第25話

松明の灯りを頼りに一行は穴の中を進んでいく。

あれかじめディオが予想していた通り、穴の中はそれまでの一本道とは違い随分と入り組んでいた。


少し進めば道が二つに別れ、時には三つに。

誰かを選んでまた別れ道を進んでも再び別れ道が発生するか、完全な行き止まりに差しあたる。


トムが道中作成する地図を頼りに、一行は一番最初の分岐点を「起点」として片っ端から道を潰していった。


一先ず突き当たりに当たるまで進み、行き止まりを見つけたらそれを地図に書き込んで起点まで戻り、また別の道を行くの繰り返しである。


それは相当に時間と根気のいる作業だったが、現状ではそれ以外に取れる手段はない。


その道中にもアリの魔物は出現していたが、その数がそれ以上増している様子はなかった。


しらみつぶしに内部を進むディア達にとって、魔物の数が多くないのはありがたいことではあったが、違和感もある。


「本当に大量に増殖してるのか? さっきからちらほらいるだけで増えている気配はないぞ」


地図を担当しながらトムが言った。

彼は念のため魔物が現れた場所まで地図に書き込んでいた。


それによれば、魔物の出現位置は一定の間隔で空いている。


「魔物の大量増殖」を想像していたため、トムはダンジョンに入った途端大量の魔物に囲まれることも覚悟していた。


それだけに、肩透かしを食らったような気になる。


魔物の数が増えないのはディオも気がかりではあった。


内部で大量に増え続けていると予想したのはディオだ。その予想が外れていただけならばいいのだが、この状況では別の可能性も考えられる。



「もしも俺の予想が当たっていたとして、それでも今この内部に相当する数の魔物がいないのだとしたら……奴らはもうすでにダンジョンの外に出ていることになる」



ディオの言葉に全員が唾を飲み込んだ。

「大量の魔物がダンジョンの外に出た可能性がある」


その行き先は? 目的は?

考えなくてもその答えは簡単に出る。


ダンジョンから出た魔物達は既に一つの村を壊滅させたのと同じように人間を狙って町や村を目指すだろう。


「まずいですね……付近の村やドルミィの町は駆け出しの探索者が防衛にあたっていますが、彼らの中にも事情がよくわかっていない者が多い。襲撃しにくる魔物の数が多ければ彼らでは対処できないでしょう」


焦った様子でアクエルが言う。

焦っているのはディオも同じだった。


まだ、ダンジョンの奥にアリ達が固まっている可能性もあるが、既にダンジョンから出ている可能性の方が高い。


そしてそれはディオの予想よりも遥かに早かった。


「どうする? 今からでも戻って町の防衛に行くか?」


トムが尋ねる。ディオはすぐに決断した。


「いや、このまま進む」


と。

その決断の理由には色々あるが、一つは今から戻っても町の防衛には間に合わないだろうという考えがある。


ディオ達がダンジョンにたどり着いた時、もう既にその中に魔物の大半がいなかったのならばディオ達はダンジョンに向かう道中のどこかで魔物の大群とすれ違ったことになる。


それから既に何時間か経っているのだ。となれば、魔物達はもう既にドルミィの町のすぐ近くまで到達していてディオ達が戻った頃にはもう戦いは終わってしまっている可能性が高かった。


また、ディオ達は少数精鋭でこのダンジョンに挑んだ。

全員で戻っても守れる範囲には限りがある。

なんとかドルミィの防衛に間に合ったとしても、その周辺の村々には手が回らないだろう。


それよりとディオはダンジョンを進むことを選択した。


「今魔物が何体外に出ていようが関係ない。このダンジョンをクリアし、ダンジョンが消滅すれば外に出た魔物も共に消滅するはずだ」



そうディオは魔物達が町や村を遅い始まるよりも前にダンジョンをクリアすることにしたのだ。


そうと決まれば今までのように魔法や魔法具で魔物の動きを止めている時間はもうない。


考え方を変えれば、大量の魔物が出払っている今こそダンジョンをクリアするチャンスなのだ。


ディオは町で購入した魔法具を取り出した。


それは「浮靴」だった。

リリアや他の駆け出しの多くが身につける探索者の基本装備の一つだ。


リリアの持っているものと違う点を上げるとすれば、性能が段違いにいい。


リリアの靴は体をほんの少し浮かせる程度で、基本的には落とし穴などの落下系の罠を回避するためにある。


しかし、ディオが町で購入したものは最新の技術を使用して、魔石もそれなりに大きいものを使用している。


そのため、効果は体を一定時間完全に浮かせることができるほど強くなっている。


これも落とし穴を回避するための魔法具だが、探索者の中では風の魔法などを推進力にして一定時間空を飛ぶなど別の使い道もされている。


当然相当に値が張るものだが、ディオはこれをギルドと定めたダンジョン攻略の条件で、必要経費として購入していた。


ただ、この魔法具はディオのいた時代にはなかった物。


興味が惹かれ念の為に持ってきてはいたが、いきなり使うつもりはなかった物だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る