魔物侵攻

第16話

最初の予定では一行がドルミィに滞在するのは一晩だけの予定だった。

千年前の世界から突然やて来たディオという存在の扱いに困ったウェインがその対応を王都のギルド本部に任せるために最短の予定で馬車を手配したからだ。


しかし、思いがけずその予定は滞ってしまう。

町に馬車が入った時、衛兵に言われたのだ。


「あんたたち、この先の町にはしばらく進むのはやめときな」


リリアがその理由を衛兵に尋ねると、衛兵は驚くようなことを言う。


「近くの村が魔物に襲われて壊滅しちまったんだ」


と。


「魔物はダンジョン内にのみ存在していて、その外に出てくることはない」というのは探索者だけでなくこの世界に暮らす人たちが持つ共通認識である。


「魔物は日の光が苦手」だとか「ダンジョンのように魔力の濃いところではないと生きられない」など様々な説があるが、実際に魔物がダンジョンの外に出たという実例はギルドの把握している限りない。


だから村が魔物に襲われたと聞いてリリアが驚くのも当然だが、彼女が驚いたのはそれだけが理由ではなかった。


ギービナの町でディオが自分のことを話した時、その中に「故郷の村が襲われた」という話があった。

あまり詳しくは聞いていなかったし、正直なところ「何かの聞き間違いだろう」と半信半疑だったからだ。


ディオの時代では魔物が外に出てくることはさほど珍しいことではなかった。

もちろん、良くあるような話ではなかったし村一つが壊滅するというのは初めて聞いたが、ダンジョン外に出た魔物による被害の話は何度か聞いたことがある。


ディオには探索者がダンジョンの攻略を目指すのは魔物がダンジョンの外に出て人々に危害を加えるのを防ぐためだという認識があった。

「ダンジョンは攻略すると消えてなくなる」というのが彼にとっての常識で、「攻略をしなければダンジョンが増えて外に出る魔物の被害が増える」とも思っていた。


だから衛兵の話を聞いた時、ディオは「やはりな」と思った。この時代は外に出た魔物による被害が深刻化しているのではないかという危惧はギービナでウェインと話をした時から持っていた。


しかし、リリアがあまりにも驚いているので不思議に思い、その理由を彼女に尋ねる。

そしてリリアが「魔物がダンジョンの外に出るなんて話、今まで一度だってありません」と説明するとディオの表情が変わった。


「リリア、頼みがある。この町の探索者ギルドに案内してくれ。ギルドリーダーと話がしたい」


険しい表情でディオはリリアにそう言った。


リリアは町を歩く探索者らしき人にギルドの場所を聞き、そこにディオを連れていった。


ギルドの扉を開けると中には明らかに忙しそうに働くギルド職員たちと妙に緊張感を纏い殺気立っている探索者達の姿があった。


リリアはその様子に委縮する。

探索者たちの視線が入って来たリリアとディオに向けられている。


ドルミィの町の探索者ギルドに来るのはリリアはこれが初めてだったが、雰囲気がギービナとは明らかに違う。


それが先ほど衛兵に聞いた事件のせいだっとわかっていてもその迫力に圧されてしまう。


そんな中をディオは意にも介さずに受付まで突き進んでいく。

リリアは慌ててその後をついていくが、そこからがまた不安だった。


殺気立った探索者たちとは別に緊急対応で寝る間も惜しんで働いているであろう職員にどう声をかけるべきか悩んだのだ。


現状、自分は駆け出しの探索者。となりにいるディオは存在すら不明。

そんな自分たちがギルドリーダーに話があると言って取り次いでもらえるのか。

素性を説明しようにも信じてもらえるかもあやしく、話が長くなればあしらわれる可能性すらある。


意を決してリリアは職員に声をかける。


「すいません! ギービナから来ましたリリアと申します。それからこちらはディオさん。村が襲われた事件のことでギルドリーダーさんと話をしたいのですが……」


一人の女性職員にそう話しかけると彼女は嫌な顔をした。


「この忙しいときに……」


とリリアが想像した対応と同じような様子だった。

しかし、その顔が一瞬固まり次に一瞬明るく晴れる。


そして大慌てで手に持っていた書類を受付のカウンターの上の投げ出すと


「すぐに戻ってきますのでお待ちください!」


と叫び、奥へ猛スピードで消えていく。

予想外のその反応にリリアはほっとするよりも先にあっけにとられてしまった。

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