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筑紫榛名@9/8文学フリマ大阪

(一)

 入社十二年目の三瀬亮介は、局内にあるアナウンス部の小さなアナウンスブースへ入る直前にADの勝木瞳から原稿の束を受け取ると、手早く原稿に目を通しながらブースのデスクの前の椅子に腰を掛けた。

 F1のピットのようにすぐにスタッフが駆け寄る。メイク係が化粧を施し、別のADが追加の原稿をデスクに置く。

 そしてどこからともなく男性の怒鳴り声に近い「三〇秒前!」という大きな声がかかる。

 三瀬はカメラの上の赤いランプの方を見る。その隣では勝木が腕時計を見ている。そして「一五秒前、一〇秒前」と声を上げる。

「五、四……」


(続く)

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