第90話 のんびりしている暇はない
翌日の朝食の後。
今日は
昨日、一昨日とは違って、霧は全く出ていなかった。
これは絶好の討伐日和だな。
「そろそろ行ってくるよ」
リビングでゆったりと過ごしている中、俺は立ち上がり宣言する。
リズの膝の上にいたノアと、フィーナに撫でられていたマシロは俺の元へと来た。
二人がいると俺も心強い。
ディバインブレードで倒すつもりだけど、何が起こるかわからないからな。
「神剣があるとはいえ、
「でもやるしかありません。フォラン病にかかっているエルフを助けるためにも」
「倒す算段はついておるのか?」
「ええ。どんな相手での油断すればその強さは半減するかと」
人間ならともかく魔物がそう簡単に油断することはないだろう。だけど
「お主が全てを背負う必要はないぞ。ダメなら戻ってくる勇気も必要じゃ」
フェリアリア様の言うとおり、策が嵌まらなかった時は一度戻るべきだろう。
俺はそう答えようとするが、この時フィーナの家に乱入者が現れた。
「た、大変です!」
突如家に入ってきたのは、若そうな男のエルフだった。
いったい何事だ?
ノックもしないなんて、このエルフはかなり慌てているように見える。少なくとも良い予感はしないな。
「こ、国王様と王妃様の容態がステージ四へと移行しました!」
「なんですって!」
ステージ四? どういうことだ? フォラン病のことなのか?
エルフの話を聞いて、フィーナが床に膝をつく。
「そ、そんな⋯⋯もう時間がないわ」
「国王様と王妃様だけではなく、多く者がステージ四に⋯⋯」
時間がない? やはりフォラン病の病が進行したということか?
「ステージ四は心臓付近の筋力が衰えているということじゃ。ここまで来ると、治療しなければ三日は持たんと言われている」
俺が疑問に思っていることをフェリアリア様が答えてくれた。
「三日って⋯⋯」
これはのんびりしている暇はないということか。これはダメでも一度戻ればいいという考えは捨てた方がいいな。
大丈夫⋯⋯今の俺ならやれるさ。
俺は自分を奮い立たせる。そして床に膝をついたフィーナに手を差し伸べた。
「後三日あるなら、その前に治療すればいいだけだ。必ず漆黒の
「ユート⋯⋯」
俺はフィーナの手を掴み立ち上がらせる。
「そうと決まれば行動あるのみだ。行くぞ。マシロ、ノア」
「私にかかれば余裕ですね」
「僕も微力ではありますが、頑張ります」
俺達は皆に見送られながら、フィーナの家を出て西側に向かう。
だがこの時俺は違和感を感じた。何故なら俺の背後にはマシロ、ノアとは違う二つの気配を感じたからだ。
「どういうこと?」
そう⋯⋯何故かリズとフィーナが、俺の後について来ていたのだ。
「私には魔素が効きません。どうか一緒に連れて行って下さい」
「いや、魔素より漆黒の
「そんなあ⋯⋯」
魔素は効かなくても、リズは戦う力を持っていない。もし突然リズが漆黒の
「私はユートが止めても行くわよ」
問題はフィーナだな。そこそこ戦う力はあるけど漆黒の
それにリズは聞き分けがいいけど、フィーナは聞き分けが悪そうだ。
「大丈夫。漆黒の
「本当に?」
「ええ⋯⋯それにユートはレーベンの実がどれかわからないでしょ」
「た、確かにそうだな。でもレーベンの実がどんなものか教えてくれれば⋯⋯」
「お願いユート! あなたの指示に従うから私も連れていって! それにエルフの問題をユートだけに押し付ける訳にはいかないわ」
俺は神剣を抜いてしまったことで、漆黒の
もしかしてそのことを考慮して言ってるのかもしれない。傾国の姫と呼ばれたフィーナがいれば、フィーナにも非難がいくからな。
だけど裏を返せば、フィーナがレーベンの実を手に入れることが出来れば、フィーナには称賛の声が集まる。
ここは多少のリスクを省みても、フィーナに来てもらう価値があるかも。
「わかった。フィーナ、一緒に来てくれるか」
「もちろんよ。任せて」
「フィーナさんだけずるいです。私もエルフの方達のために何かしたいのに⋯⋯」
リズが頬を膨らませて、むくれてしまった。
正直そんなことをしても可愛いだけなのだが。
「今度何か埋め合わせをするから、今回は諦めてくれ」
「わかりました。それでいいです。でも絶対に無事に帰って来て下さいね」
「ああ。約束する」
こんな所で死ぬつもりはない。俺のスローライフ生活はまだ始まってないからな。
そして俺達はレーベンの実がある西へと足を向ける。
「ちょっと待つのじゃ」
だが今度はフェリアリア様に呼び止められてしまった。
「フィーナが行くならこれを授けてやろう」
フェリアリア様の手には一本の矢が握られていた。
「これは?」
「これは神樹で作られた矢じゃ。黒の法衣を破ることは出来んが、漆黒の
見た目はただの木の矢にしか見えないが、フェリアリア様が言うなら間違いないだろう。
「フェリアリア様。ありがとうございます」
フィーナはお礼を言いながら矢を受け取ろうとするが、避けられてしまった。
「フェリアリア様?」
「それは誰のことを言ってるのじゃ? 神樹の矢は貴重じゃからのう。我は親しき友人にしか渡しとうない」
「えっ? えっ?」
フェリアリア様の突然の言動に、フィーナは混乱している。
なるほど。そういうことか。
俺はどうしてフェリアリア様⋯⋯いや、フェリがこのような行動に出たか理解したが、フィーナはわかっていない。
「フェリ、意地悪しないで上げてくれ」
「ユート、フェリアリア様になんて口の⋯⋯あっ!」
どうやらフィーナも気づいたようだ。やれやれ⋯⋯フェリも意外と可愛らしい所があるじゃないか。
「え~と⋯⋯フェリありがとう。大事に使わせてもらうわ」
「うむ」
今度は素直に神樹の矢を渡してくれた。どうやらフェリはフィーナに、友人のように接して欲しかったようだ。
本人もフェリと呼ばれて、とても嬉しそうだな。
こうして俺達はリズとフェリに見送られながら、漆黒の
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