25話 マウスtoオブラートtoマウス
「では、カップルの証明……キスをして下さい」
俺とダリアはチェックインのためにフロントまで来ていた。カウンターの向こうでは50半ばと思われるホテルマンのおっさんがこちらを見ている。
ここに来る前に、コンビニに寄った。オブラートを買うためだ。今考えたらオブラートを求めてコンビニに行くのは頭が悪いが、奇跡的に売っていた。
このオブラートをどう使うのかだが、キスの時に使うのだ。どんなキスでも駄目で、マウスtoマウスでないと泊まるのを認めてくれないらしい。そこでキスの時にこっそりオブラートを挟んでマウスtoオブラートtoマウスにするのだ。これなら俺達のファーストキスも守られるし、一線を越えなくて済むという算段だ。
“オブラートって破れたりする?”
“しらん”
俺とダリアは言葉を交わさずとも目で相手の言いたいことがわかる。どうやらダリアも不安なようだ。
「恥ずいから目瞑ってくんね」
ダリアは黙って目を閉じた。本人は気づいていないのかもしれないが、耳が真っ赤だ。かく言う俺も顔が熱い。
俺はなるべく自然に口を手で覆い、オブラートを口に当てた。オブラートを少し噛んで離れないようにする。おっさんを見ても怪しんでいる様子はない。
ダリアは背伸びをしてキスを待っている。そういえばこいつは俺よりも身長低かったな、とあまりキスの事を意識しないようにして顔を近づけた。
一瞬だけ、オブラートを挟んで唇が触れた。一瞬だけだったがわかる、凄い弾力だ。
(さよなら俺のファーストキス……)
すぐに俺は唇を離して上手くオブラートを口に入れてそのまま食べた。
「……これで良いですよね?」
「はい、確認しました」
俺はなるべく平静を装い、スマートにチェックインを済ませた。その間、ダリアはずっと顔を手で覆っていた。
*
弟にキスされてしまった。正直めっちゃ恥ずかしい。しかし私はそれと同時にある感情が込み上げてきている。
(ショウのファーストキス……最高)
少し嬉しかった。私が小学生くらいから面倒を見てあげている弟が、ここまで勇気を出して漢になってくれた。成長が感じられる。今私は顔を隠しているのだが、これは恥ずかしいからではない。嬉しくて、顔がニヤけているのを隠すためなのだ。
手の隙間からショウ君を見ると、若干耳が赤くなっている。初心だなぁ、と完璧な漢には成り切れていないショウ君を見て私は自分に気持ち悪さを覚えた。
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