第3話ー②「ヒーロー」

 よかったね、妃夜ちゃん。お友達が出来て、本当に良かったね。


 だけど、いいの?お友達が出来たら、また裏切られるよ?


 ーうるさい


 あの時みたいに、人は裏切るよ?簡単に、すぐに代わりを見つけて、何事も無かったかのように?


 ーうるさい


 勉強も出来なくなるよ?勉強をしているのは、何の為?


 ーだまれ


 人を信じない方がいいわ、一人になりなさい。


 ーあんたは、何なんだ


 この先は地獄よ?天国なんてものは創作者の作った架空の産物。人はいつだって、自分のことしか、考えられない。考えられるのは、自分のテリトリーだけ。  ーそれでいい


 無理よ。あなたは必ず、誰かを不幸にする。あの時みたいに。 あなたはそのままでいいのよ。


 ーそれでも、私は・・・。


  私は暁に抱きかかえられ、いつの間にか、意識を取り戻した。


 「ここは・・・天国?」


 「おきた?」 不意の寝言にも反応せず、暁は私に言葉をかけた。


 「暁・・・。私、また」


 「いいんだよ。ごめんね、すぐに離れるからさ」


 「放さないで」 

 何で、こんな言葉を言ったのか。その時の私にはわからなかった。


 「ん?」


 「放さなくていい。耐えられるから」


 「でも・・・」


 「だいじょうぶだから。教室に行こう」


 「妃夜・・・いいの?」


 「頑張る、頑張りたい。ここで頑張らなきゃ、何も変えられない」 

 私は少しだけ、頑張りたいと思った。このままでは、いけない。そう思った言葉がいつの間にか、口に出ていた。


 「無理しちゃダメだよ」


 「無理させてんのは、あんたでしょうが」


 「それもそうか」


 そうはいいながらも、心配してくれる彼女を背に、私は少しずつ離れた。


 「へいき?」


 「まぁまぁ」


 「そっか。戻ろうか」


 「ねぇー、さっきのことだけど・・・」


 「ん?」


 「私の・・・私のれんら・・・私の連絡先、教えてあげる。だから、暁の連絡先教えて・・・」


 「いいよ。だけど、今は急がなきゃ。放課後ね!」


 「う、うん!」  

 その後、教室に戻り、席に着き、いつものように、授業を受けた。 何か、変な噂を流されないことを祈りたい所だが、宮本さんからの謎の視線を感じたが、きっと、気のせいだろうな。


3


 放課後、私と暁はメッセージアプリのIDを交換した。〇ンスタはやってないのかと聴いたところ・・・。


 「何それ?綺麗な画像のやつ?よくわかんないから、やってないよ。って言うか、〇INEしかやってない。何か、面倒くさいじゃん。設定とか、通知とか!あれをずっと、やってる人の気が知れないわ・・・妃夜?」


 私のいつの間にか、舌を噛み、ぶつぶつと呪いの言葉を発するような勢いで、話し続けた。


 「いいよね、天然陽キャは・・・。通知にも縛られないで、そういうの面倒くさいで片づけられて、いいよね・・・。そうやって、友達からもそういうキャラ設定で受け入れられるんだから・・・」


 私がぶつぶつ、言っていると宮本さんが現れた。


 「羽月さん、こいつに期待しない方がいいよ。こいつ、連絡が帰って来るの、五日後なんてよくあるし、いつも既読スルーなんだよ。本当に電話した方が早いっていうか」


 「そうだっけ?そうだったかなぁ?まぁ、いいや」


 よくは無いのだろうが、陸上部の彼女が現れ、バイバイと言って、暁は離れていった。


 「これから、晴那は県大会ですものね。忙しくなりますわね」


 「県大会出た部活なんて、少ないからね。せなっちは本当に凄いよ」


 「まぁ、私の女子バレー部も、これからですわ」


 「予選落ちしてなかったっけ?」


 「来年こそはですわ!私の本気が出せなかっただけですわ」


 「そのポジティブさ、見習いたいよ」


 矢車さんと加納さん達が、後ろで話す中、忘れそうになっていたが、暁は陸上部のエースだったことを思い出していた。 

 そういえば、暁が部活している所を見たことが無い。 走っている所を見た記憶が無いのは、私が彼女を偏見の目で見ていたからだろうか。 

 私の中に暁晴那という人間への興味は次第に大きくなっている気がした。

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