第7話 別れと旅立ち



「悪いはいねえがぁ!」

「うわぁ!なんだ!」

「襲撃だ!野郎ども!やっちまえ!」

「応!......あれ?かしら!ぶ、武器がねえ!」

「ナニィ!あれ、俺の鉈は!?」

「動き出しが遅いねぇ。武器に頼りすぎているのも良くない。......よっと。だからこんなにも簡単に制圧される」


 慌てて椅子から立ち上がろうとした男の顎に掌底を喰らわせて、仰け反ったところを背後に回り込んで背負い投げの要領で投げ飛ばす。

 他もウルスたちやフクロウ軍団によって組み敷かれたり床に押し押し倒されていた。

 ふぅ。ここも完了っと。

 僕が勢いよく突入して注意を引き付けている間にアニフィがすばやく武器を没収。賊が戸惑っている隙に全員で制圧する。完璧な作戦だ。

 主に鳥系の眷属に探索してもらって森に潜む賊を狩りまくり、力も5%解放までは慣れて使えるようになった。

 そろそろ頃合いだろう。


「みんな、ちょっと聞いてほしいんだけど。そろそろ森を出ようと思う」

「......そうか、ついに動くのか」

「今のこの生活わりと好きなんだけどな......」

「僕らの目的を忘れちゃダメだよ。みんなが笑って暮らせる世界を作る。それには実際に世界を見て変えていかなくちゃ」

「......そうね。私たちみたいな思いをする人がいなくなるように」

「そう、だったな」

「まずはどこへ行くか決めてるのか?」

「うん、とりあえず崖の向こう側にある街に行ってみようかなって。あそこなら伯爵家に見つかることも無いだろうし」


 伯爵はルナールの存在に怯えているし次兄も痛い目を見たからおとなしくしているかもしれないけど、長兄がどう動くか分からないから一旦他を見て来ようというわけだ。


「あそこはシュヴェーレン公爵領だったか。たしかに伯爵では手出しも出来ないが、いきなりそんなとこ行って大丈夫か?」

「ま、なんとかなるでしょ。ヤバそうなら逃げてくるし」

「たしかに主様ならなんとかしちまうか」

「......むしろ公爵領のほうが心配」


 公爵かぁ。前世と同じであるとは限らないけど、爵位の中では一番上で王族であることがほとんどだったはず。

 そんな偉い人が治める街ならこの国の判断基準にもなるかな。楽しみだ。


「アニフィの分体残していくからよろしく。何かあれば連絡するね」

「おう。俺たちも出来るだけ情報集めてみるぜ」


 実際に行くのは僕とルナール(人化)、アニフィ、ブランだ。

 シエルたちフクロウ隊はさすがに一緒に行動は出来ないが、街の外を監視してもらったりとやってもらうことはある。

 さて、街へ行くには崖を越える必要がある。ということでヒッポグリフのサボに乗っていくのだが......。


「むむむ無理じゃ!妾やっぱりここに残っておるぞ!」

「それは困るなぁ。ルナールがいると心強いから一緒に来てほしかったんだけど......」

「うぐぅ......。し、しかしだな!」

「ほら、さっさと行くよ。じゃ、サボお願いね。みんなも元気でね!」

「ああ、主様も気を付けてな!」

「主様の活躍、楽しみにしてるわ」


 ぐずるルナールを抱えてサボに乗り込む。サボはひと鳴きして助走をつけていく。

 ルナールは見るのも怖いのか、僕と向かい合わせになって必死に僕にしがみついている。

 こうしていると妖狐とは思えないし、モフモフだから抱き心地も良くて最高だ。

 あっという間に崖を飛び越えて、人気のなさそうな場所に着地する。サボには森を守ってもらうという大事な役目があるのでこのまま戻ってもらう。

 サボが別れを惜しむように頭をこすりつけてくる。よしよし、またすぐに会いにいくからね。


「よし、とりあえず街に入ろうか」

「あ、あるじぃ......少し休ませてくれぬか......」


 ルナールはすっかり腰を抜かしてしまったようでへたりこんでいた。飛んでいたのはほんの少しなのに情けないなぁ。


「ほら、乗って」


 仕方なくかがんで促すと、僕の背中によじ登ってくる。

 アニフィも触手を使ってサポートしてくれた。ぷにぷにしてるのに意外と力あるよね。

 ルナールを背負って街へと歩き出す。すでに街の入り口は見えているが公爵領だけあって、大きな門がそびえている。

 そしてその門では当然のように検問のようにチェックが行われていた。

 伯爵領の街では防壁も検問も特に無かったな。領主がアレだから仕方ないのか。

 ルナールが封印されていた森の近くだし賊もあれだけ蔓延っていたのに伯爵領無防備すぎるでしょ。


「領都シュヴェールへようこそ。身分証は持ってるかい?」

「はい」


 手渡したのは2人分の冒険者カードだ。こんなこともあろうかと伯爵領で作っておいたのだ。


「うん、問題ないね。背中の子は大丈夫かい?」

「......だいじょぶじゃぁ」

「疲れてグッタリしてるだけですので。おすすめの宿屋ってありますか?」

「ああ、それならこの大通りを行くと右手に見えてくる『狐の嫁入り亭』が料理美味しくておすすめだね」

「ありがとうございます」


 とりあえず今日はルナールが動けそうにないし宿でゆっくりするとしよう。

 それにしても狐の嫁入りってお天気雨みたいな意味じゃなかった?大丈夫かな......。







  *   *   *



「——まだ見つからないんですの!?」

「申し訳ありません。我々も探してはいるのですが、なにぶん情報が少ないもので......」

フクロウを連れている人・・・・・・・・・・・なんてそうそういるものじゃないわ!あの時微かだけどたしかに人の声が聞こえたもの。おそらくまだ若いわ。なんとしてでも見つけるのよ!助けてもらってお礼もしないなんて公爵家・・・の恥だと思いなさい!」

「分かっております。引き続き捜索を行いますのでお嬢様はお屋敷にてお待ちください」


 使用人が退出してひとりになった部屋で、その女性は呟きを漏らした。


「......まったく。必ず見つけ出して見せるわ。ふふふ、待っていなさい」




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