第14話

「剣聖様、どうして遠回りをするんですか?」


 メトは三歩先を歩くアナスタシアに問う。


「……」


 アナスタシアは答えなかった。

 否、答えられなかった。

 理由は二つ。

 ひとつは、彼女が人見知りだから。

 ハレ城では切羽詰まって口を開いたが、元来の性質は緊張しい。

 よく知りもしない人とふたりっきりで会話するのが怖いのだ。

 もうひとつの理由は、目的地に行きたくないから。

 領主の命で邪悪アトロの調査を任せられたが、は気が乗らないのだ。

 よってアナスタシアは黙秘を貫いた。


(ごめんよ~~、メト君が嫌いで黙ってるんじゃないんだよ~~。分かってくれ~~!!)


 念を送るアナスタシア。

 一方のメトはと言えば、あまり気にしている様子もない。


「そういえば、剣聖様が寡黙な事を忘れていました。三年前の出立の際もそうでしたし、王都ロンムロへ至る旅の道中でもそうだと聞きました」


(確かに、そうだった気もする)


「助けを求める声に駆け付け、何を言うでもなく邪悪アトロを倒し、名乗りもせずに去っていく。剣聖様は英雄の鑑ですよ」


(ただ人見知りだからできるだけ話したくなかっただけなんだよなあ……)


「そうして後から英雄の名が広がっていって、今ではこの国で知らない人がいないんですから。きっととても沢山の人が剣聖様に感謝してるんですよ」


(そんなに言われると照れちゃうな……!)


「ロンムロでの活躍もあって、国王様から烈風の剣聖という称号も与えられたなんて、本当に凄すぎますよ。僕らガーリッツ領……いや、チノーク国の誇りです!」


(烈風の剣聖……?いつの間に……。それにどこかで聞いたことがあるような……)


「ハレからの出立する時の名乗り、今でも覚えています!完コピできます!!」


(あの時は大勢の人がいて緊張してたから、私は覚えてないんだよな……)


「わ、わた、わがし、我が名はタタスタタタスタタン!北風の剣聖なり!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る