戦闘開始
ー軍との実戦訓練当日ー
マーギン達は大隊長に連れられて、軍の演習場に来た。演習場は平地と森に別れているらしいが、今日の実戦訓練は平地のようだ。
「軍に有利な地形だね」
と、マーギンは大隊長にふーんといった感じで言う。
「森だとお前らが勝っても兵士が言い訳するだろうから平地にしたようだ」
「閣下は自軍を負けさせたいの?」
「勝つより、負けから学ぶ事の方が多いからな。お前らのような奴らと戦うのは兵士達の勘違いを正すのに役立つ」
「まぁ、こちらはある意味特殊部隊みたいなもんだからね」
「マーギンは参戦するのか?」
「するつもりはないよ。ヤバそうな時に防御するだけかな。あと訓練開始前に勝ち負けの定義を閣下と話したいんだけど」
「そうだな。マルクももうすぐ来るだろう」
と、言っているうちに、ザッザッザッと軍隊を率いてマルクがやって来て大隊長と挨拶を交わす。
「待たせたな」
「随分と連れて来たな。何人いる?」
「治癒隊を除いて150ってところだ」
「こいつらは10人だぞ」
呆れる大隊長。
「マーギンがいれば何人居ようが敵わんだろ。生意気盛りの奴らを連れて来たからこの人数になったのだ」
「マーギンは戦闘に参加せんぞ」
「なんだとっ?マーギン、どういう事だ?」
「どういうことって、自分は訓練の必要がないですからね。訓練の補佐役に徹しますよ」
「それではこちらが過剰戦力ではないか」
「まぁ、別にいいですよ。想定では100人ぐらいかなと思ってたので、50人増えてもあまり変わりませんから」
「たった10人で150人相手に勝つつもりか?」
「これから増加する魔物相手に勝たねばなりませんので、相手が兵士といえど人間相手に苦戦するようでは話になりませんからね」
「ほう、随分と自信があるのだな」
「この数ヶ月で魔物討伐の基本は身に付いたと思いますので、なんとかなるでしょう」
そう答えるとマルクはニヤッと笑った。
「閣下、勝ち負けの条件を決めておきたいのですが宜しいですか?」
「構わんぞ」
「通常、軍隊同士の戦闘なら1/3の戦力を失ったぐらいで敗戦になると思うのですが、今回は将を討ち取られるか、全滅か降参で勝敗を決するのでいかがですか?」
「将は誰だ?オルターネンか?それともマーギンか?」
「うちの将はカタリーナですよ」
「なにっ?姫殿下を訓練に参加させるのかっ」
「姫様付の護衛訓練も兼ねますので、ちょうど良いのですよ。そちらの将は閣下で宜しいですか?」
「私が?」
「はい」
「マーギンは何をする?」
「軍人は木剣で斬られても、死亡していないと言い張りそうなので、死亡若しくは戦闘不能と判定した者を動けなくします。すぐに治療が必要な者は回収して治癒隊の所へ連れて行きます。こちらも治癒隊への攻撃はしませんので」
「わかった」
「治癒隊は忙しくなると思いますので、よろしくお願いします。では」
と、マーギンは勝敗条件等を決めてオルターネン達のところへ戻った。お互いの準備が整ったら戦闘開始だ。
「カタリーナ、お前、これ持っとけ」
「これ何?」
「軍配というものだ。これを持って皆を応援してやってくれ」
「わかったわ!」
そして向こうの布陣が整うのを待つことに。
「横陣で来るかと思ったけど、鶴翼みたいな布陣だな」
軍が取った陣形は両翼がやや前、中央が奥に少し下がり一番人数が多い。最後尾に弓隊と魔法部隊か。
「あれはこちらを囲む布陣か?」
と、オルターネンが聞いてくる。
「そうだね。両翼がこちらを左右に散らばらないように先に突っ込んで来て、挟み撃ちにした後に中央が突っ込んで来ると思う」
「盾と槍が一緒に突っ込んで来るのか。厄介だな」
「両翼は特務隊と星の導きが別れて止めようか」
「中央はどうする?」
「アイリスのスリップで先頭をこかせて団子にする。そこに唐辛子攻撃だね。中央がもたついたら、弓と魔法の援護射撃が入るんじゃないかな」
「両翼の味方も巻き込むのではないか?」
「盾を上に向けて防御するんじゃないかな。そうなればこちらも攻撃しやすくなる。こちらは矢と魔法攻撃は自力で避けて」
「無茶言うなお前」
「みんなそれぐらい出来るよ。シスコは唐辛子爆弾が炸裂したら風魔法で後方へ拡散、上手く拡散出来たらタジキとハンナリーが中央へ突っ込んでスロウの餌食にする。それにサリドンも一緒に付いてくれ。のろくなった奴らにファイアバレットをバンバン撃ちまくれ。トルクは向こうの弓隊と魔法部隊を射抜け。両翼が片付いたら中央の援護を頼む。アイリスは中央後方へ向かってファイアバレットを撃ち続けろ」
星の導きは向かって左、特務隊とカザフは右を担当する。
「ローズ、向こうはカタリーナを狙ってくるから守り切れ」
「わかった」
お互い準備が整ったと大隊長に合図を送ると、戦闘開始となった。
「いけーーっ!」
カタリーナが軍配を前に出して応援する。まるでカタリーナの指揮で戦闘が始まったかのように見えるから不思議だ。
軍は想定通り両翼が突っ込んで来た。盾槍盾槍と交互に並んだ軍人達がうぉぉぉっと叫びながら突っ込んで来る。
こちらはバネッサとカザフが突っ込んで来た軍の前をスタタタタッと横切りながらクナイを槍持ちに投げて仕留めて行く。槍でクナイを弾くのは無理だろう。
先頭の槍使いがやられた後に左はロッカが、右はホープが突っ込んでいく。
「フンッ」
ドゴッ
ロッカが盾持ちの盾の上にヤ◯ザキックをお見舞いした。その盾持ちは自分の盾が顔面に当たり吹き飛ぶ。やべっ。
マーギンはサッと、その盾持ちの所に行き回収して治癒隊の所へ。鉄の盾を顔面に食らったから結構ヤバいのだ。ロッカ達には軍人がケガをしても気にするなと言ってあるので、慌てることなく、そのまま戦い続けている。
右のホープはロッカのような力技ではなく、盾と盾の間をすり抜けて、盾持ちを後から倒し、そこへオルターネンが突っ込んでいく。後方からはカザフのクナイの援護だ。左はロッカの薙ぎ払いと、バネッサのバーサーカー状態でもうすぐ殲滅出来そうだ。
「突撃ーーーっ」
中央が一気に突っ込もうとした瞬間、
「スリップ!」
ズルん ドシャっ
「うわぁぁぁっ」
想定通り団子になる中央部隊。
ヒュンヒュンヒュンヒュン
シスコとトルクが唐辛子弾頭の矢を射った。それをアイリスとサリドンがファイアバレットで狙い撃つ。
ボヒュッ ボヒュッ ボヒュッ
唐辛子弾頭が敵の上でファイアバレットで撃ち抜かれ熱でガス化する。
「うっぎゃぁぁぁっ 目がっ 目がぁぁぁぁ」
のたうち回る中央の敵。シスコはそれを風魔法で後方へ流す。
「まずいっ。奴ら何を使ったのだ」
マルクは相手が毒を使ったのだと思い、指揮を取る。
「風魔法でガスを向こうへ押し戻せっ。弓隊は中央の前へ乱れ射って援護しろ。敵に中央突破させるなっ」
魔法部隊の風魔法使いが詠唱を始める。シスコの風魔法が先に唐辛子ガスを後方まで送り込み出した頃に魔法部隊の風が発動。これが悲劇を生んだ。
シスコの風と魔法部隊の風がぶつかって相殺するのではなく、その場で渦になったのだ。
「うっぎゃぁぁぁっ ゴフッ ゴフッ 息が息がっ」
後方に居た剣士達が唐辛子ガスの渦に飲まれ阿鼻叫喚となる。
「うわっ、どうしようこれ…」
マーギンはここまで唐辛子ガスが効果を発揮するとは思っておらず、あわあわするのであった。
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