第8話 ひよりの奴、機嫌治ってるといいな~(仁秀視点)

 ――浮気がバレた次の日の朝、俺はひよりのクラスの近くであいつを待っていた。

 あれから一晩が過ぎて、ひよりがどんなふうになったのかが気になったからだ。


 去り際に俺にジュースをぶっかけたあいつも、時間が経てば落ち着いたかもしれない。

 案外、冷静になっているかもしれないし、もう一度話ができるかも……と考えていた俺は、登校してきたひよりの姿を見て、笑みを浮かべた。


「ひより、おはよう!」


 運命が味方してくれたように、今、廊下には俺たちしかいない。話をするにはうってつけの状況だ。

 だから俺は、いつもと同じようにひよりに声をかけたのだが……あいつは俺を一瞥すると、無言でその横を通り過ぎて教室に入ってしまった。


「ひ、ひより……?」


「………」


 挨拶を返すどころか、俺を見向きもせずに完全に無視したひよりの態度に、ちょっとショックを受ける。

 だけどまあ、やっぱり一日程度ではあいつも落ち着かなかったかと、やはりそう上手く話は転がらないかと考えた俺は、自分のクラスに戻る前に教室内のひよりの様子を窺ってみることにした。


 友達と話をしているか、机で一人でぷんすかしているかだろうなと予想したのだが……そんな俺の目に、想像もしていなかった光景が飛び込んでくる。


「はぁ!? あいつ、なんであんなベタベタと……!?」


 俺が目にしたのは、ひよりがクラスメイトの男子に後ろから抱き着いている姿だった。

 少し離れたこの位置から見てもわかるくらいに体を密着させ、顔も近付けていて……その状態でひよりは男子に何か話しかけたようだ。


 男子の方も驚いたようで、慌てて振り返っている。

 そして、振り返った男子の顔を見た俺は、ハンマーで頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。


「尾上、雄介……!? あ、あいつが、ひよりと……!?」 


 あの覇気のない顔も、デカい体も、絶対に忘れはしない。あいつは、俺の中学バスケ生活に終止符を打った男……尾上雄介だ。


 中学時代、エースとしてチームを引っ張っていた俺は、最後の夏の大会であいつが所属するバスケ部とぶつかり……完膚なきまでに負けた。


 俺より一回りくらい背が高いあいつは悠々と俺のシュートをブロックしてきたし、あいつのシュートを俺は止めることができなかった。

 必死に尾上を抜こうとしたが、あいつのチームメイトが上手くカバーをしてきたせいでこっちの攻撃は完封されて、第一クォーターが終わる頃にはほとんど決着がついていたくらいだ。


 その尾上が、俺に涙を流させるほどの敗北感を刻んだあの男が、ひよりとべたべたとくっついて話をしている。

 プライドを極限まで傷付けるその光景に拳を握り締め、わなわなと全身を震わせていた俺であったが……ある天啓を得ると共に、頭の中に稲妻が走った。


(そ、そうか……!! ひよりの奴、俺にやきもちを焼かせようとしてるんだ!!)


 尾上とひよりはクラスメイトだが、それ以上の関係性ではない。あんなふうにひよりが尾上に抱き着くような真似をするのは、完全におかしいのだ。

 でも、実際にひよりは尾上に抱き着いていた。何故あいつは、そんなことをしたのか?


 答えは簡単だ。俺が尾上をライバル視していることを知っているから、ひよりは敢えて俺の前であいつとベタベタすることで俺にやきもちを焼かせようとしているんだ。


 さっきは俺を無視してたけど、本当はひよりは俺のことを意識しているに違いない。

 あんなふうに俺のライバルと仲良くする姿を見せつけて俺に構ってもらおうとするだなんて、意識しているどころか未練たらたらじゃあないか。


(ったく、あいつもまだまだガキだなぁ~! そんなやり方で俺が焦るとでも思ってんのかよ?)


 ひよりの考えがわかってしまえば、何も焦ることはない。というより、あいつがまだ俺を意識していることがわかって嬉しいくらいだ。

 ここは焦らず、どっしりと構えてひよりを待つだけでいい。その内、あいつも自分が好きでも何でもない相手とベタベタしていることに虚しさを感じてくるだろう。


 そこで俺が声をかける。もう気にしてないから、戻ってこいと言う。ひよりは喜びながらも素直じゃない態度を見せて、それでもやっぱり俺とよりを戻すことを決める……完璧だ。

 ひよりのことを誰よりも理解している俺には、この先の展開が全てわかっていた。

 だから今はひよりを放置するのが一番だと……もうこんなふうに気にしている素振りを見せたりせず、敢えて距離を取ることが復縁の近道になると、そう考えた俺は今後の方針を決めると共に上機嫌で教室に戻っていく。


(考えてみれば、ひよりと付き合えたのも尾上のおかげみたいなもんだしな。今回もあいつを利用させてもらうか!!)


 ある意味では尾上は俺とひよりのキューピットだ。あいつに負けて悔し涙を流している時に、ひよりが慰めながら告白してくれた。

 今回もそんな感じで利用させてもらって、俺とひよりの復縁に役立ってもらおう。

 仲良くしてた女子がいきなり冷たくなって、他の男のものになるだなんて尾上はショックだろうが……それまでいい夢を見られるんだから、十分だろう?


 ただ一つ、ひよりのデカパイを当てられてたことだけは本気で許せない。ひよりも俺に見せつけるためとはいえ、そこまでする必要なんてないじゃないか。

 これはもう、よりを戻した暁には思いっきりひよりのおっぱいを揉みまくるしかないなと考えながら、その感触を想像して興奮しながら、俺は教室に戻り、心の中でその日の到来を待ち侘びながら想像を膨らませ続けるのであった。


―――――――――――――――

感想やアドバイスをありがとうございます!

色々とご意見を頂いた結果、明日からは17時と18時過ぎに一話ずつ、毎日二話投稿していくことにしました!


ここからちょっとえっちだったり、微妙にざまぁな展開になるようなお話が続いていくと思います!

既に一章の完結までは書き上げてあるのですが、ご意見を頂けると物語を作る参考になるので、よろしければ良かった点や気になった部分を教えていただけると嬉しいです!

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