十五歳、出発の時

 十五歳になったアルフェンは、リグヴェータ家の自室で荷物をまとめていた。

 着替え、本、モグのおやつ、モグのエサ入れをカバンに詰める。

 大きなカバン一つに全て収まり、アルフェンは自室を眺めた。


「……もしかしたら、もう戻ってこないかもな」


 たいして広くない自室。

 ベッドに机、本棚、窓際に小さなソファだけの簡素な部屋だ。

 これから三年間。アースガルズ召喚学園で過ごすことになる。

 いや、最低三年間だ。学園は六年制度で、召喚士は最低三年は通わないといけない。


「はぁ……」


 アルフェンは、ため息を吐く。

 窓際のソファに座り、外を眺めた。


「…………」


 たぶん、三年でアルフェンは学園を辞めるだろう。

 無難に勉強し、三年後に卒業。在学中はアルバイトをして金を稼ぎ、このアースガルズ王国を出るための資金を稼ぐつもりだ。

 辺境男爵の三男なぞ、どう考えても邪魔だし必要にされないだろう。

 現に、明日出発だというのに、父も母もアルフェンに声すらかけなかった。

 

 アルフェンは、自分が期待されるどころか、邪魔者扱いすらされていないことに諦めていた。

 空気のように扱い、小遣いや用事などは全て執事やメイドを通して行われた。

 兄や姉のために行われた食事会もなしで、とにかくいつも通りだ。


「ま、いいけどな」


 そういって、アルフェンはソファにもたれかかる。

 十五歳にして、アルフェンはリグヴェータ家に興味を失っていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 馬車くらいは用意してくれたのか、リグヴェータ家前には大きな馬車が止まっていた。

 

「おそい!」

「フェニア? ……ああ、そういうことか」

「なに、どうしたのよ?」

「いや別に。それより、荷物積んだのか?」

「うん。アルフェンのは?」

「これ」

「って、そんなカバン一個だけ? これから学園生活あるのに」

「いいんだよ」


 馬車がここにある理由は、フェニアのためだ。

 フェニアはB級認定の召喚士。リグヴェータ家執事の孫娘で、期待されている。

 自分はおまけ。アルフェンはそう思った。

 荷物を積んでいると、フェニアが執事やメイドたちに囲まれていた。その中の一人がフェニアを抱きしめている……リグヴェータ家執事で、フェニアの祖父だ。


「……ま、いるわけないか」


 父と母はいない。使用人たちもフェニアに夢中で、アルフェンを見ていない。

 アルフェンはさっさと馬車に乗り込み、手元にモグを召喚した。


「モグ、これから退屈な学園生活だ。たぶん、ろくなことにならないと思うけど……よろしくな」

『もぐ!』


 モグはアルフェンの手のひらの上で、自信満々に答えた。

 使用人たちと別れたフェニアが馬車に乗り込む。


「はー、おじいちゃんってば強く抱きしめすぎよ。夏季休暇には帰るって言ってるのに」

「はは。別れが悲しいんだろ」

「……アルフェン、いいの?」

「何が?」

「……なんでもない」


 馬車はゆっくり走り出す。

 アルフェンは最後に実家をチラリと見たが……やはり、両親はいなかった。

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