第97話 絶望の帰還
レーベンの実がないことを理解してから、どれくらいの時間が経っただろう。
一時間? 二時間? いや、十秒すら経っていないのかもしれない。
時間がわからなくなる程、俺はショックを受けていた。
だけど縁もゆかりもない俺がこれだけショックを受けているということは、関係者であるフィーナのショックは計り知れないだろう。
フィーナは先程から瞬き一つせず、ただレーベンの木を見つめていた。
これからどうするべきか。
俺は頭の中で、エルフ達が大勢亡くなることを想像してしまった。
もう俺には何も出来ないのか?
いくら神聖魔法でもそんなに都合がいい魔法はない。
このまま何も出来ず、里に帰るしかないのか。
いや、俺は何も出来なくても他の人なら何とか出来るかもしれない。
「フィーナ⋯⋯一度里に戻ろう」
「そうね⋯⋯レーベンの実を持ち帰ることが出来なかったことを報告しないといけないわね」
「違う。それもあるけど最長老様やフェリに相談してみよう。レーベンの木はここにあるんだ。あの二人なら何か良い方法を考えてくれるかも」
二人は五千年前から生きているんだ。もしかしたら俺達が思いつかないことも知っている可能性がある。
「無理よ。今から里に戻ってフェリ達をここに連れて来ても、時間が足りないわ。フォラン病の薬を作るには一日半くらい必要なの」
「だったら木を持っていけばいい」
「木を持っていくってそんなこと⋯⋯あっ!」
どうやらフィーナも気づいたようだ。
俺はレーベンの木に手を置く。そして異空間へと収納するのであった。
「これでいい。異空間の中は時間が流れていないから枯れることもない」
レーベンの木は種から芽にするのは大変でも、大樹になれば安定して育てられるってフィーナが言っていた。そのため、ここにある一本の木をエルフの里に移しても問題ないだろう。
そこで最長老様とフェリに見てもらおう。
「さあ、急いでエルフの里に戻ろう」
「ええ」
こうして実のついていないレーベンの木を異空間に収納し、俺達は急ぎエルフの里へと足を向けるのであった。
エルフの里に戻ると、既に辺りは夕陽で照らされており、俺達はフィーナの家へと向かった。
ノアの探知能力で調べてもらったら、そこに最長老様とフェリがいると教えてくれたからだ。
「おかえりなさいませ」
フィーナの家の前に到着するとリズが俺達を出迎えてくれた。
もしかしてリズはずっと外で待っていてくれたのだろうか。献身的なリズならあり得そうだな。
「ただいま」
俺はリズの言葉に応える。するとリズは慌てた様子でこちらに駆け寄って来た。
「ユート様! 大丈夫ですか! フィーナさんもいっぱい血が服に!」
そういえば服が汚れたままだったな。
「ちょっと爪で引き裂かれたけど、今は魔法で治したから何ともないよ」
「私はユートの血がついただけだから、傷一つ負っていないわ」
「ユート様の血が⋯⋯それはどういう状況だったのでしょうか?」
「べ、別に大したことじゃないわよ! それよりフェリと最長老様はいる?」
フィーナは顔を赤くして誤魔化そうとしている。
思わず抱きついてキスしてしまったことを思い出してしまったのだろうか。
俺も何だか顔が暑くなってきたぞ。
「わかりました。お呼びしてきますね」
リズはフィーナの慌てた様子を特に気にせず、家の中へと入っていく。
そして一分程経つとフェリと最長老様を連れて、リズが戻ってきた。
「どうやら
「それは本当ですか! さすが神剣に選ばれた英雄じゃ!」
「ユート様おめでとうございます」
三人はとても喜んでくれているが、今はそのことより伝えなくちゃならないことがある。
「でも、レーベンの実が一つも生ってなかったの」
「何だと! それではフォラン病にかかったエルフ達は⋯⋯」
「一応レーベンの木は持ってきたので、何か実を取る方法があったら知りたくて⋯⋯とりあえず木を見てください」
「木を見る? ユートは何を言ってるのだ?」
説明するより実際に見せた方が早いだろう。
「フィーナ、ここに出してもいいか?」
「いいわよ」
俺は家主に許可を得たのでフィーナの家の庭に、異空間に収納していたレーベンの木を出す。
「な、何だと! 何もない所からレーベンの木が!」
「なるほど。異空間収納魔法じゃな」
最長老様は驚いているけど、フェリは冷静だ。どうやらフェリは異空間収納魔法のことを知っていたようだ。
「本当にユートは規格外の存在だな。それにしてもレーベンの実が一つもないか⋯⋯おそらく
「
そういえばフィーナから
でもまさか全部食べてしまうとは。
「残念だが、わしはレーベンの実を復活させる方法はわからん。このまま時間が経てば、自然に実が生るとは思うが」
それでは遅い。フォラン病にかかっている人を救うには、今必要なのだ。
「フェリはどうかな? 何かこう神樹の妖精の力で、実を作る方法とか知らないかな?」
俺は一縷の望みをかけて問いかける。
だがフェリから返ってきた言葉は、とても残酷なものだった。
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