第19話
マートンが依頼を出した王都からの探索者たちはどんなに急いでもあと二日はかかってしまうらしい。
ディオはもともと魔大樹の道に挑むつもりでいた。
「魔物侵攻」について詳しくない今の探索者ギルドではどうしようもないだろうと思ったのが理由の一つ。
もう一つは王都の町を目指すにあたり、このままドルミィの町が混乱に陥っているのは都合が悪い。
そして最後に純粋に未だ攻略されていないであろうダンジョンに興味があった。
つまり、ギルド側がこれ以上何も言ってこなくてもディオは力を貸していただろう。
「ぜひ、このままダンジョン攻略の方でも力を貸していただきたい」
とマートンが頼むのでディオは条件を二つ提示することにした。
一つ目はダンジョンに挑むための装備や薬等の準備に必要な額とそれに加え今後の生活資金となるのに十分な額の報酬の支払い。
もう一つはダンジョンで見つかった魔石や魔法具の類のおよそ三割を貰い受けることだった。
「三割で良いのですか?」
条件を聞いたマートンは呆気に取られた顔をする。
なにしろ彼にとってディオは意味のわからない緊急事態の最中に現れた英雄のようなもの。
王都の実力派パーティーに依頼を出したとはいえ彼の力がなくては先に進むのは難しいと考えていた。
ダンジョンから出たものを全てよこせと言われても断ることはできないような状態だった。
「基本的には探索者の報酬は『早い者勝ち』というのが俺の時代の決まりだった。しかし、今はまた時代が違うだろう。それに、壊滅した村の復興にも費用がかかるだろう。三割もあれば十分だ」
ディオの本心だった。
現状困っているのは生活費くらいのもので、ダンジョンに潜るための魔法具は不足がちではあるが困っているほどではない。
それに「全てを寄越せ」と言えばギルド側と少なくとも摩擦が生じてしまう。
「ここは一先ず恩を売っておこう」
という考えだった。
話はまとまり、ディオ達はドルミィの町の探索者向けの宿に案内してもらう。
荷物を起き、一息ついてもまだ日は明るかったのでディオはリリアと共に町の魔法具店に向かうことにした。
「マートンさん、エルフ族だったんですね。私初めて見ました」
リリアの心臓はまだドキドキしていた。
初めてみた種族に場もわきまえず興奮したというのもあるが、単純にマートンとディオのやり取りにハラハラしていた。
また、王都からの探索者パーティーが到着した後ディオが同行してダンジョンに潜ることが決定したため緊張もしていた。
わざわざマートンの種族を話題に出したのはその緊張を和らげようと無意識のうちに話題をそらしたのかもしれない。
「そうだな……。俺の時代でもエルフは滅多に他族に姿を表さなかったからな。ギルドリーダーは見た目的にちょうど二百歳歳前後だと思うがそれでもエルフの中では若い方だ」
ディオの説明を聞き、リリアの方から思わず「二百歳……」と言葉が漏れる。
ディオは「見た目から」というがリリアにはどうみても二十代半ばにしか見えなかった。
これも経験の差というやつだろうか。
「彼らは成長のスピードがとても遅いからな。長寿のエルフともなれば八百から千年は生きると聞いたこともあるな」
ディオの方から出てくる信じられない年数にリリアは口を閉じるのも忘れて驚く。
そして、その少し後になって
「あっ」
と短く声を出した。
何事かとディオが顔を向けると、ニコニコしながらその視線を合わせてくる。
「それなら、もしかするとディオさんのことを知っている方がまだ生きているかもしれませんね」
純真な笑みを見せるリリアに思わずディオも笑ってしまう。
別にたった一人になって「寂しい」と感じていたわけではないが、彼女が「寂しいかもしれない」と気を遣ってくれているのが嬉しかった。
「そうだなエルフか……でもエルフに知り合いはいな……いや、いるな」
何かを思い出したようにディオの表情が暗くなる。
リリアは心配そうに彼の顔を覗き込んだ。
「ディオさん?」
「いや……なんでもない。ただアイツなら生きていても不思議じゃない……でも会いたくもないな」
ディオは明らかに動揺した。
今までとは違う狼狽えた姿にリリアは一瞬キョトンとした後なんだかその姿がおかしくてくすくすと笑ってしまう。
リリアが笑っていることに気づいたディオは平静を装って取り繕っていたが、少し恥ずかしそうに頬をかく。
「しかし、そうか。リリアから見れば千年生きた長寿のエルフも俺もそう変わらないよな。いっきに爺さんになった気分だ」
特に気にしているわけではなかったが、話題を変えるためにディオは言う。
「爺さん」という言葉にリリアは少しドキッとする。
リリアの聞いた話が真実なら、ディオはリリアにとってのご先祖様。広い意味で言えば「おじいちゃん」になる。
ディオがそういうつもりで言ったのではないとわかっていても少し驚いてしまった。
ディオはそれに気づいた様子はない。
「そうか……おじいちゃんか」
聞こえないくらい小さい声で呟いてからリリアはディオの後ろをついていった。
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