報奨

翌日にカザフ達の服を新調してやり、その後はロッカ達と訓練に行かせた。マーギンはハンナリーと職人街に行き、マギュウの差し入れとタイベに持って行く醤油やら魔道具を受け取った。


「ハンナ、商業組合に行くぞ」 


「何しに?」


「お前の商会の登録だろうが。一人で全部出来るのか?」 


「ライオネルで登録はしたで」


「それで全部通用すんのか?」


「あかんねやろか?」


「なら、それを聞きに行くぞ」



と、マーギンはハンナリーを連れて商業組合へ。


「マーギンさん、お久しぶりです」


マーギンは職人達の窓口であるミハエルを訪ねた。


「久しぶりだなミハエル。今日は職人達のことじゃないんだけどいいか?」


「どんな内容ですか?」


マーギンはハンナリーが商会を立ち上げて、どのような商売をするか説明をする。


「流通と王都に店舗を持つのですね?」


「そう」


「従業員はどれぐらい雇われますか?」


「70人以上かなぁ。まだ未定だけどそれぐらいにはなりそうだな」


「結構大掛かりですね。タイベにも店を持ちますか?」


「そうしたいとは思ってる」


「複数の店舗を持つと税金が結構掛かりますから初めから全部登録せずに、店舗はできてから順番に登録された方がいいでしょうね」 


どうやら従業員の数が増えると大規模商会扱いになり、税金も高くなるのだそうだ。しかも、王都、ライオネル、タイベと領を跨ぐことになるので、本拠地をどこにするのかという問題も出て来るらしい。


「本拠地をタイベにすると税金は安くなりますよ」


「そうなの?」


「はい。タイベはちょっと特殊なのですよ。先住民の事とかもありますので。商売の信頼度を優先するなら王都を本拠地にされるのが良いと思いますが、すでに仕入れの取引先を確保されて、自社販売をされるのであれば信頼度の優先順位は下がりますから。あと資金の融資を組合から受ける必要があるなら信頼度の優先順位をどうするのか悩みますけどね」


「融資とかあるんだね」


「はい。手持ちの資金だけで商売が成り立つ人は少ないですよ。融資を受けるには色々と書類を準備して頂くのと、保証人が必要になります。申し訳ないのですが、マーギンさんはこの国の方ではないので保証人にはなれませんのでお気を付け下さい」


なるほどね。


「なら初めは流通業だけでやるか。ハンナ、お前の持ってる登録証を出してくれ」


ハンナリーの持っている登録証は個人売買のもので、今からやろうとする流通業には使えないものだった。


「では流通業としての登録を致します。従業員を正式に雇われた時に、もう一度申請をし直してもらえますか?」


「了解。担当じゃないのに悪いね」


「いえいえ、マーギンさんのお陰で貴族街の商業組合との業務がスムーズに進むようになりましたのでそういったストレスがなくなったのです。本当にありがとうございます」


「それは良かったね。あ、組合に冷蔵庫はある?」


「えぇ、ええありますよ。」


「じゃ、これ差し入れにあげるよ。この前皆で狩りをしてきてね。美味しい肉だから良かったら食べて」


と、マーギンは10kg程のロース肉の塊をドンっと出した。


「これは見事な肉ですね。何の肉ですか?」


「アカゲマギュウといってね、魔物の肉なんだけど、脂の多い牛肉みたいなものだよ。この部位はステーキか薄切りにして鍋で食べてもいいよ。職人街で販売を始めた醤油という調味料に合うから試してみて。できれば組合長にもお裾分けしといてね」


「はいっ、ありがとうございます。遠慮なく頂きますっ」


ミハエルは魔物肉だと聞いて遠慮せずに受け取った。通常魔物肉は安価なものが多いからである。



「マーギンに一緒に来てもろて良かったわ」


商業組合から出たマーギンとハンナリー。


「俺も詳しいわけじゃないぞ。だから組合の担当とは仲良くしとけよ。普通は税金の安くなる方法とか教えてくれないだろうからな」


「なんで?」


「当たり前だろ? 組合がそれを教えてなんの得があるんだよ? 各組合で横の連携はあるだろうけど、基本はそれぞれの領地に属しているからな。自分の所で本拠地を登録してもらった方が良いに決まってる」


「はぁ、そういうもんかいな」


本当にこいつに商売を任せて良いのだろうか? と、不安になるが、シスコが面倒みるからまぁいいか。



その後、タイベに行くための食料とかお土産を買い込みにあちこちの商店に行くのであった。



ー翌日ー


「マーギン、では行くぞ」


大隊長に連れられて王城へと向かう。報奨を賜りに行くためだ。

 


「よく来たマーギンよ」


玉座に座る王が跪くマーギンにそう声を掛けた。まるでロールプレイングゲームの勇者の旅立ちのシーンのようだ。薬草とショボい武具とかくれるのかもしれん。


おもてをあげよ」


一度目で顔を上げるなと大隊長に言われていたのを思い出し、顔を上げそうになったのを堪える。


「面をあげよ」 


「はっ」


全く面倒なやり取りだ。


「この度の貴殿の活躍は我がシュベタイン王国に多大なる貢献をした。よって、報奨を与えるものとする」


「はっ、ありがたいお言葉に感謝致します」


「まず報奨金10億G」


ざわっ


数名の貴族もこの場におり、庶民の異国民に対して報奨金の額の大きさにざわめきが起こる。


マーギンは10億Gと言われてもピンと来ない。へぇ、報奨ってお金でくれるんだ、みたいな感じなのだ。


ん? 待てよ。王はまずと言ったな。まだなんかあるのか?


「続いて、トイシャング家の屋敷を与えるものとする」


「は?」


ざわざわざわざわ


トイシャングは特許絡みで不正を働いた伯爵家だ。お取り潰しになって屋敷の主人が居なくなったから俺にくれるってことか?

 

いらねー


「本来であれば爵位を与えたいところじゃが、貴殿は異国人であるがゆえ、金銭及び屋敷を報奨と致した」


「陛下、恐れながら申し上げます」 


マーギンが何かを言おうとする前に、他の貴族が王に意見を述べたいと申し出た。


「なんじゃ?」


「この者の功績がどのようなものか分かりかねますが、トイシャング家は名門伯爵家。その屋敷を異国人に与えるとはいささか疑問に思えます」


「どのような功績か…… オルヒデーエを呼んで参れ」


王は王妃をこの場に来るように命令する。そして現れた王妃を見て皆がぎょっとした。


「お、王妃様、その御髪はいったい……」


「何か?」


王妃の髪型を見て驚いた貴族を凍り付くような視線で睨む。


「い、いえ、何もございません」

 

それ以上何も言わなくなった王妃の代わりに王が説明をする。


「これはトイシャングによって暗殺されかけ、王妃はこのような髪型になってしまったのじゃ」


「なっ、なんですとっ。あぁ、王妃様。そのような髪になられてなんと痛ましい」


そう気遣った貴族は王妃にゴミを見るような目で見られる。


「マーギンはトイシャングの王妃暗殺計画を事前に把握し、暗殺を阻止したのじゃ。他にもライオネル領のトナーレ町長の不正発覚、ライオネル・タイベ間の海賊討伐、タイベ領主代行の不正発覚を行ったのじゃ。それ以外にも北の領地を魔物の脅威から守り、ライオネルも魔物に襲われるのを事前に阻止したのもある。貴様に同じ事が出来るか?」 


王は口を挟んだ貴族に、お前も同じ事をやってみせよといった感じで窘めた。


「い、いえ、滅相もございません」


「此度の王妃暗殺未遂、並びに各不正の内容及び処分に付いては、来年の年頭に正式発表を行う。本日はマーギンの報奨が主であるのでこれ以上の説明はせぬ」


これ以上、他の貴族に口を挟ませないようにそう宣言したのであった。


「あの陛下、恐れながら申し上げていいですか」


「なんじゃ、マーギン。まだ足らぬか?」


「い、いえ。そうではなく、報奨が多すぎるのではないかと思いまして。特に屋敷は頂いても困ります」


「貴様っ、陛下の報奨を断ると申すのかっ」


「私は貴族でもありませんし、貴族街にある屋敷を頂いても住むことはありません。恐らく使用人とかもそのままおられると思いますので、その方達を雇い続ける甲斐性もございません。屋敷の主がおられなくなるのであれば、しかるべきお立場の方に与えられる方が宜しいかと思います。報奨金の10億Gも過分な報酬だと思いますし」


トイシャング家の不正の真相は王妃暗殺ではなく特許の不正だ。トナーレはアイリスの復讐、ライオネルはハンター業務、北の街の防衛もシスコの母親の実家がなければ手を出すつもりもなかったのだ。魔物の関係はすでに報酬をもらっているし、国から10億Gの報酬を貰うようなものでもない。


「マーギンさん」


「はい」


話し掛けたのは王妃。


「屋敷の件は分かりましたわ。その報酬は取り下げて他のものに致しましょう。報奨金は受け取りなさい。今後必要になりますわよ」


ん?


「自分はそんなにお金を使うことはないのですけど?」


「異国人であるあなたは融資を受けられないのではないですか?」


あー、もうバレてる。というか商売はカタリーナも絡むから、開業資金が必要になるのが分かってた訳か。俺が商会をやるわけじゃないけど、ハンナリーの手持ちだけだと足りないだろうから俺が投資することになるのが読まれてたんだな。


「はい。ではありがたく頂戴致します」


「ええ、そうして頂戴。マーギンさんの当然の権利ですから」



こうして報奨の件は終了し、他の案件が終わるのを待たされた後に王の私室に呼ばれた。



「マーギン、屋敷はいらぬと申すのか。トイシャング家の屋敷は立地も良いし、土地も広い。王都であのような物件は手に入らぬのだぞ」


「そんな屋敷に住むような柄では有りませんよ。今のボロ屋で十分なんです」


「お前は欲がなさ過ぎるぞ」


「欲は有りますよ。旨い飯と酒と風呂は必要ですから」


「お前というやつは……」


と、呆れられるが、使用人がいる屋敷なんて堅苦しくて嫌なのだ。


「マーギンさん、屋敷の代わりの報奨は何がいいかしら?」


「いや、10億Gも頂けるだけで十分です。王様が説明された功績内容も事実と違いますし。トイシャングも王妃様暗殺は企ててなかったですよね?」


「表向きはそうしておかないとダメなのよ。本当の報奨の中身は騎士隊の訓練、軍の改革、それとカタリーナの件ですわ。これらは公に報奨を払えませんのよ」


なるほど。


「で、屋敷の代わりはカタリーナでいいかしら?」


「いりません」


即答するマーギン。


「オルヒッ。カタリーナを報奨とはなんということを言い出すのじゃっ」


怒る王を無視してマーギンに話し続ける王妃。


「マーギンさん。カタリーナにはローズも付いて来ますわよ。トイシャングの屋敷でカタリーナとローズと一緒に暮らすというのはいかがかしら?」


《カタリーナにローズを添えて》


そんなメニューがマーギンの頭の中に浮かび上がる。ではメインのカタリーナは横に避けてローズを……


ステーキに添えられたピーマンを食べる想像をするマーギン。


いや、この甘言に乗ってはダメだ。というより、やらねばならない事もあるし、不老の件もある。それに俺は本体ではなくコピーだからな。なんとなくコピーの俺は子孫を残せないのだろうと思っている。


「王妃様、悪い冗談ですよ。カタリーナ姫様もローズもちゃんとした人との子孫を残さなければなりません」


「あら、マーギンさんはちゃんとした人ではないのかしら?」


「そうですね。自分は人ではないのかもしれません。魔力も魔法適性も異常ですから。世が世なら自分は魔王と呼ばれるものかもしれませんよ」


「マーギンさんが魔王…… でも人間に仇をなさない魔王であれば問題ありませんわ。不正を働く人間の方が宜しくなくてよ」


と、最後は冗談で済ませてくれた王妃。


屋敷の代わりの報奨は保留ということになり、マーギンは10億Gの報奨金を受け取ったのであった。


そして、王の私室を出てから大隊長と騎士隊本部へと向かう時にマーギンは昔の事を思い返していた。


王妃の言った言葉『人間に仇をなさない魔王』か……


マーベリックは魔王と戦っている時に何を話していたのだろうか?


後方からマーベリックとガインの補助をしていたマーギンには内容が聞こえていなかったが、マーベリックが魔王に剣を手で止められた時に何かしゃべってたように見えた。ガインもマーベリックに魔王の言葉に惑わされるなっと叫んだからな。


マーギンは復活してから自分が石化された理由と石化が解けた理由ばかり考えていたが、あの戦いをもう一度よく思い出した方がいいのかもしれないと思うのであった。


「マーギン、聞こえてるのかっ」


大隊長に大きな声を出されて我に返る。


「あぁ、ごめん。なに?」


「今晩、王城の中庭で焼肉だからな」


は?


「聞いてないよ」


「文句は姫殿下に言え。俺のせいではないからな」


カタリーナがいかにアカゲマギュウが旨かったのかを王と王妃に説明したのが原因だそうだ。


10億Gももらってしまった手前、嫌ですとも言えなかったマーギンはわかりましたとしか返事が出来ないのであった。




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