終戦記念日か終戦の日か……、どちらでもよいのですけど。【短編募集】
主催者:卯月二一さま
なにやら流れでとれた今年(令和6年)の夏休みは終戦の日でした。
前日から「さて、せっかくなので相応しいところに行こうか」と考えておりました。
候補は2つ。
1つは遊就館。靖国神社の資料館ですね。零式戦闘機を含む様々な展示物があり、また、わだつみのこえのコーナーは涙なくしてはいられない特別な場所で、私には思い入れがある場所です。祖父が戦死しているので鎮魂の意味も考えておりました。
もう1つは地元の知らなかった戦争遺跡を回ることでした。
現在、ラブコメと称し、実際は日常ものの連載をしております。
https://kakuyomu.jp/works/16817330667423029957
女子小学生と大学生の犯罪にならないラブラブな日常
この中で神社だの史跡だのをよく回っているのですが、ネタ集めで調べているときに、私が住んでいるところからそう離れていない(普通の人なら離れているというでしょうが)柏市に秋水の燃料保管施設跡があるということを知ったのです。
秋水ですよ!
ロケット戦闘機Me163の資料を基に(基って言えるほど量はなかったらしいですが)作られた国産のロケット戦闘機です。
まあ、柏といえば帝都も航空機レベルでいえば近いです。迫るB29の編隊を切り取るにはロケット戦闘機があれば……と考えるのも分かります。このロケット戦闘機、とても危険な燃料なので人が触れると溶けてしまう(松本零士の戦場マンガシリーズにそういう話があります)という恐ろしいものですが、その代わりに石油依存ではないのでレシプロ機と燃料を取り合わなくて済むというメリットがあったのです。
しかし燃料の保管と運用は大変だしね……ロケット戦闘機は大食らいなのに3分くらいしかロケットモーター動かないしね、と様々な問題があった機体でもあったのです。なにしろ燃費を気にするあまり、離陸後は脚を切り捨て、着陸はそりでやろうってくらいのものですから、もともと余裕とかゼロの設計です。
よくもまあ、こんな問題だらけの兵器を1年で形にしたものです。日本の技術者の狂気が形になったといっても過言ではないでしょう。
さて、そんな秋水なので、さすがに実戦には出ませんでしたが、訓練部隊は存在しました。その1つが柏飛行場に存在したのです(余談ですが、同じロケット戦闘機でも固体燃料ロケットの桜花は実戦で使われたんですよ。しかも館山にも帝都決戦用に発射基地が作られていたんです!)。
知らなかったなあ。
しかも地図を見ると何度も何度も通っている街道筋から、ちょっと入ったところにある。
無知は罪です。
そう考えた私は遊就館は余裕があったら行くことにして、秋水の燃料保管施設跡へ行くことに決めました。
私の住んでいるところから秋水の燃料保管施設跡がある柏市花野井までは30キロちょい。大した距離ではありません。なにせカクヨム毎日投稿とかしていなかった頃は毎日それくらい自転車で走ってから出勤していたくらいですから。
しかし問題はこの暑さ。今日も暑くなる予報でしたので、諦めて朝5時半に出発しました。帰りに手賀沼の「鳥の博物館」に寄ろうかな~~と考えながらスタートです。
残念ながらやや向かい風でメーター読み時速24キロくらいで進み、途中、あまりに適当に走っていたので道に迷いつつ、2時間かからないで花野井に到着しました。
近くに旧吉田家住宅公園という江戸時代の名主屋敷があるのでその看板を発見。しかし早朝なので開館していないのでスルー。今、HPを見たらちょうど「陸軍柏飛行場と花野井の戦争遺跡Ⅱ」なる企画展をしているじゃないですか。これだから思い立ったら出発ってのが悪手なのですよ……
さて、おいておきまして、まず目指すは花野井交番裏。ブログとか見るとすぐに見つかるらしいです。
花野井交番に至る地方の幹線道路、国道16号を自転車で走りたくないときによく使う道です。よく知っているのに、こんな戦争遺跡があったなんてとまた悔しい思いをします。
交番を見つけて、隣のお宅の敷地越しに、大きなコンクリートの山が見えます。カマボコ状に奥まで続いています。
うわ。すぐに見つかったし、でかいわ……
裏に回って見てみるとカマボコ状の形状がうねって続いています。
なんでこんな形なんだろうと思いますが、何も書いていないので何も分かりません。それでも79年前の終戦間際、物資も人員も不足している中、こんな巨大なものを作るのにどれだけの労力を掛けたのか、そしてそれが全く役に立たなかったという事実を作った人はどう捉えたのか……
想像できません。
この辺に朝鮮人労働者の宿舎があったらしく、建設に動員されていたようです。
歴史の事実をどうこういうのは他の人や専門家に任せるとして、「朝鮮人」とひとくくりにされていたようです。歴史は今に続いています。お隣の国との関係を考える上で押さえておくべきことではないでしょうか。
探索を続けます。
畑の中にパイプが突き出ているというところがあるらしく、行ってみます。GPSを持ってるのに持ってこなかったことを後悔しつつ、スマホで検索しつつ行ってみると、MAPは険しい傾斜の上にそれがあるといいます。幸い階段があります。階段を上り、途中にどう見ても当時の遺構があることも見つけ、その跡、台地の上にある畑の中の巨大なコンクリート製パイプ5本を発見します。
畑の中なので近くまで寄るわけにはいきません。ブログとかに結構寄っている画像がありますが、畑の持ち主の許可を得てるのかしらといろいろ考えます。
考えてみれば、このパイプが出てるってことはこの畑の下に燃料保管施設跡があるってことです。どのくらい広いんだろう。見当も付きません。
もうお日様は上がっており、畑には蜃気楼が立っています。
蝉の声も聞こえてきます。
79年前も大して変わらない風景だったんだろうなと思うと感慨深いものがあります。
階段を降り、他の人の探索記録を参考に、台地の斜面を眺めていくと、何カ所もコンクリートの塊を見つけることができました。もしかしたら当時建設された階段かもなんてものもありました。
台地の上は密集した住宅街です。
ここの住人たちはこのコンクリートの構造物をなんだと思っているんだろう。陸軍の施設だなんて思ってないんじゃないかなあ、と思えました。
私だって、ほとんどニアミスしていて気がつかなかった戦争遺跡です。興味がなければなお、目に入っても見ようとはしないでしょう……
建造されてから79年。コンクリートの構造物の上にはぽつぽつと住宅があります。大丈夫なんだろうかと思いつつ、秋水の燃料保管施設跡をあとにします。
次の目的地は少々離れていますが、柏の陸軍飛行場跡地に行きます。
今は千葉県立柏の葉公園になっているそうで、柏の葉公園総合競技場はジャパンラグビーリーグワンや全国高校サッカー選手権大会で使われるらしいです。そのほか学校なども周囲にあるので、私の地元の市川市国府台の陸軍基地と同じような流れで戦後は推移したことが分かります。
その公園の前の直線道路がどうやら滑走路らしいのです(一部)。
柏の葉公園前の広い2車線道路に行くと、確かにまっすぐ。これは滑走路っぽいなあと思いつつ、北の端まで行きます。ちょっと曲がっていることが分かります。
研究されているHPを見るとこの曲がっているところは滑走路ではないようで、滑走路はひたすらまっすぐあったようで、本当に一部だけのようです。
それでもこの滑走路で一式戦闘機隼から五式戦闘機まで飛んだかと思うととても感慨深いものがあります。
秋水は飛ばなかったようですが、練習機の軽グライダー「秋草」の訓練は行っていたようで、写真が残っています。
柏の葉公園は蝉の声が満ちていました。
戦争を考える――とよくいいます。今もウクライナ、ガザで悲惨なことが続いています。しかしウクライナもガザも大陸を隔てた距離があります。同じではありませんが、ここから戦闘機が飛び立っていた79年前とは時で隔てられています。
しかし、日本人であることと、この場所にかつて軍の飛行場があったことは時空的に連続しています(ウクライナ、ガザだって同じ地球上だしね!)。
人間は、知ってさえいれば、そしてそうしようとさえすれば、いつだって振り返ることができるんです。
こうして、過去を振り返りに、ただまっすぐな道路を見に来ることだってできるんです。
その先で、何をどう感じるのかは個人の自由です。
なので今回の私は、同じ日本人に思いを馳せます。
今の紛争地に対し、日本人は何ができるのか……ウクライナの安価な農作物の恩恵に預かっていた日本人が、今、何を考えられるのか。イギリスの暗躍でできたイスラエルのために人権侵害に苦しんでいる(イスラエルの人だって苦しんでるのでしょうがレベルが違う)ガザの人たちに何を考えられるのでしょうか。
それをかつての戦争の当事者として考えるのと、それを捨てて、または知らないで考えるのとでは雲泥の差があるのではないかと思います。
まず足下を見つめて、自分たちもかつては被害者であり、かつては加害者であり、なにより戦前にその道を選んでしまったのが1人1人の一票の結果であるということを確認していただきたいです(もちろん他にも要因はありますが……)。
その上で、今の投票率の低さを憂います。
投票率が上がれば、政治も変わらざるを得ません。どうあっても。
今、日本人としてできること、それは「投票」だと思います。考えたくもないですが、今、棄権することが、後世の歴史では「無責任」と言われる時代が来るかもしれません。そうならないように、何も変わらないなんてはずはないので、棄権だけは辞めましょう。できれば我々が賢明な投票ができるように候補者の方々にも尽力いただきたいですが。
その上で、政治がダメだったらそれはみんなの責任だと諦められるじゃないですか。
終戦の日に考えるのは、どうやら日本国民としての自覚だったようです。
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