伯爵家を追放されたテイマーは日陰を嗤い歩む

もやしのひげ根

第1話 追放されたけど計画通りです


「ラモールよ。貴様を我がペルダン伯爵家より追放とする」

 

 伯爵家の執務室。椅子に腰かけた大柄な男から厳かな声が発せられた。

 それに対峙するはほんの小さな子供だ。

 

「......父上、本気でおっしゃっているのですか?」 

「無論だ。あの女がしつこいから今までここに置いてやったがそれももういない。貴様も10歳なら1人で生きていけるだろう。どこへでも勝手に行くがいいが、二度とここへ戻ることは許さん」

「そう、ですか。............クッ」

「なんじゃ、震えておるのか。恨むなら自身の才能の無さと産んだあの女にするんだな。遊びで抱いてやっただけなのに家族面しよって。虫唾が走るわ」

「クク......フフフ............ああ、ダメだ。ここを出るまで我慢しようと思ったのに。ようやくこの時が来たと思うと笑いがこみあげてしまう」

「貴様、何を言っておる」

「いやぁ、僕も大変だったですよ。僕をこんな目に遭わせた奴に対する怒りを抑えるのは。ま、その辺のお礼はさせてもらいますのでお楽しみに。それでは」

 

 相手が再び口を開く前に出ていく。

 ようやく自由だ。こんなところ早く出たかったが家出扱いされても困るし、あいつの口から追放の言葉が出るのを待っていたのだ。

 

 僕は所謂いわゆる妾の子というやつだ。伯爵が遊びで母さんに手を出して僕を身ごもった。仕方なく僕らを敷地内に住まわせることにしたが、本邸ではなく離れだ。

 一緒といっても、母さんは僕を見ようとはしなかった。最低限の食事だけ置いてどこかに行っていた。

 こんな生活をするくらいならここを出た方がいいのではないのか。何故伯爵家にいることに拘るのか。聞いてみたことはあるのだが、母さんは何も答えなかった。そして今となっては答えを知る術もない。

 母さんが離れに2日帰ってこなかった日、母さんが死んだことを知った。本邸の使用人の1人がそう伝えに来たのだ。伝えられたのはその事実だけ。死因も状況も何も分からなかった。

 そしてあの男に呼び出されて追放の2文字を告げられたのだ。

 

 普通、10歳ならこんな状況に追い込まれれば泣きわめくかもしれない。

 だが僕には前世の記憶がある。転生者というやつだ。

 だからこの未来は予測できたし、そのための準備もしてきた。逆にこの瞬間が待ち遠しかった。

 前世では何を成すことも無く、ただ社会を動かす歯車として動いていただけだった。そして世界に蔓延した感染病で誰に看取られることもなく最期を迎えた。

 死ぬ時まで後悔するなんてもうごめんだ。今度こそ満足だと言って笑って死にたい。

 

 伯爵家の敷地の境界に立つ。踏み出すのは大きな1歩だ。

 伯爵家の外に出るのは初めてだ。ここから始まるんだ、僕の異世界での冒険が。

 この世界はどれくらい広いのだろう。どんな食べ物や景色があるのだろう。ワクワクが止まらない。

 

 

 

 

「もう出てきていいよ」

「キュゥ?」

「ごめんねブラン、狭かったでしょ」

 

 

 伯爵家を出て歩きつつ発した僕の声に反応して服の内から顔をのぞかせたのは白い生き物。なんという種類なのかは分からないが、オコジョのように細長い体をしている。

 このブランとの出会いが俺の人生を変えた。


 ある日、どこからか急に現れたこいつはお腹を空かせていた。僕のご飯を分け与えたり体を綺麗にしてやったりするとすぐ懐いたのだが、その際に不思議な感覚と同時にブランの額部分に謎の紋様が浮かび上がった。

 初めての経験なのに、僕にはそれがなんなのか分かってしまった。

 ブランが与えてくれたのか元々僕の中にあったのかは分からないが、それはテイムというスキルだ。

 

 能力を解明しようと実験を繰り返した結果、色々なことが分かった。

 テイムといってもただ従えるだけのスキルではない。大きな特徴は「共有リンクする」ということだ。

 まず共有出来るのは一部の感情だ。僕の言っていることは理解しているようだが逆に向こうの言葉は分からない。が、喜びや悲しみといった感情は伝わってくる。あとは身振り手振りでも表現してくれるのでなんとなく言いたいことが分かる。僕の知能をブランに共有しているという可能性もある。

 さらには集中すると視覚も共有出来た。僕自身が動かなくとも、ブランたちを通して情報を集めることが出来る。試しに窓に寄ってきた鳥に餌付けして遊んでたらテイムに成功し、視覚共有をしてみるとまるで自分が空を飛んでいるような気分を味わえた。しかし視覚共有は一度に1匹までしか共有できないようだ。

 

 テイムした子たちのおかげで、果実を持ってきてくれたり寂しさを紛らわせてくれたりと僕を助けてくれた。

 僕はひとりじゃない。この力を使ってこの世界を生き抜いて満喫してやるっ——

 

 

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