第9話 夜のひと幕

「へえ、道乃丈くんったら献精バスのお姉さんに逆ナンされたの?(ゴゴゴゴ……)」


 この日の夕飯後。

 献精バスのお姉さんに早速メッセージを送ろうとしたら、それをソファーの後ろから夜見にジトッと覗き込まれ、その件を知られてしまったのが現状である。

 別に隠していたわけではないし、あとで言おうと思っていた。しかし夜見の圧が強すぎて道乃丈はさながら蛇に睨まれた蛙が如くだ。


「道乃丈くんったら酷い、酷いわ……私というものがありながら、ドンドン女性の輪を広げようとしているだなんて……(ゴゴゴゴ……)」

「……おねえは別に道乃丈くんの彼氏じゃないじゃないですか……」


 キッチンで麦茶を飲んでいる潤葉がツッコむ。

 静観する道乃丈をよそに、夜見は「……まあね」と一応頷いている。


「私だって別に道乃丈くんがそうやって人脈を広げていくのを悪いことだとは思っていないわ。道乃丈くんは色々失っている状態のようだから、それを補っていくのは大切よね。……だけど」

「……だけど、なんですか?」


 道乃丈がおずおずと訊ねると――

 

「――私のことを疎かにするのはダメ……♪」


 ハイライトの消えた眼差しが向けられ、道乃丈は「ひェ……」と震えてしまう。


「聞けば道乃丈くん、今朝は潤葉ともハッスルしたみたいじゃない?」


 知られていたらしい。

 潤葉が教えたのかと思って潤葉に視線を向けてみるとフルフルと首を振られた。

 ということは……?


「紗綾がね、あなたたち2人のことをコッソリ見ていたみたいなの」


(ふぁっ!?)


「こんな動画が送られてきたのよ」


 夜見がスマホを操作し、画面はこちらに見せないまま音声だけが流れ始める。


『わ、わたしたち外でシちゃってますね……♡ んっ♡ 道乃丈くんは、んんぅ……き、気持ち良いですか?♡』

『ヤバいですっ……キツキツで……っ』


「「あああああああああああああ!!!」」


 動揺した道乃丈と潤葉がスマホの音声を打ち消すように叫ぶ。

 夜見はその動画を眺めつつ、


「……このあと2人は1回戦では終わらず、ムッツリ大爆発の潤葉が襲う形でゴムが一個しかなかったのに2回戦を行ってしまうわけよね。最終的にはお外にぴゅっとしたみたいだけど、そんなの完璧な避妊にはならないのよ? 分かってる潤葉?」

「は、はい……」

「あなたは輝かしい将来のために今は頑張るべき時期なんだから、ゴムは必ずしなさい」


(夜見さんの姉らしい姿を初めて見た気がする……)


「生搾りは私の役目♡」


(……姉らしい姿が刹那で消えてしまった(白目))


「さあ道乃丈くん……そんなわけで――私とシましょうか♡」

「どんなわけですか……まぁ構いませんけど、その前に一旦献精バスのお姉さんとやり取りさせてください」

「――むっすー!!!」


 年甲斐もなく子供のように頬を膨れさせる夜見なのであった。



   ※



 さて。


【わ、連絡ありがとー♪】


 夜見が邪魔してきそうにないマンションの外に出て、献精バスのお姉さんにメッセージを送ってみたところそんな返事が返ってきた。


【伊勢川道乃丈くん、だよね? 私は浦西うらにし咲奈さきな。ねえ、みっくんって呼んでもいい?】


 咲奈と言うらしい彼女はいきなりフレンドリーであった。

 もっとも、昼間に出会ったときからそうだったと言えるが。


【みっくんで大丈夫です】

【やったー! じゃあお近付きの印にコレどうぞ♡】


 そんな文面のあと、1枚の画像が添付されてきた。

 その画像はなんとえっちな自撮りである。

 昼間に会ったときと同じく可愛い系の黒髪ショトカお姉さん。

 そんな彼女が鏡越しにスレンダーな裸体を晒していた。

 一応、指で上手いこと際どい部位は隠した状態だ。

 エロスとテクニックが融合した1枚と言える。


【どうかな? そそる?】

【よ、良きモノかと】


 昼間の献精時に裸体をまじまじと確認済みだが、やはり何度見ても良い。

 さながら猫のようなしなやかさが感じられ、下品ではないえっちさに溢れている。

 何がとは言わないが、道乃丈はふっくらしてきた。


【ありがとー♪ 近々この身体を堪能させてあ・げ・ちゃ・う♡ でもでも、私結構忙しいから明日とかは無理なのね? 週末って空いてる?】

【全然空いてます】

【おっけー! ほな週末会うことにしよっか😳】


 トントン拍子で女性と会う予定が組まれていく。

 元の世界ではあり得なかったことだ。


(……こっちの世界だと男性の性欲が減衰してるって話だから、僕は相対的に男性ホルモンが多いだろうし、それが女性を惹き付ける状況を生み出しているとか?)


 言うなればサキュバスが使ったりする魅了チャームを自動付与されているような状態かもしれない。


 ともあれ、細かいスケジュールは後日決めることになり、ひとまず咲奈とのやり取りは終了した。


「――あ、ミチオじゃん。ちょうどよかった」


 そんな折、紗綾がこの場に現れた。

 金髪ウルフカットの前髪を軽く上げてヘアピンで留めており、眼鏡も掛けていて、プライベート感が満載だ。

 そんな紗綾に対して、道乃丈は言いたいことがあった。


「紗綾さん……潤葉さんとの隠し撮り、酷くないですか?」

「あ、ごめん。監督の血が騒いでちょろっと絵に収めたくなってさ……そのお詫びと言っちゃなんだけど、ちょっと良い提案をさせてよ」

「良い提案……?」

「実は今日マンションの部屋がひとつ空いたから、その部屋ミチオに貸そっか? タダで」

「――っ。え……それは、いいんですか?」

「だって夜見ちゃんの部屋に3人で住むのさすがにキツくない?」

「まぁ……キツいですね」


 元は単身用と考えると、明らかにキャパオーバーだ。


「でしょ? だから遠慮せずに使いなよ。夜見ちゃんは寂しがるかもしんないけど、別室に移住するだけなんだからいつでも会えるしね」

「……でもホントにタダでいいんですか?」

「もち。……あ、でも、家賃代わりに遺伝子ぴゅっぴゅしてもらおっかな♡」


 それはあまりにもお安い御用と言えたので、このあと夜見とヤるよりも先に紗綾とハッスルした道乃丈であった。

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