第32話 新しい町・ノーク
アーレダール王国の魔人が討伐されてから約6カ月経った。
ある草原の上空に数十匹のドラゴンが集まっていた。
その中の一回り大きいドラゴンが合図を送った。
その合図でドラゴンたちがブレスを放った。もちろんその大きいドラゴンであるブラックドラゴンもブレスを放った。
それらのブレスは、ある一点に集中していた。
その一点には一人の冒険者が立っていた。
ブラックドラゴン『細胞一つ残すな。全力であの"はん○○"に向かって放て~!』
冒険者【マズい。耐火アイテムが本当に数秒しか全然持たなかった。もはや熱いというより死ぬ。】服が燃え、皮膚が焼かれた。息を止めてはいるが吸い込めば一瞬で肺が焼かれるだろう。【クソッ、逃げ道が無い。ブレスの中までは未来視できなかったから、これは死んだ。】
その数十秒後に一点に集められたブレスの圧縮されたエネルギーが臨界点に達し、大爆発が起こり、のちにこの草原一帯が死の草原と呼ばれるようになるのだった。
そして大爆発は、この世界最大規模と考えられ、のちに”ビッグバン”と名付けられたのだった。
そしてその草原を領地に持つリディール王国。
アーレダール王国からかなり離れた西北西に位置して、規模はアーレダール王国よりは小さいが、この国の国衛騎士団は、最強の名で通っている。理由は………。
そのような国から少し南東の僻地に2年前にダンジョンが発生した。
国王は、新ダンジョンに喜んだが、それが変動ダンジョンでなく固定ダンジョンだと分かり失望した。
変動ダンジョンなら様々な冒険者が訪れ、国も潤うのだが、固定ダンジョンは、一度攻略されればMAPが作られ腕に覚えのある冒険者は見向きもしなくなるのだ。従って低級の冒険者しか集まらなくなる。だから国王はそこに町を作るのを止めた。しかし、そこに目をつけた商人が、格安の税でその地で商売をすることができるように契約したのだった。そしてできた町がノークである。
ノークでは、冒険者は宿に泊まり、その冒険者に必要なものが売られる店しかないのだ。一応、ギルドはあるが依頼は無い。そもそも民家がないからそういう依頼がないのだ。単に冒険者用だけの町になっている。しかし、そんな町に商人が集客を見込んで作ったものがある。闘技場である。
そのビッグバンから3ヶ月ほど前に遡り、この小さな町から次の物語が始まる。
ダンジョン5階層。ゴブリンに囲まれてピンチに陥っているソロ冒険者がいた。
冒険者『チクショウ。こんなところでゴブリンに殺されて俺の人生が終わるのか?うおおおおおおおお!』とやみくもに剣を振り回した。それをゴブリンたちは簡単に躱して棍棒で剣を持っている手首を叩いた。剣が落ちた。
ゴブリンたちが笑っていた。どっちが実力が上か明白であった。
冒険者『う~。今度生まれ変わることがあれば無能者ではありませんように。』と言って目を閉じた。
ゴブリンたちが動いたのが感じ取れた。しかし………。
冒険者【………アレ?まだ死んでないな。】と思い、ゆっくりと目を開けた。目の前にはゴブリンたちの死体が広がっていた。そして気配を感じて横を見た。
長い銀髪の女性?少女と屈強な男が2人立っていた。
冒険者『レイ様?』
銀髪の美少女=レイ『見たところ致命傷は無いようね。仲間は?私たちは戻るけど一緒に行きます?』
冒険者『俺は………。』戻りたいのだが、成果が無いのだ。この階層まで来たが魔石をゲットできていなかったのだ。消耗品のポーション代も確保できていない。つまり赤字である。
同行者A『この者は、鑑定できないことから無能者ですね。おそらくソロでしょう。』
レイ『……そう。なら一緒に戻りましょう。命には代えられないわ。』
冒険者『……分かりました。』と小さい声で答えた。
同行者B『命を助けてもらったのだから礼ぐらい言ったらどうだ?』
レイ『別にいいわよ。行きましょう。』
冒険者『……………ありがとうございます。』とこれも小さい声だった。
同行者A『無能者はもっと低階層で頑張らないと死ぬぞ。』
冒険者『……………。』無言だった。そんなことは分かっているのだ。しかしこのダンジョンは、10階層を超えないと魔物がほぼ魔石を落とさないのだ。5階層ではおそらく1/100匹以下の確率だろう。現に目の前で殺されたゴブリンは12匹なのに魔石が出なかったのだ。
レイ『………。』無言だった。どんな慰めの言葉も意味がないことは知っているのだ。
4人は、ギルドに戻るまで無言だった。
ノークのギルド
レイたちが入ってきたのを見た受付嬢『あら、お帰りなさい。』
レイ『ただいま、ミュウ。定期巡回無事完了よ。ダンジョンに問題ありませんでした。』
受付嬢=ミュウ『固定ダンジョンですからね。ギルマスは心配し過ぎなんですよ。……で?』と同行している冒険者を見ていた。
レイ『5階層でゴブリンに囲まれていたから保護したの。』
ミュウ『はあ~。ポールさん、無茶しないように!』
冒険者=ポール『仕方がないだろ。魔石が手に入らなかったのだから。』
ギルドにいた他の冒険者『ポール、いい加減に冒険者を辞めた方がいいぞ。無能者じゃ死んでしまうぞ。』
ポール『そんなことはない。現にあの人は俺と同じ無能者なのに15階層まで行けてるじゃないか!』
ミュウ『彼は………。』
ポール『俺だって努力をすればあの人のように…。』この後の言葉は出なかった。
凄まじい闘気に当てられて言葉を発せなかったのだ。
レイ『努力ですって、そんな簡単に努力と言う言葉を使って欲しくないわ。』闘気を放ちながらかなり強い口調で反論した。
レイ『あなたは、彼がどのくらいの努力をしているのか知っているのかしら!そしてあなたはどのくらい努力しているのかしら!』
同行者A『レイ様、レイ団長!冷静に!』
そう言われてレイがハッとして冷静になった。
レイ『フ~。』と一息ついて『ごめんなさい。』
ミュウ『フフフ。レイ様も彼のことになると熱くなるんですね。』
レイ『そういうのではありません。私より弱いし。ただ、彼がどれだけ努力しているか知っているから。』と遠い目をして言った。
そのノークから遠い小さな湖で魚の死体が浮かんでいた。
まだ誰も知らないし気付いていない。
それはただの死体ではなかった。
専門家が調べれば死亡の原因がオカシイことに気付き、もしかしたら大事になる前にに対処できただろう。
しかし、人間が知るには小さすぎて気にも留めない死体だ。
ましてや1匹の魚だ。
人間が知るころには手遅れになっていることをまだ知る者はいなかった。
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