第21話 魔法の精度

「セマカだって!?あんた、もしかしてあのセマカかい!?」

「な、何だ!?誰だお前は!?」

「あたしの事を忘れたのかい?あんたとは同じ学園だっただろ?」

「なっ!?そ、その声とふてぶてしい態度……まさか、バルルか!?」

「え、知り合いなんですか?」



バルルはセマカの顔を見て自分と同じ学年の生徒だと思い出し、一方でセマカの方は顔色を青くした。二人が知り合いだった事にコオリは驚くが、セマカは慌てた様子で否定を行う。



「し、知らん!!お前の様な女なんぞ、私は知らないぞ!!」

「何言ってんだい、さっき名前を呼んだじゃないか?だいたいあんた、昔私にこくは……」

「わあああっ!!だ、黙れ!!」



セマカは昔の出来事を話そうとするバルルを黙らせようとすると、二人の関係が何となく分かり、どうやらセマカは過去にバルルに告白した事があるらしい。


息を荒げながらセマカはバルルを睨みつけ、マリアに振り返ってどうして彼女が魔法学園にいるのかを問い質す。



「学園長!!何故、部外者がここにいるのですか!?」

「まあ、別にそんな事はいいじゃないかい」

「良くはない!!学園長を殴って退学したような人間がここにいるだけで風紀が乱れる!!」

「学園長を殴った!?」



バルルは退学になった事は聞いていたが、まさか学園長を殴り飛ばして退学になったとは知らなかったコオリは驚く。ちなみに学園長といってもマリアの事ではなく、バルルが通っていた時はマリアは教師を務めていたはずなので先代の学園長を殴った事になる。



「あれはまあ、仕方なかったのさ。あんな学園長にこの学園を任せていたらとんでもない事になったからね」

「ふん、格好をつけるな。正義の味方になったつもりで戦ったと言い張る気か?」

「正義なんて臭い言葉を使うんじゃないよ。あたしは自分のためにしか戦わないんだ」

「二人とも、昔話はそこまでにしておきなさい」



言い争いを始めたバルルとセマカにマリアが注意すると、二人ともマリアの言葉に黙り込み、ばつが悪そうな表情を浮かべて顔を反らす。この二人の関係はコオリは少し気になるが、マリアはそんな事よりもセマカにコオリを授業に参加させるように指示を出す。



「セマカ先生、この子も練習させていいかしら?」

「え?いや、しかしこの子はまだ……」

「お願いするわね」

「あ、はい……」



まだ正式に魔法学園の生徒になったわけではない者を授業に参加させる事にセマカは戸惑うが、マリアに促されると彼女に逆らずに授業内容を説明する。



「い、いいか?あの人形に向けて魔法を当てるんだ。魔法を使うのは五回まで、もしも五回連続で当てる事ができれば星の徽章を上げよう」

「徽章?」

「この学園では上の学年に上がるためには評価が必要なんだよ。もしも年内に十分な評価を上げる事ができなかったら留年、最悪の場合は退学だね。星というのは教師が評価した生徒に上げる評価の証さ」

「か、勝手に説明するな!!」



セマカの代わりに学園の仕組みをバルルが説明すると、コオリは生徒達を見渡すと確かに「星」のような形をした徽章を身に着けている子がいた。


この星の形をした徽章が生徒の評価に繋がるらしく、徽章を多く身に着けている子供ほど教師からの評価を受けている事になる。但し、年内に一定の評価を得られなかった生徒は留年する仕組みらしく、コオリは緊張してしまう。



(よし、練習の成果を試すいい機会だな)



コオリは杖を取り出すと他の生徒が狙っていた木造製の人形の的に視線を向けた。この時に他の生徒とセマカはコオリがどんな魔法を使うのか興味を抱き、彼が魔法を発動させるのを待つ。



「アイス」

「何っ……!?」

「え、何あれ?」

「氷……か?」

「氷の魔法が使えるの?」



杖の先端から青色の光が灯ると「氷弾」が誕生し、それを見た生徒達とセマカは一瞬だけ驚く。しかし、コオリの作り出した氷の大きさを見て戸惑う。



「あれ、なんか小さくないか?」

「何だあれ……大きくできないのか?」

「どんな魔法が使えるのかと思ったら……期待して損したな」

「はっ、あんなので攻撃できるのかよ」

「こ、こら!!お前達、人の魔法を馬鹿にするんじゃない!!」



コオリの小杖から誕生した氷弾を見て幼い子供達は自分達と比べてもみすぼらしい魔法を生み出した彼を笑う。そんな生徒達の姿を見てリンダは眉をしかめ、バルルは鼻で笑う。



(笑ってられるのは今の内だけだよ……見せてやりな、あんたの練習の成果を)



バルルは生徒達に笑われるコオリを見て苛立ち、その一方で期待もしていた。彼女だけはコオリが宿屋の裏庭で魔法の練習を行っていたのを知っており、彼ならば他の生徒の度肝を抜かせると信じていた。



(人形の数は五つ、そして魔法を使える回数は五回か……人形全部に当てる事ができれば合格かな)



他の生徒から笑われながらもコオリは人形に注目し、杖の先端に作り出した氷弾を確認する。距離は人形との距離は十数メートルは離れているが、それでも今のコオリならば当てる事は容易い。


に並べられた五つの人形を見てコオリは笑みを浮かべた。これならばわざわざ新しい氷弾を作り出す必要はなく、一発の氷弾で全ての人形を撃ち抜く自信はあった。



(あの時のように氷弾を移動させてから加速させれば……)



先日に獣人族の誘拐犯に襲われた時の事を思い出し、氷弾を最初に一番端の人形の側頭部に移動させ、高速回転を加える。一度生み出した氷弾はコオリの意思で自由に操作できるのは確認済みだった。



「貫け!!」

「「「えっ!?」」」



コオリが声を上げた瞬間、回転によって加速した氷弾が一番端の人形の頭部を貫き、そのまま並べられている他の四つの人形の頭も貫く。一発の氷弾で全ての人形を破壊したコオリに生徒達は度肝を抜かれ、セマカは信じられない表情を浮かべた。



「ば、馬鹿な!?何だ今の魔法は!?」

「へえ、やるじゃないかい」

「す、凄い!!」

「……素晴らしいわね」



一つの氷弾で五つの人形を見事に破壊したコオリにバルルとリンダは感心し、学園長のマリアでさえも素直に褒める。その一方でセマカは動揺を隠しきれなかった。



(ば、馬鹿な……何だ今の精密な動きは!?)



セマカは最初に魔法を使える回数は五回までと告げたが、彼が伝えようとした授業内容は五つの人形の内の一つに魔法を当てるだけでいいという内容であり、別に全ての人形を狙い撃てと言ったわけではない。


彼が請け負う生徒は未熟なので自分の魔法を制御しきれず、的に目掛けて魔法を当てる事もままならない。それなのにコオリは独学で魔法の力を制御し、精密な動作で魔法を操作できることにセマカは信じられない。



「あの……今のはどうでした?」

「え、いや……そ、そうだな。中々やるじゃないか、他の皆も彼を見習うように!!」

「そ、そんな……」

「今、何をしたの?」

「あんな小さい氷で本当に人形を壊すなんて……」

「ちょっと格好いいかも……」



先ほどまではコオリの魔法を見て馬鹿にしていた生徒達も、彼が五つの人形を破壊した光景を見て混乱していた。そんな生徒達の様子を見てバルルは内心笑みを浮かべ、一方でマリアは考え込むように腕を組む。



(誰にも教わらずにここまで魔法を操れるなんて大したものね。この子は魔力のが小さいのね。だから魔法を発動してもあの程度の大きさの氷の欠片しか生み出せないのね)



魔法学園に通う生徒の中にも魔力量が少ない人間はいるが、それらの人間と比べてもコオリは極端に魔力が低い。もしもこの場にいる生徒がアイスの下級魔法を使えたら彼よりも数倍の大きさの氷を作り出せるはずだった。


魔力を水で例える場合、人間は水を収める器である。そして魔術師は自分の器に収まっている水を利用して魔法を生み出す能力を持つ。コオリの場合は残念ながら器が小さすぎた。



(この子が魔術師として大成できるかどうかは指導者次第ね)



マリアの見立てではコオリの魔力量では下級魔法以外の魔法は魔力消費が大きすぎて扱えない可能性が高い。無理に魔法を使用すれば魔力を使い切って下手をしたら死亡してしまう恐れもある。


しかし、コオリの下級魔法の精度を見てマリアは正直に勿体ないと思った。彼の話によれば魔法を覚えたのは数日前で有り、たった数日の間にコオリは他の一年生が真似できないほど精密な魔法の捜査を可能としていた。。



(もしかしたらこの子の才能は……器が小さい事なのかもしれないわね)



魔力量が少ないのは魔術師にとっては致命的な弱点になると思われがちだが、マリアはコオリの魔法を見て考えを改める。もしかしたら彼が短期間で魔法の制御を行えるようになったのは魔力の器が小さいからなのではないかと考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る