静かなる圧

「もう召し上がらないようであればあちらでお話をさせて頂こうかしら」 


「あのっ、あのっ」


何か言い訳をしたいが、何も思いつかないマーギン。


「こちらへどうぞ」


「あ、はい…」


王妃の静かなる圧に負けて連行されて行く事に。


「お、おい。マーギンが連れていかれちまったぞ」


バネッサがシスコに耳打ちする。


「あなたが余計な話をしたからでしょ。だから連れて来ない方がいいってマーギンに言ったのよ」 


「う、うちのせいにすんなよっ」


王の御前でも喧嘩を始める二人。


「やめんか二人共。ここをどこだと思っているのだっ」


それをロッカが止めるいつもの流れ。


「よいよい、今日は無礼講だと許可をしておる。カタリーナ、お前の身勝手な振る舞いが皆に迷惑を掛けると何度言ったらわかるのじゃ?」


「だって楽しいじゃない」


どこかシスコに似ている姫様。




ー中庭にあるガゼボー


王妃は人払いをする。


「マーギンさん」


「は、はいっ」


クスクス


「そんなに緊張しなくても宜しくてよ」


「え?」


「カタリーナは他の兄妹から歳が少し離れていましてね、私達も末っ子だからと甘やかしてしまったのね。ご迷惑を掛けてごめんなさいね」


「いえ、年頃の女の子はあんな感じなのかなぁとは思いますけど、迷惑とかは思ってません。アイリスとかも成人したとはいえまだ子供ですし」


「そうね、20歳くらいになる頃には女性らしくなってくれるかしら」


「そうかもしれませんね。自分は男兄弟だったのでよくわかりませんけど」


「そう、マーギンさんはどこの国のご出身かしら?」


「えー、この大陸ではない日本という島国です」


「どうやってこの国に来たのかしら?この国から他大陸がないか調査の船を出したのがいずれも戻って来ていないのはご存知かしら?」


「その話はちらっと聞いた事があります」


「そう、ご存知なのね」


もしかしてこれは庶民が知っている情報ではなかったのか?しまったな…


「申し訳ないけどマーギンさんの事は調べさせて頂きましたの。約4年前にふらっと我が国に現れ、夜のシャングリラと繋がりを持った後にリッカの食堂と懇意になった。魔法書店を経営し、バウム家の客人になった。ここまではあってるかしら?」


「はい」


「王も私も別々に諜報員を持ってますのよ。それも優秀な」


「先日の護衛訓練を見守っていた方ですね」


「ふふふ、出て来なさい。あなたの事はバレていますわよ」


布で顔を隠した人が王妃の前に跪く。


「申し訳ございません」


「マーギンさん、あなたは相当優秀ですわね。王もこの諜報員の事は知らないのですよ」


「では他の方は王様の諜報員ですね。この方の気配とは異なりますので」


「あら、あっちもバレていますのね」


王妃がパッと手を払うと消える諜報員。かなりの手練れだ。


「で、あの者達に調べさせてもあなたがどこからやってきたのか掴めませんでしたの。どうやって来たか教えて下さらないかしら?」


マーギンは素直に大隊長に話した事を王妃にも話す。


「まぁ、転移魔法なるものがあるなら足取りが掴めないのは当然ですわね。マーギンさんも使えるのかしら?」


「はい。しかし、転移魔法も万能ではありません。どこにでも行ける訳ではないのと、自分は転移酔いというのをしますので転移した後は気分が悪くなって気を失うのです。ですからほとんど使った事はないですよ」


 「そうなの。では元の国に帰る事も不可能なのですわね」


「そうですね。どこにあるかもわかりませんし、私を飛ばしたのは私の魔法の師匠ですから。戦闘はともかく残念ながらこの手の魔法は師匠には敵わないのです」


「その魔法の師匠は男性かしら?」


「女性ですよ。10年強の月日をずっと一緒にいました。魔物の討伐をしたり、魔道具開発をしたりとかの日々でしたね。毎日のように怒られてましたよ」


「そう、楽しい日々だったようですね」


マーギンは自分でも気付かないうちに笑顔で話していたようだ。


「まぁ、最終的にその師匠に飛ばされたんですけどね。何か気に触った事を自分がしたのでしょう」


「その方は貴族?」


「いえ、宮廷魔道士ではありましたが身分は平民です。私と師匠は魔物討伐パーティメンバーの補助担当だったんです。師匠は魔物を弱体化させる役目、私はメンバーを強化する役目です」


「他のメンバーは貴族?」


「はい。他の4人は貴族でした。剣の師匠も剣士も凄い人達でしたよ。私も剣を習いましたが、才能が無いと途中で稽古を打ち切られました」


「だから丸腰でしたのね」


「持っていた剣はあげてしまいましたので。剣も使ってくれる人に持っていてもらった方が幸せだろうなって」


「それがバアム家のオルターネンとフェアリーローズなのね」


「はい。あの二人は努力家ですし、腕も良いです。騎士として皆を引っ張っていって下さるでしょう」


「フェアリーローズとは恋仲かしら?」


「いえ違いますよ。ローズの事は好きですけど自分は身分も違いますし、それに自分はまだ成さねはならぬ事が残っているようなので色恋とは無縁なのです」


「成さねばならない事とは?」


「それはまだ確認中です。成せたのか成せなかったのかがよく分からないのですよ」


「教えて下さる事は可能かしら?」


「確認出来たら報告させて頂きます。未確認のまま報告すると混乱を招くかもしれませんので」


「かなり重要なことなのね?」


「はい。後5年ぐらいで判明すると思いますのでそれまではご容赦をお願いいたします」


「正直に話して下さってありがとう」


「こちらこそ、図々しくも王妃様と直接お話をさせて頂き申し訳ありませんでした」


と、ここで話が終わったと思ったマーギン。


「あっ、そうそう、責任はどう取られるおつもりかしら?」


「え?」


「訓練時にカタリーナを抱き上げた事は不問にいたしますけど、先程のはちょっとどうかしら?」


「い、いや、自分から何かをしたわけでは…」


「マーギンさんなら避ける事も可能でしたわよね?騎士や魔物の攻撃はものともせずに避けられるんですから、小娘の一人や二人避けるの事は造作もない事でしょう?」


「いえ、あの…」


「カタリーナの胸は育っていたかしら?」


「まぁ、少しは…」


つい本音が出るマーギン。リッカやアイリスより育ってんなとか思ってしまったのだ。


「いっ、いえ、その。女性として感じた訳ではなく、親のような感じで…」


「まぁ、そういう事にしておきましょう。これからもカタリーナを宜しくお願いいたしますわ」


何をお願いされたかわからんけと、はいとしか返事が許されない雰囲気であった。


王妃との話はここで終わり皆の所に戻ると、バネッサが王様とめっちゃ盛り上がっている。


「で、マーギンの野郎がよぉ」


バネッサは王様の背中をバンバン叩きながら楽しそうに盛り上がっている。何をやらかしているのだお前は?


「ロッカ、お前がいながらバネッサを野放しにすんなっ」


「マーギン、戻ったか。いや、陛下がマーギンの話を聞きたいと仰られてな、バネッサのやつがあることあること話しているぞ」


あることないことではなく、あることあることというのがヤバい。


「マーギン、女性に向かって宝石が欲しければ脱げとか言ったそうじゃな」


王様から嫌な言葉が聞こえてくる。


「言ってません」


「嘘つけっ、バスタオル巻かずに出てこいとかも言ったじゃねーかよっ」


こいつ…


「おまえ、パンツ履かずにケツ丸出しでトイレから出てきたじゃねーかよ」


「それは言うなっていっただろうがぁっ」


「部屋からはボロ布みたいなパンツとか出てくるしよっ。ちい兄様に教えるからな」


「殺すっ」


「暴れたらパラライズして乳揉みしだいてやるからな」


「くそっ、卑怯だぞこのスケベやろうっ」


二人が王の前で下品な喧嘩をしだした。


「マーギン、流石に無礼講が過ぎるぞ」


大隊長に嗜められ、あっ、と我に返る。


「も、申し訳ございません…」


「随分と仲が良いようじゃな」


「いえ… そんな事は…」


ごもごもと口ごもる二人。


「バネッサさん」


王妃がバネッサに声を掛ける。


「はっ、はい」


「その耳に付けているのは真珠かしら?」


「そ、そうです」


「ちょっと見せて下さらない?」


「は、はい」


バネッサも王妃の圧に逆らえず、また借りてきた猫のようになり、王妃のそばに行く。


ビクッ


王妃に耳を触られてビクつくバネッサ。


「へぇ、耳に直接付けているのね。どうなってるのかしら?」


「耳に穴をあけてピンで刺してあるんだ…です」


「耳に穴を?痛くないのかしら?」


「マーギンにやってもらった時は全然痛くねぇ…なかったです」


「この真珠もマーギンさんが?」


「は、はい。ピンも作ってもらいました」


「素敵ね、とてもよくお似合いよ。これは服を脱いだ報酬かしら?」


「王妃様、そんな事はさせてませんよ。バネッサの妄想です」


「言ったじゃねーかよ」


「初めはお前が金につられて勝手に脱ぐとか言い出したんだろうが」


「お前がバスタオル巻かずに出てきたら全部やるって言ったんだろうが」


また喧嘩を始める二人。


「ゴホンっ」


大隊長が咳払いをする。


「王妃様、確かにセクハラまがいの事をバネッサに言った事は多々ありますが、冗談なんです。こいつは女として警戒心がなかったので少しは警戒させてやろうと思っただけなんですよ」


「うちの腰が細いとか、手がちっちゃくて可愛いとかも言ったじゃねーかよ」


「あれはお前に新しい武器をやろうと思った時に想定していより細かったのと手が小さかった事に驚いただけだ。勘違いすんなっ」


また言い合いが始まりそうなので王妃が質問を続ける。


「この耳飾りはマーギンさんが着けてあげたのね?」


「あ、はい。初めだけです」


「随分とバネッサさんに優しいようですわね」

 

「そ、そんなんじゃ…」


「家にお邪魔したときにバネッサはマーギンに髪を乾かしてもらったりしているわよね」


「あれはこいつがビチャビチャのままで出てくるからだろっ。ガキ共と変わらんからだ」


「髪なんてほっときゃ乾くのにいつもマーギンが勝手にやるんだろっ」


シスコ、この状況で〈だって面白いじゃない〉はやめろ。それにバネッサもいつもとか言うな。毎日お前の髪を乾かしていると思われるじゃないか。


「スターム、庶民はこういう事が普通なのかしら?」


「ち、違うと思います」


いきなり話を振られて慌てる大隊長。


「シスコさんもマーギンさんに髪を乾かしてもらったりするのかしら?」


「私とロッカはドライヤーで乾かしています」


「ドライヤーって?」


「マーギンの作った髪を乾かす魔道具です」


「へぇ、そんなのがあるのね。髪を乾かすのって時間が掛かって面倒だと私も思ってたのよ」


これは献上しろということなのだろうな。


「お、王妃様にもお届けさせて頂きます」


「あら、いいのかしら?ではお願いついでに手持ちの宝石をバネッサさんの耳飾りみたいにもして下さる?」


「台座も作れなくはないですが、極簡単な物しか無理です。お抱えの彫金師に作ってもらった方が宜しいのではないでしょうか」


「台座は宝石を邪魔しない程度の物で構わないのよ。ちょっと、いくつか持って来なさい」


そういうと、ササッと宝石が持って来られた。


「マーギンさんはどれが似合うと思います?」


「お立場がある王妃様は公務や普段使い等を使い分けられるのではないですか?」


「では私的な時間に楽しむ物を選んでみて下さらない?」


「私が選ぶより王様か同性の方に選んでもらった方が良いと思います。私は宝石には疎いのでよく分からないのですよ」


「いいのよ、異国の方だとどういう物を選ぶか興味がありますの」


俺が異国人代表と思われるのも忍びないな。


「えー、ではこの赤色のがお似合いかと思います」


王妃は大きな子供がいる割に若々しいし、透き通るような色白美人だから濃い赤色の宝石が映えそうだ。


「ふふふっ、私は口説かれているのかしら?」


「口説く?」


「まぁ、こういう事はご存知ではないのですね。では、これをバネッサさんみたいにして下さいな」


もう言われた通りにするしかないので、使い道のないアリストリア王国の金貨を溶かして台座を作っていく。


「珍しい金貨をお持ちですのね。それを使ってしまって宜しくて?」


「この国では使えませんので大丈夫です」


「もし、まだお持ちならこの国の金貨と交換して下さらない?」


「構いませんけど…」


1枚だけで良いと言われたので交換すると執事が持ってきたのは大金貨だった。まぁ、相手は王妃だ、遠慮なく頂いておこう。


そして完成したピアスを着けて下さらない?と言われたのを断って、メイドさんに着けてもらうのであった。

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