幕間:張り切る雪乃
土曜の夜。
仕事を終えて家に戻った私は、早速自室に戻ると昨日から始めていた小杉さんの服のデザインを詰めていた。
昨日の時点でイメージはほぼできていたし、小杉さんのはラフ画に起こして軽く着色するだけ。それができたら次はハル君の分ね。
でも、本当に妙花ちゃんは、お母さん譲りの直感の持ち主なのね。
私が今日の午前中、日野間モール店に行く予定なんてなかったんだけど。
金曜の夜、小杉さんを家に送る前、妙花ちゃんがこっそり私にこんな助言をしてきたの。
──「明日の午前中、日野間のお店に行って」
って。
小さい頃から彼女の言う事って良く当たるし、それで何度か助けられた事もある。
だから、今回も言われるがまま、店に足を運んでみたのだけど。まさか、小杉さんの意中の彼が現れたんだもの。本当に驚いちゃったわ。
可愛い先輩を連れていた彼。
もしかして、ハル君は小杉さんに興味がないのかって不安になったけれど、そんなのは杞憂ってくらい、彼は彼女に真っ直ぐ向き合ってたわね。
ほーんと。二人とも素直になっちゃえば早いのに。
まあ、大人にとっても子供にとっても、恋なんてそんなに甘くはないんだけど。
でも、そんな恋愛事情に私が絡めるなら、しっかりサポートしないといけないわね。ここからが、デザイナーとしての腕の見せ所。
二人がお互いに目を奪われるだけじゃなく、周囲から見てもお似合いって思えるくらい輝けるデザインにしてあげないと。
後は明日、各方面に協力を取り付けて、一気に仕立てていかないと。あまり時間もないものね。
コンコンコン
「はーい」
「ママ。入っていい?」
「ええ。いいわよ」
私が結菜の声に振り返る事なく、デザインを仕上げる事に注力していると、ドアを開け部屋に入って来た娘が、隣に来てラフ画を覗き込む。
「うっわー! めっちゃ可愛い! これ、美桜ちゃんの?」
「ええ。そうよ」
結菜の顔を見ると、目をキラキラさせてる。
この子がこれだけの反応を見せるなら、掴みは十分ね。
「ママ! これ、私達の分も欲しい! 一緒に出かける時お揃いだったら、絶対可愛いし!」
「そうね。折角だし、一緒に作っちゃいましょうか」
「やったっ! あ。あと、奏から伝言。
そういえばそうだったわ。
詠海もこの件に絡むなら、ちゃんと服に合ったメイクをしてもらわないといけないもの。
「ええ。今日には仕上げるから、明日には送るって伝えておいて」
「うん。あと、パパがご飯できたから、ママを呼んでって」
ちらりと部屋の時計を見ると、既に夜九時過ぎ。
「あら。もうそんな時間なのね。ちなみに今日の料理は?」
「パエリア! ママが頑張ってるって言ったら、パパが張り切って作ってくれたよ」
あらあら。
あの人の料理は昔っから本当に美味しいし飽きないけれど、私も主婦だからって頑張っていたから、味わえるのは久々ね。
「じゃ、先に夕食を済ませましょうか」
「うん! 久々にみんなでご飯食べられるね!」
手にしていたコピックを片付けていると、結菜が凄く嬉しそうな顔をする。
確かに、私も直人さんもお互い忙しいから、中々みんなで食事する時間が取れないのよね。
そういう意味じゃ、仕事以外でここまで頑張らなきゃと思えてるのも久々だし、直人さんには悪いけれど、あの人の料理を味わえるのも久々。
これも小杉さんとハル君様々ね。
「じゃ、行きましょうか」
「うん。あ、ちなみにさっきの話だけど。私、ピンク系がいいなぁ」
「わかったわ。ちゃんとみんな、好みに合わせて色を割り当ててあげるから、安心なさい」
「ほんと? 楽しみにしてるね!」
一緒に部屋を出て階段へと向かいながら、結菜が満面の笑顔を見せる。
そうね。娘達のためにも、人肌脱がないとだもの。頑張らなきゃ。
結菜に釣られ微笑みながら、私は頭の中でハル君の服のデザインを考えつつ、娘と一緒に遅い夕食を共にするためリビングに向かったの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます