第26話 出港
本日は神殿に来ています。
船旅に出るので、神官の祈りの加護をいただきました。
ところで神殿の建物が綺麗で素敵です。
祈りの間にはステンドガラスらしきものもありますので、そこから差し込む光は神々しいです。
帰りに聖水もいくつか購入しました。
さらに神殿近くのレストランにも寄ったのですが、街中を移動していると、旦那様はかっこいいので目立ちますし、御婦人達の注目を浴びます。
本人はいたってクールで女性たちの熱い視線を受けても完全にスルーされていますけれど。
そう、私以外からは。
私がチラリと旦那様を見ると、優しく微笑んでくださいます。
……照れます。
* * *
そうしてなんだかんだでヒイズル国へ旅立つ日が来て、私達は港まで来ています。
真っ青な空の下で、海から潮風が吹いてきて、爽やかです。
海の手前に立っているのだと実感が湧いてきました。
ところで旦那様が手配してくださった船が大きくて驚きます。
「ありがとうございます、旦那様。こんな大きくて立派な船を」
「まさか遭難中でもないのにイカダで大海原に出るわけもいかないだろ」
「そ、そうですよね」
私が大きな船に感動してたら、旦那様がくすりと笑いながら軽口をきいてくださいました。
私専用のメイド1人と護衛騎士達が船に荷物を積み込んでくれているので私も声を掛けるかけます。
「皆様、ありがとうございます」
「若奥様、お気になさらず! 仕事ですから!」
同行するメイドは若くて船旅でも体力が持ちそうな子を選びました。
履歴書によれば親が漁師で船にも乗ったことがあるとのことです。
そして、
「ジブン、力持ちなので!」
朗らかな笑顔で騎士達も荷物を運んでくださいました。
彼等は多分鍛えているし、船旅も大丈夫だと信じます。
あ、ちなみに結局ケビン様はアイスクリーム事業の為に同行を諦めました。
せっかく氷結洞窟で氷の魔石も取ってきましたし。
あ、私にも氷の魔石をいくつか分けてくださいました。
暑ければ使えばいいと。ありがたいです。
私もいよいよ乗船します。
「エリアナ、手を」
「はい」
旦那様のエスコートで乗りこみました。
冒険の始まりはドキドキします。
船ではしばしの別れを惜しむ他の人々もいます。
こういうのも、夢の図書館では見たことがありましたね。
出稼ぎのために遠くに行く母親。
見送る家族と船着き場で泣いている幼い男の子……。
切ないです。
せめて、おそらくは出稼ぎであろう、このお母さんが遠い地で病気などになりませんように。
男性とその婚約者のお嬢さんらしき二人の涙の別れも見受けられました。
人間観察がはかどるというか、目に映る全てのものが新鮮です。
実家では長く屋敷に軟禁……籠もらされていましたので。
「あら、若奥様、見てください。この船、演奏家までいますよ」
メイドの声に振り返ると、確かに数人の楽士がいました!
た、タイタニッ◯!?
映像資料とかいうものも例の図書館で見たことがあります!
いえいえ!
この船は例の豪華客船などではありません。
氷山に衝突して沈没などしませんから!
きっと! 多分大丈夫!
「美しいお嬢さん、私は画家なのですが、貴方の肖像画を描かせていただけませんか?」
ヒィッ! 画家が私に話しかけてきました!!
無駄にタイタニッ◯感!
「私は人妻です! お嬢さんだなんて!」
私が慌ててそう言うなり、すぐ近くから殺気を感じました!!
「私の妻だぞ、気安く声をかけるな」
旦那様が画家を威嚇しています!
「ひえっ、す、すみません!」
「それはそれとして、妻の肖像画は私が欲しいから、描いてもらおうか。私の監視下でな」
ズボッと画家の胸元にお札をねじ込む旦那様とお札が落ちないように慌てて胸元を押さえる画家の人。
「は、はい……っ! 喜んで描かせていただきます!」
勝手に話が進んで私がモデルになることになってしまいました。
「こ、こんな船の上では描きにくいのでは?」
「凪いでいるうちはなんとかなります!」
画家はやる気があるようです。
「じゃあ、私も……旦那様の絵も欲しいので私達二人の絵を」
「エリアナ!」
旦那様が私の発言に喜んでいます。
「かしこまりました! 御夫婦の絵を描かせていただきます!」
そんな訳でしばらくモデルになることになりました。
流石に甲板で描くと悪目立ちするので、客用船室内で。
公爵家のとった夫婦の部屋なので、やや広めの部屋です。
そういえばこれも新婚旅行ならば、思い出になりますものね。
絵は数日に分けて描かれるようです。
船旅は快晴の中、しばらく順調で、肖像画も無事に完成しました。
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