実技授業

 午後。召喚獣を使った授業が始まった。

 アルフェンたちは、F級教室の裏に集合し、オズワルドを待つ。

 そして、授業のチャイムと同時にオズワルドが現れた。

 

「それでは、これより実技に入る。召喚獣を呼び出せ」


 アルフェンたちは、召喚獣を呼び出す。

 召喚獣はもう一人の自分と言っても過言ではない。複雑な詠唱を必要としたり、精神を集中しなければならないという制約はない。

 ただ、心に呼びかけるだけ。それだけで、心に住む召喚獣を現実に呼び出せる。


「モグ、おいで」

『もぐ!』


 アルフェンは、自分の手のひらに黒いモグラを召喚する。

 モグは前足をひょいっと上げ、アルフェンに応えた。


「来い!! サラマンダー!!」

「ボイス、来な」

「ぴ、ピッグ……きて」


 ラッツは小さな火トカゲ、ハウルは小鳥、マーロンはミニブタを召喚する。


「ホワイト、わたしの召喚獣」

「おいで、モモちゃん」


 レイチェルは白蛇、ラビィはピンクのウサギを召喚。

 残りのクラスメイトたちも、小型の召喚獣を続々と呼び出す。

 召喚が終わると、オズワルドはため息を吐いた。


「見ての通り、これがF級だ」


 その声色は、あからさまに失笑が入り混じっていた。

 数名の男子の眉がつり上がる。


「召喚獣には、一個体につき一つ『能力』が宿る。そして、召喚獣の特徴として、大きければ大きいほど等級が高く、成長も速い。小さな召喚獣など愛玩動物と変わらん」


 オズワルドは、生徒たちの召喚獣を眺める。


「そして、召喚獣の戦術だ。召喚獣の固有能力というのは戦闘に適したものが殆どだ。召喚獣をけしかけ、能力を使用し、魔人を滅する。これが一般的な召喚獣戦術だ。それ以外もあるが……貴様らには無縁なので意味がないな」


 そう言って、オズワルドはため息を吐いた。

 本当に、興味がないのか失望しているのか。アルフェンもあまりいい気はしない。


「では、それぞれ能力を見せてもらおうか。多少なりとも使える能力があれば、等級査定に加えておいてやろう」


 こうして、オズワルドの前で召喚獣の能力を行使する。

 だが、オズワルドを満足させる結果にはならなかった。


「オレのサラマンダーは『火を操る』能力です!」

『カァァッ!』


 ラッツの火トカゲが、指先ほどの炎を吐いた。


「次」

「え……終わり?」


 そして、マーロンのミニブタことピッグ。


「ぴ、ピッグの能力は『身体を膨らませる』能力ですぅ」

『ぷぎぃぃ~~~っ!』


 ミニブタが、子豚ほどのサイズになった。


「次」

「え……」


 ハウルのボイスも、レイチェルの白蛇ホワイトも、オズワルドの目に留まらない。

 もちろん、アルフェンのモグもだった。

 だが、ラビィは少しだけ違った。


「も、モモちゃんの能力は、『足のケガを治す』です」

「む……怪我を?」

「は、はい。その……足だけです。その、擦り傷とか切り傷くらいですけど」

「ほう、回復型か……珍しい」


 オズワルドは、少しだけ気になったようだ。

 ラッツを呼ぶ。


「なんすか?───っでぇ!?」

「えっ……」


 ラッツを呼ぶと同時に、ラッツの足をナイフで切りつけた。

 傷は浅いが、血はしっかり出ている。

 ラビィは青ざめ、アルフェンが駆け寄ろうとすると、オズワルドが手で制する。


「治せ」

「あ、あ……は、はい」

「先生!! いくらなんでも」

「黙れ」


 ゾワリと、殺気を込めた声だった。

 アルフェンの動きが止まり、オズワルドはラビィを見る。


「回復型は貴重だ。下半身だけという制約らしいが、成長すればその枷を外せるかもしれん。まずは貴様の能力を見せてみろ……やれ」

「ぐ、い、いってぇ……」


 呻くラッツを見かねたのか、ラビィはモモちゃんを離す。

 すると、ラッツの周りをぴょんぴょん跳ねまわり出した。

 同時に、ラッツの切れた太腿がキラキラ光り出し、傷口が綺麗にふさがった。


「な、治りました……」

「ふむ、回復速度も申し分ないな。下半身だけという制約が気になるところだが……ふむ、その枷もいずれは外れるだろう。貴様、名は?」

「ら、ラビィです……」

「……召喚士本人のメンタルも考慮せねばな」


 オズワルドは、羊皮紙に何かを書き込んでいた。

 アルフェンたちがオズワルドを睨むのも無視し、ラビィに言う。


「能力を高めておけ。次回の等級査定、期待している」

「…………」


 その後も授業は続いたが……険悪な空気は流れたままだった。

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