第4話 冷たいお母様と冷たい私
私がバーバラ様のことを話したその日。
お母様はあれから部屋に閉じこもったまま食事にも出てきてくれなかった。
お父様が声をかけても返事は返ってこなかった。私に何があったのか聞いてきたが、私は何も知らないと答えた。
お母様が部屋に閉じこもってしまった後、バーバラ様と会っていることも弟がいる事も話してはいけないとお父様から言われていたのを思い出したから。お父様がバーバラ様たちと一緒に暮らしたいと言ってるなんて嘘をついたから。お父様はそんな事言ったこともない。
そう言えばお母様は私をバーバラ様に取られると思って優しくなると思ったから。
バーバラ様と弟オレノのことや、お母様より優しいから好きだと言った時のお母様の表情は、いつもの優しい笑顔が消え、ひどくショックを受けたような顔をしていた。
そして私の願い通り、それ以上叱るのをやめてくれた。
これからもきっとバーバラ様のように、勉強やマナーを厳しく言わないでくれると思う。バーバラ様に嫉妬して、私の気持ちを取り戻すために思いきり甘やかしてくれると思う。
でもお父様にバレたら叱られてしまうから言えなかった。
翌日、お母様は朝食時に食堂に顔を見せてくれた。
ホッとしたけど、お母様は私やお父様の顔を見てもにこりともしなかった。
いつもと違う様子にお父様が不安になったのか、声をかける。
「クラリス、昨日から調子が悪かったようだけど大丈夫かい? 医者を呼ぼうか?」
私も今朝はいつも通りのお母様に戻ってくれると思っていただけに不安になり
「お母様、あの……ご気分はいかがですか?」
と声をかけた。
昨日の罪悪感も少しあったので緊張してうまく言葉にできなかった。
「きわめて元気です。私の心配など無用です」
そしてお母様は紅茶だけを少し口にすると席を立った。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
お父様が心配気に尋ねるも、それには答えずにお母様は部屋に戻っていった。
お母様の後ろ姿を見送って泣く私にお父様は何か知っているなら話せと怖い声で言った。
私は泣きながら昨日の事を話した。
それを聞いたお父様は真っ青な顔になり、お母様の後を追いかけた。
それからしばらくお母様は部屋に引きこもった。
でも私がお見舞いに行くと、お母様は大丈夫よと優しく笑ってみせてくれたからほっとした。
もうお母様は私のこと怒っていなかった。
だってたった一人の可愛い娘だもの。私もお母様の事が大好きなのだもの。
でも毎日部屋に入れてもらえる私と違い、お父様は毎日訪ねていても部屋に入れてもらえなかった。ドアの外で「許してほしい」とか、「黙っていて済まなかった」とか謝るお父様にお母様は返事を返さなかった。
それから十日ほどしてからようやくお母様は部屋から出てきてくれた。運ばせていた食事にもほとんど手を付けなかったお母様はたかだか十日ほどでひどく痩せてしまっていた。
そんなお母様はお父様の執務室に入っていった。
長い間話し合いをしていた二人だったが、話し合いの後、お父様は私にもうバーバラにも弟にも会ってはいけないと告げた。
どうしてと聞く私にお父様は、すまないというだけで他は何も説明してくれなかった。
それからのお母さまは屋敷でほとんど笑わなくなった。
私の事は大切にしてくれるけど、お父様には最低限度の挨拶しかしなかった。お父様が話しかけると、決まって胸が苦しいのでといい、その場をはずすの。
その時のお父様は、辛そうに俯いているの。
なんだかお父様が可哀想で、ちょっぴりお母様はひどいと思ってしまった。
お母様が部屋から出てきてくれるようになったのはうれしいけど、お父様はあんなに謝っているのに許してあげないなんて冷たいと思うの。
きっと、私がバーバラ様やオレノに会えなくなったのもお母様がお父様に何か言ったからなのね。お母様も悲しかったかもしれないけど、貴族なら愛人とか第二夫人とか受け入れるものだと聞いたもの。お母様のわがままのせいで、みんな悲しい思いをしてるのに……。
そう思った私はお母さまに冷たくしてしまった。
だから……罰が当たったのかな。
お母様と永遠にお別れすることになるなんて思わなかった。
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