感を感じました」


「それはよかった。とりあえずこれからもここを利用するならこれからも仲良くしてくると嬉しいよ。他の2人も同じ気持ちだ」


 ミスター増田さんの言葉に後ろで2人は顔を縦に振る。


「もー! みんなカウンターまで来てって言ったよね!」


 ミスター増田さんのことを少し知れた頃、少し怒った凛花ちゃんが扉を勢いよく開けてそう言い放った。


「うっす。すぐいきやす」


 ミスター増田さんはさっきまでの雰囲気とは打って変わり、下っ端のような口調に戻ってしまった。凛花ちゃんと何があったんだろ。


 私は深まる謎を胸に秘めながら、外のカウンターへと向かっていった。


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「へいお待ち!」


 私とミスター増田さん達3人がカウンターに横一列に並ぶと、凛花ちゃんは調理場から料理を持って現れ、まるでお寿司屋さんのような掛け声で私たちの前に料理を出した。


「冷やし、中華?」


 目の前に置かれた皿の上には、キュウリや卵、ハムが盛り付けられた冷やし中華があった。


「そう! 冷やし中華。結構簡単に作れるんだよ? 麺に具材乗っけるだけだし」


 凛花ちゃんは冷やし中華について語りながら私の左隣に座り、「いただきます」と手を合わせていた。


「凛花ちゃん、もう11月だよ?」


「ッ!?」


 私の言葉に、凛花ちゃんはビクッと肩を揺らした。


「い、いや。季節とか関係ないじゃん? 美味しいものはいつ食べてもおいしいんだし」


「まぁ、いいけど。ここで食べてる人が少ないのってこういうところじゃないかな」


 ライブハウスのメニューが冷やし中華というのはあまりにも衝撃的過ぎるし利用するかは微妙なところだ。


「で、でも味は美味しいから!」


 凛花ちゃんは必死に私に冷やし中華の良さを語っている。きっとこのメニューも、凛花ちゃんに頼まれた凛花ちゃんのおじいちゃんが、看板メニューにでもしてしまったのだろう。


「そりゃそうだろうけど……。いただきます」


 私は手を合わせてそう言うと、冷やし中華を啜る。


「うま、これ普通にめちゃくちゃ美味しいよ」


「でしょ。ますちゃんもよく食べてくれるもんね」


「うっす。めちゃくちゃ美味しいっす」


 凛花ちゃんの天使のような笑顔の問いに、ミスター増田さんは少し怯えてそうな感じで答えた。凛花ちゃんの笑顔の裏には「美味いと言え」という恐ろしいオーラを感じ、私は視線を下に下げてひたすらに冷やし中華を食べることにした。


「お嬢ちゃんたち。これを見てほしいんだけど」


 私たちが一連のやり取りをしていると、黒井黒太郎さんが立ち上がって、SNSの投稿を私たちに見せてきた。


「これって」


 私は画面を見て黒井さんに問いかける。画面に映っていたのは私たちぐらいの少女が駅前でベースを披露している映像だった。しかもめちゃくちゃうまい。


「隣町の駅前で最近路上演奏を始めた謎のベーシストがいるって話題になっててね。この子ならバンドメンバーにいいんじゃないかと思ってね」


 黒井さんがそう言い終わると同時に、凛花ちゃんは勢いよく立ち上がった。


「結愛、私決めた。この子を私のバンドのベーシストにするわ!」


 凛花ちゃんはいつものように自分の気持ちをズバッと言い放った。



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