第233話 歯ごたえのある後輩
(なるほど、楽人がわざわざ呼んでくるだけあって、かなりやるな……!)
間沼くんと一対一で戦いながら、僕は彼の力量に舌を巻く。
バスケにおいて、武器となる要素は高さや速さなどいくつもあるが、その中でも間沼くんはテクニックが際立ってすごい。
身長は僕の方が十センチは上だし、スピードに関してもほぼ同じくらいだ。
しかし、技術という点においては彼は僕を上回っている。
特にフェイクの技術はかなりのもので、僕は何度も引っ掛かってしまっていた。
(緩急の使い方とタイミングをずらす技術が一流なんだな。ドリブルもタッチが柔らかいし、生み出した隙からすり抜けていく感じだ)
爆発的な加速で一気に抜き去るのではなく、ディフェンス側の意識やタイミングをずらすことで隙を生み出し、反応できないタイミングで抜き去っていく。
間沼くんに関しては、『上手いプレイヤー』という表現がこれ以上なくぴったりだ。
ただまあ、僕もそう簡単にやられっぱなしというわけではない。
簡単に抜かれないようにある程度の距離を空けつつ、彼の癖を観察しながら対応していくことで、あっさりと抜かれることはなくなっていた。
攻撃の方は身長差があるから、彼は僕のシュートをブロックできない。
ただ、抜かれっぱなしは悔しかったので、一度だけその場でシュートをするふりをして、それをブロックしに来た間沼くんを抜き去ることでリベンジを果たしておいた。
「俺の敗けっすね。完敗だ」
「そんなことないよ。僕がシュートを一つだけ多く決めただけじゃない」
「俺はスモールフォワード、アウトサイドからのドライブインが得意なプレイヤーです。対して尾上先輩はインサイドでのプレーを主体とするパワーフォワード……こっちの得意分野で勝負してもらってるのに負けてるんだから、完敗以外のなにものでもないっすよ」
思った以上に白熱した1on1を終えた後、間沼くんはタオルで汗を拭きながら言った。
僕も上がった息を整えつつ、彼と同じように汗を拭く中、間沼くんがこう問いかけてくる。
「ってか先輩、本当にバスケ辞めてるんですか? 中学で引退してから一年半くらいは経ってますよね? ブランクがあるとは思えない動きだったんですけど……?」
「バスケは辞めても、弟たちに付き合って運動はしてたから。体力はそこまで落ちてないんだと思うよ」
「へぇ……つまり、戻ろうと思えばバスケ部にも戻れるってことなんですね?」
僕の答えに少しだけ喜びの感情を声ににじませた間沼くんが、小さく笑いながら言う。
どう反応しようか困る僕が視線を泳がせていると、ドリンクを手にしたひよりさんが声をかけてきた。
「雄介くん! 間沼くん! お疲れ! 練習開始前なのに盛り上がってたけど、大丈夫? この後、バテたりしない?」
「大丈夫だよ。ちょうどいいアップになった。飲み物、ありがとうね」
「あざっす……!」
わざわざスポーツドリンクを用意してくれたひよりさんに感謝しつつ、僕たちは練習が始まる前に少し呼吸を整えることにした。
程よい甘さと酸味のドリンクを飲んで一呼吸吐く中、間沼くんが僕を見て、口を開く。
「あの、今の女の人ですけど……もしかして、尾上先輩の彼女さんっすか?」
「ああ、うん。そうだね。楽人から聞いてた?」
「まあ、はい。二人いる女子マネージャーの内、片方は尾上先輩の彼女だって……特徴とかはほとんど聞いてなかったんですけど、見ればわかるって遊佐先輩が言ってました」
……楽人は後輩に何を言っているんだろうか? っていうか、僕たちのことをどう話しているんだ?
その言葉通りになってしまったことが若干不服ではあったが、間沼くんを問い詰めても仕方がないので受け流すことにした。
「先輩、ああいう女子が好みなんすね。なんかちょっと意外です」
「う~ん……まあ、好みといえば好みだけど、ちょっと違うような……?」
僕はひよりさんが好きだが、ひよりさんの外見を好きになったわけではない。
ひよりさんが好みの外見をしていたから好きになったわけではなく、ひよりさんを好きになったから彼女みたいな女の子が好きになったというだけだ。
そのことを間沼くんに伝えれば、彼は少し難しそうな表情を浮かべながらこう呟いた。
「なるほど……なんか、愛ですね。いいな、そういうの……」
ぼそりとそう言った間沼くんがうんうんと頷く。
なんでこんな話をする羽目になったんだと思う僕であったが、そんな僕に対して、彼は聞き捨てならない質問をしてきた。
「あの、ついでに質問なんですけど、先輩が尻フェチって本当ですか?」
「絶対に違うと否定させてもらうよ。それ、楽人から聞いたの?」
「うっす」
間沼くんの答えを聞いた僕は、ゆっくりと楽人へと顔を向けた。
何かを察したであろう親友が距離を取り始める中、僕は絶対に不名誉な情報が出回ることを阻止することと、今日の彼に対するメニューは厳しめにすることを心の中で固く誓うのであった。
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