第12話

 アナスタシアは心の中で葛藤していた。


(ショタ!ショタが私の所に来る!?マジで!?いいの!?神様ありがとう!!グッジョブマジ神!!剣聖やってて良かったー!!いや、でも待てよ……。さすがにこの年齢差はヤバいか……?向こうは十三歳だから十歳差?これって犯罪か?いや、でもそんな、手を出すとかそういう訳じゃないしね?こう、プラトニックなお付き合いからたまのスキンシップなんてあったりなかったりするだけだし?もしかしたら偶然たまたまハプニングとかあるかもしれないけどそれはご愛嬌と言うか――)


 などと欲望と理性の狭間を彷徨い、腕を組んで考える素振りを見せる。

 彼女のその姿にメトは焦る。

 断られるかもしれない。

 稀代の剣聖に対し見返りのない要望を押し付けて困らせている。

 ならば、とメトは言葉を紡いだ。


「もちろんタダでとは言いません。剣聖様の身の回りのお世話や、家事、雑用、それら一切を僕がこなします。僕は食事の準備にも自信がありますから、剣聖様の好みの味付けを教えていただければきっとご満足いただけるものを提供できると思います!」


 メトは必死に自分の魅力を訴える。

 対して黒鎧で腕を組み、威圧感を醸し出すのはアナスタシア。


(ひとりで考え込んでたら勝手に条件が良くなっている……。断る理由がまるでない!これは逆に困った!!選択肢がイエスしか残っていない!!)


 揺れ動く心を何とか椅子に縛り付けて保っている。

 その様子が、気が乗らない意思表示だと判断したメト。


「そ、それではっ、僕がお金を払いま――」

「ダメだ!!」


 金銭を渡してでも剣聖と共に旅をしたいという少年。

 そんな少年の言葉を遮ったのがアナスタシアの女性にしては低い声だった。

 

(まっずい、いきなり大声出しちゃった~!驚かせてないかな?ドン引きされてないかな?嫌われてないかな!?ただでさえ好条件なのにこんなに可愛いショタっ子からお金を貰うなんてできるわけないでしょ~~~!むしろ払いたい!払わせて!!課金させて!!!)


「そう……ですか……」


 項垂れるメト。

 それを見下ろすようにアナスタシアは立ち上がる。


(あ˝あ˝~~~~違うんです~~~~!!お金がいらないだけなんです~~!一緒には居たいんです~~!!一緒にワインディングロード歩みたいんです~~!!!仕方ないこうなったらこっちから言うしかない。ここは大人っぽく、格好良く、アダルティに言おう。このショタっ子に憧れられるようなできる女を演じてみせよう

!!)


「ショt…………」

「しょ……?」


(危なかった!!完全にショタっ子って言うとこだった!!)


「少年」

「はい……」

「金は要らない」

「それって……」


 メトは潤んだ目でアナスタシアを見上げる。

 彼女は黒い布越しに少年と見つめある。


「私について来い」


 少年の顔が不安から安堵に、そして喜びへと変わっていく。


「あ、ありがとうございます!剣聖様の隣で、チノーク国最強の男とは何たるかを学ばせていただきます!!」


 その笑顔は邪心すら浄化できそうな、美しい笑顔だった。


 

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