第16話 おでん、同郷冒険者に遭う

ダンベル『何が来るというんだ、助けは来ないぞ、諦めるんだな!』

その時だった。ここにいる全員の全身を衝撃が襲った。

『ぐおっ。』『ギャー。』と苦鳴と悲鳴が響き渡った。

立っていた者たちのうち何人かは両脚が折れ、地面に突っ伏した。折れた骨が飛び出してる者もいた。

おでん、ロト、ビリーは、うつ伏せ状態だったのでわずかに地面に体が沈んだだけだったが、もちろん動けなかった。

ダンベルは両膝をついて耐えていたが、衝撃が更に強くなったようで、遂には地面に這いつくばった状態になった。全員上半身すら上げれなかった。

もちろん、マンイーターも動けなくなった。

ロト『こ…れ…は!』

ダンベルがかろうじて頭を動かして上を見た。

ダンベル『お…ま…え…か。な…ぜ…こ…こ…に…。』

おでんもかろうじて上を見た。上空に人が浮いていた。飛んでるのか?その人物が徐々に大きくなる。ゆっくりと降りてきたのだ。

〇〇〇『上から見たが、お前たちの方が悪そうだが、実際にはどっちが悪いのか。喧嘩両成敗で全員殺す…か…ん?あれ?ロトにビリー?』

ザッケル『も…と…に…も…ど…せ…。あ…と…で…こ…う…か…い…す…る…ぞ…。』

〇〇〇が手をゆっくりと上げた。ザッケルだけが宙に浮く。

〇〇〇『うん?よく聞こえなかったぞ。』

ザッケル『下ろしやがれ。さもないと。』

〇〇〇『分かった。』その言葉と同時にその男の眼光が光った。

ダンベル『やめろおおおおおおお。』必死の叫びが響き渡った。

ザッケルは地面に叩きつけられ、潰された。ぺしゃんこになったのだった。

ダンベル『お…ま…え…やっ…ぱ…り…ム…サ…シ…。くっ…こ…こ…ま…で…か…。』

〇〇〇=ムサシはダンベルを無視して、人差し指と親指で作った輪をロトとビリーに順に向けて輪の中に息を吹きかけた。

すると、ロトとビリーは立ち上がったのだった。

ロト『ムサシさん、お久しぶりです。助かりました。マジで。』

ビリー『今回のピンチは、死を覚悟した。助かった。で、S級のお前がなぜここに?』

ムサシ『ちょっと、王都近くに用があってきたんだが、争っているのが見えて飛んできたわけだ。こいつらは盗賊か。』

ビリー『そうだ。トリッキー兄弟がいる盗賊だった。弟はさっき死んだが。兄はそいつだ。賞金首だ。』

ムサシはダンベルを見て『ふーん。まあ、興味ないし面倒だからお前たち以外は全員死んでもらおう。』と右手を上げて振り下ろそうとした。

ロト『まっ、待って。これ、おでんさんも味方だから。』とおでんを指さした。

ムサシ『おでん?…おでん…おでんってネーミングは日本人転生者か。』

おでん『く…る…し…い…。そ…う…で…す…。』まだ地面に張り付いて動けなかった。

ムサシは、おでんに向かって指で輪っかを作り息を吹いて立てるようにした。そして今度こそ右手を振り下ろした。周りは、盗賊団の死体だらけになった。

おでん『マンイーターもぺしゃんこか。あっ、献上品の剣が折れてる。』

ムサシ『献上品?マジか。やっちまったか。まあ、知らなかったで済まそう。』

ロト『その心配は要らない。その剣はダミーだから。そもそも献上品は剣ではないんだ。』

おでん『えっ?』

ロト『つまり…。』

ムサシ『そんなことより、おでんって、何時こっちに?』

おでん『えっ!まだまだ初心者マーク貼ったばかりです。』

ムサシ『初心者マークって懐かしいなあ。俺はこっちに来て20年ちょっとだからなあ。』

見た目は、おでんよりも若干年上みたいだ。

ムサシ『で、どんなスキルを貰ったんだ?俺は、見せたように重力を操る能力だ。』

おでん『俺は、転生時に女神に嫌われて…魔力ゼロで転生してしまって。』

ムサシ『はあ?なんだそりゃ。じゃあスキル無しの魔力無しなのか。』

おでんは、ちらっとロトとビリーを見てから覚悟を決めて『でもスキルは持ってるし使えるんですよ。』

ロト&ビリー『なにっ!』

ムサシ『へえ~。その辺はさすが転生者だな。で、どんなのだ。』

おでん『未来視だと思います。』

ロト『だから、ムサシさんが来るのが分かっていたんだ。それでうつ伏せになるように言ったのか。』

おでん『そうです。』

ビリー『そうか。これでお前の今までの行動もすべて納得できる。』

おでん『でもムサシさんの重力スキルすごいなあ。』

ロト『ムサシさんはS級ですが、その上のクラスがあればその実力からSSS級レベルと言われてるんですよ。世界最強と言われるくらいなので。』

おでん『Sが3つ。すごっ!あっ、そうだ。ダミーってどういう意味ですか。』

ロト『その話は…とりあえず、移動しよう。ここは血生臭いし。』

ムサシ『じゃあ、適当なところまで行こう。』と言って、馬車ごと飛ばして移動してくれた。


4人は飲食をしながら話をした。

ロト『剣はダミー。本当の献上品は、こっちにある。』

馬車2台の内、ロトたちが乗っていない、言わば荷物等を運んでいる馬車内にそれはあった。

ロト『これだ。』と見せたのは、人間の頭大の卵だった。

おでん『卵?だよね。』

ムサシ『魔物の卵か。何の卵なんだ?クヴァ―ラでは解析できなかったのか。』

ロト『そういうこと。解析できない卵ということで王都で見てもらうことになった。そのついでに最近うちと取引してる商人が襲われるということが度々発生していたので、献上品を持っていくという話を広めたら襲っている奴らは絶対に引っ掛かるだろうと推測した。そして、もしかして盗賊の内通者が近くにいるかもしれないと思い、父の護衛から募集したらあの3人が立候補したんだが…まさか3人ともだったとは、予想外だった。』

ビリー『それだけ献上品が魅力的だったんだろう。』

おでんは、卵をじーっと見ていた。

ムサシ『どうした。未来視で何の卵か分かったのか。』

おでんは振り返り『俺の未来視は1日先までしか分からないから無理です。ただ、ダチョウとかエミューの卵みたいだなあ、とか、玉子焼きにしたらどのくらいになるだろうかと思ってて。』

ムサシ『………ワハハハハハ。お前、面白すぎ。』とおでんの肩を軽く叩いた。

それだけでおでんがふらついた。

おでん『おっとっと。』と後頭部が卵にぶつかり『イタタタタ。』と後頭部を抑える。

ビリー『卵は大丈夫か?』

おでん『俺の頭よりも卵の方が丈夫そうですよ。』

ムサシ『そんなに強く叩いてないぞ。』

ビリー『そうはいってもSSS級だからな。』

おでん『スキルの使い過ぎだと思います。連発すると疲労感が半端ないので。』

ビリー『あ~、魔力なくても、その辺は俺たちと変わらないのか。』

ムサシ『俺には分からん。』

ビリー『転生者は、魔力が豊富だから枯渇したと聞いたことないしな。おでんだけだな。転生者でこの気持ちが分かるのは。』

ムサシ『それで王都に行くんだよな。俺も久しぶりに馬車に乗ろうかな。』

ビリー『はあ?飛んでいけば?』

おでん『えーと。犬猿の仲?』

ロト『けんえんというのは何のことか分からないけど、2人は飲み仲間ですから。』

おでん『あ~、そういうことね。』

結局、馬車を繋ぐことでビリー1人で動かして、ロトとおでんとムサシが馬車内に乗った。

ムサシ『おでんって名前は、やっぱり、おでんが好きだからそういう名前にしたのか。まさか、日本でもおでんじゃないだろ。』

おでん『本名が、田村だから、田をとって音読みで”でん”、”御田”と書いて”おでん”と読むことにしたんです。まあ、ムサシさんのように日本の転生者ならこの名前に反応してくれるかもと期待もしてました。正解でしたね。』

ムサシ『なるほど、俺は、やっぱ異世界なら剣術だと思って宮本武蔵からとったんだ。』

おでん『宮本武蔵かあ。そういうのもありだったか。』

ロト『2人とも楽しそうですね。』

ムサシ『ああ、やっぱり同郷はいいもんだよ。そう言えば女神に嫌われたと言ってたと思うけど、何をしたんだ?』

おでん『やっぱり、それ聞きます?』

ムサシ『無理にとは言わないけど、でもまあ無理ではないよな。』

おでん【あ~、絶対に聞きたいんだな】以前、ギルマスに話した内容を伝えた。もちろんパイパンについては話してない。一応、女の子だから、そういうのは言わない方がいいと判断した。

ムサシ『ハハハハハ、ウケる~。』と大笑いした。

ロト『クククク、おでんさん、ごめん、慰めようがない。ハハハハハ。』

ムサシ『突発的な転生ということか。でも魔力無しでスキルが使えるのは、バグかなにかか。いや話ではスキル付与はされなかったみたいだから、うーん、不可解な話だな。でも読み書きができないのは大変だったな。』

おでん『読み書きは、勉強頑張りました。あとは、前の世界で異世界モノの小説とか流行っていたので、その内容が、こっちでも合致していることが多かったので助かりました。作者に感謝ですよ。』

ムサシ『へえ~、異世界モノが流行ってるのか。20年前とはずいぶん違うんだなあ。あと、その作者はこっちから向こうへの異世界転生者だな。だから合致してたんだろう。』

おでん『へ?』

ムサシ『おいおい、向こうからこっちに来る者がいるなら逆も然りだ。』

おでん『なるほど、納得しました。』

ムサシ『まあ、話からは、向こうからこっちは好きな年齢で転生でき、生活全般等の知識を活かせば冒険者でなくても生活できるけど、こっちから向こうにいった者は、魔力の無い世界でこっちの知識は生かされないだろう。それに住民票とかの問題があるだろうから好きな年齢での転生ではなく、0歳からになるだろう。そして、前世の知識を活用して小説家になるものがでてきたわけだ。』

おでん『すごい洞察力。名探偵○ナンみたいですね。』

ムサシ『その漫画の結末はどうなったんだ?ちょっと気になるぞ。』

おでん『えーと、まだ連載中です。』

ムサシ『はあ!まさかまだ一年生じゃないだろうな。』

おでん『ずーっと一年生です。』

ムサシ『まあいいや。ところで、スキルのレベルアップはしてるのか?』

おでん『あ~、多分。ステータスが見れないからよく分からないけど回数が増えたりしたので。』

ロト『本当に楽しそうですね。固有スキルのレベルアップは転生者限定ですからね。』

おでん『そうなんですね。至れり尽くせりだな。なんか転生者が本気になったらこの世界を支配できそうだ。』

ロト『できるでしょうね。我々には太刀打ちできないと思います。』

ムサシ『おでんは、支配したいのか。』

おでん『全然、そんな気なし。』

ムサシ『即答だな。結局、そういうことだ。転生する条件にそういう因子があるかないかが判断材料の一つなのだと思う。実際にこれまで会った転生者に世界征服を考えてそうな人はいなかったからな。しかし、ステータスが見れないのは困るな。スキル派生ができないんじゃないか。』

おでん『スキル派生?スキルツリーのようなもの?』

ムサシ『スキルツリーは、スキル派生させたものの構図のことだ。俺は重力を操るスキルだが、最初は、自分の周りの重力を操るだけだ。当然自分もその範囲内にいるから使い勝手が悪かった。レベルが上がると、重力を2重に操れるようになった。つまり周りの重力を10倍にして自分だけは1倍のままというように。そうなると魔物討伐が楽になった。そしてレベルが上がるとスキルポイントが貯まる。それで新たな重力スキルを構築できる。飛び道具のようなものもできるぞ。詳細は内緒だ。』

おでん『空を飛ぶことも?』

ムサシ『あれは単なる重力操作の延長だから派生ではない。』

おでん『………レベルは多分2回ぐらい上がってるから、3だと思う。スキルポイントは分からない。』

ムサシ『まあ、レベルを上げたいなら旅をすることだな。スキルレベルは同じことをしていても上がらんぞ。色々な場所や色々なシーンで使ってこそ上がるんだ。』

おでん『使った回数ではなく?』

ムサシ『そんな単純ではない。例えば同じダンジョンでスキルを上げようとすると、最初は上がるが、同じことの繰り返しはスキルの経験値にならない。だから頭打ちになるんだ。俺は世界中を旅してるからスキルレベルは”83”だ。』

おでん『スゴッ!』

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