第29話『真の勇者を決める戦い 前編』
その翌日。俺たちは城の中庭へと足を運ぶ。
そこにはクラス委員長の
周囲には無数の騎士たちが俺たちを見守るように立っており、一段高い場所には国王陛下とカナンさんの姿も見える。
「
昨日と同じ赤い鎧を身にまとった天は、他のクラス役員たちの先頭に立って、自信に満ちあふれた声を上げる。
一方、俺の背後に隠れるようにしている
正直、俺も心臓がドキドキしていたけど、それを悟られないように必死だった。
「二人とも、頼むよー。
その時、わずかに声を震わせながら希空が言い、俺たちの手を握ってきた。
次の瞬間、ほのかな虹色のオーラが俺たちを包み込む。
「え、ちょっと希空」
思わず声をあげるも、彼女は口元に指を立てたあと、俺たちにしか聞こえない声で『保険』と呟いた。
「ほーれ、頑張ってこーい!」
打って変わって笑顔になった希空に背中を押され、俺たちは天たちの前に立つ。
「女に励まされないと前に出られないのか? 国王陛下、そろそろ始めてよろしいでしょうか」
小声で俺を皮肉ったあと、天は壇上の国王陛下に問いかける。
「そうだな……皆の者、準備は良いか?」
会場全体を見渡しながら投げかけられた言葉に、俺たちは頷く。
最後の一人になるまで戦い、真の勇者を決める……なんて言ってはいるものの、彼らはパーティーを組んでここまでやってきたようだし。俺たちを集中的に狙ってくることは容易に想像できた。
それは橘さんにも伝えてあるし、それなりの対策も考えてある。
「それでは……始め!」
ややあって、国王陛下の声が高々と響き渡った。
俺たちの間に流れる空気が、一瞬にして緊張したものに変わる。
天は無数の剣を操るスキルで、
……この世界にやってきてすぐ、俺たちは彼らのスキルを一通り見ている。
その一方で、彼らは俺たちのスキルの詳細を知らない。
つまり、開幕が勝負の分かれ目になる。
俺と橘さんは瞬時に目配せし、右手を重ねる。
……次の瞬間に閃光と衝撃波が走り、俺たちは合体した。
「……!?」
突如として姿の変わった俺たちを見て、天たちは一瞬うろたえた。俺たちはその隙を見逃さない。
『あの四人との距離はだいたい10メートル。フォトン・ブレイズの射程圏内。防御魔法の展開はなし』
「ありがとう。威力は中程度で、気絶させる程度に……!」
橘さんから情報を得た直後、俺は彼らに向け光弾を飛ばす。
四人はそれぞれ、高速で飛来する光弾を避けようとするも……自動追尾能力のついたフォトン・ブレイズからは逃れられず。井上さんと佐々木さんが光に弾かれるように地面に転がった。あの二人は脱落と見ていいだろう。
「ちいっ……!」
その一方で、寸でのところで巨大な剣を盾にした天と、その背に庇われた新田さんは無傷だった。
「な、何よ今の……遠距離攻撃なんて聞いてないわよ! いでよ、ティアマット!」
顔面蒼白の新田さんがその右手で魔法陣を描くと、それは一瞬で巨大化。そこから深緑色の巨大なドラゴンが姿を現した。
以前、オルティス帝国の召喚の間でも見た竜だ。
『ティアマット。竜族の上位モンスターだね。麻痺効果のあるブレス攻撃が怖いけど、ここだと自分たちにも被害が出るから使わないと思う』
「ありがとう。防御面は?」
『硬いウロコは脅威だけど、両足は比較的柔らかい。動きも遅いから懐に飛び込めればなんとかなるよ』
「わかった。やってみるよ」
続く橘さんの説明を頭に入れながら、俺はライトニングギアを発動した。
これはライオットソード装備時専用のスキルで、一定時間超高速での移動を可能とするものだ。一度使用するとしばらくリキャスト時間があるのが欠点だけど。
俺は一瞬でティアマットに肉薄すると、目にも留まらぬ速さでその両足を斬りつける。
「グアァァ……」
神経の集まる足への攻撃が堪えたのか、ティアマットは苦しみ悶え、頭を下げてくる。
それを見逃さず、俺は跳躍。その眉間に剣を突き立てた。
直後に雷撃が巻き起こり、目の前の巨竜は光の粒子となって消え去る。
「うそ……召喚獣を倒しちゃうなんて」
粒子をかき分けるように地面に着地すると、唖然とした表情の新田さんがそう口にした。
以前のカナンさんの話からして、これでしばらくあのドラゴンは呼び出せないはずだ。
「くそっ……使えねぇやつだな。新田、下がってろ。俺がやる」
ティアマットに対してなのか、新田さんに対してなのかはわからないけど……天はため息まじりに言って、俺と対峙する。
「お前ら、『合体』ってそういうことだったのかよ」
赤と青の二つの巨大な剣に守られながら、天はせせら笑うように言う。
あの剣、フォトン・ブレイズを防いでいたし、かなりの防御力を誇っているようだ。
「……ま、これでいい勝負ができるんじゃね?」
そう言うと、彼は右手を斜め下へ薙ぎ払う。直後、攻撃を知らせるアラームが鳴り響く。
「……!?」
見ると、俺の左上の空中にいくつもの剣が出現していた。
『高木くん、前に避けて!』
橘さんが叫ぶように言うも、回避は間に合わず。俺は盾を出現させ、雨のように降り注ぐ剣をなんとか防ぐ。
「あっぶなかった……」
地面に刺さった無数の剣に目をやると、それは光となって霧散していった。
「よく避けたな。これはどうだ?」
天は続いて右手を斜め下からすくい上げる。
すると再び警告音がし、今度は斜め下から無数の剣が飛んできた。
「……くっそ!」
盾と反対方向からの攻撃に、俺は前転しながらそれを回避する。
合体スキルの攻撃警告機能がなかったら、とっくの昔に貫かれて終わっていたかもしれない。
「そら! そら!」
その後も、天は絶え間なく攻撃を続ける。
それこそ上下左右から、幾度となく剣の雨が襲いかかってくる。
まったく近づけない。なんて攻撃だ。
『右に薙ぎ払うと……その逆は……下からで……』
そんな中、橘さんが何かぶつぶつ言っていたけど、今の俺に気にする余裕はなかった。
「このやろっ……!」
無数の剣雨の間を見て、光弾を飛ばしてみるも……彼の周囲を守る剣の盾に防がれてしまう。
先日の実績解除でチャージ時間が短縮されたとはいえ、現状チャージする時間すらない。このままだとジリ貧だ。
「はっはー、ゲームではお前に勝てなかったが、こっちの世界では俺のほうが上のようだな!」
余裕を見せつけながら、天は上機嫌にそう口にする。
あいつとゲームで直接戦った記憶なんてないんだけど、何を言ってるんだろう。
その矢先、天が右手を振り下ろす。
やがて降り注いだ剣を前方に駆けて回避した時、天が左手を突き出した。
「……うわっ!?」
すると、俺の前方に無数の剣が出現した。回避行動中で方向転換ができず、やむなく盾を前面に出して防御する。
なんとかその攻撃を防ぎきるも、エネルギーが尽きてしまったのか盾は消滅してしまった。
「ちっ……やったと思ったのに。防ぎやがったか」
……あいつ、左右の手で剣を操ることができるのか。
盾もなくなったし、これは本気でまずいかも。
俺が絶望的な感情に支配されかけた時、橘さんの声が頭に響いた。
『……うん。攻撃パターン把握した』
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